044 疾風のように現れて・・・
疾風のように現れて・・・
「しっかし いつになったら現れるんかね、皇都からの使者ってのは。えっと確か 子爵が二人、公爵閣下の護衛として…っておい さっきの一行」
「はっ、まさか」
「おいおい、やべぇことになっちまったかもしんねぇ」
「ですが隊長、仮にも公爵ご一行が わずか二名ばかりの護衛を連れて領地の内情調査にやってくるものでしょうか」
「その二名が 問題なんだ。さっきの馬車の中の二人、俺から見りゃ底知れぬ強さを持っていると見た。爺さん、あんたは どう見たよ」
「はっ!わたしの見解に過ぎませぬが おそらく 我ら騎士隊全員でかかっても おそらく みな返り討ちでしょう」
「だよな、俺を含めて…」
「たくよぉ、うちのご領主さまも なんだって 出迎えに行けなんて命令を出したんだろうな。しかも出来れば チッタの町で 歓迎の宴を開き もてなすようにと。その間に 領地から新たに正規の部隊を向わせるだなんてよう」
「そうですな、しかも我が部隊と言えば、寄せ集め部隊と揶揄されておりますな」
「まるで何か…うーむ」
「おい爺さん、どうした」
「いえ、少しばかりキナ臭さを感じてしまいましてな」
「おう、かまやしねぇ。爺さんの思うところを言ってみな」
「おそらく 出迎えの我が部隊には いまだ 跳ねっ返りの…身分至上主義の者どもが半数を三割近くを占めております、中には 竜皇国へ参入したことをいまだよく思っていない者どもも降ります故」
「おう、続けてみな」
「もしかすれば、その跳ねっ返りの者どもが なにか問題を起こしたとすれば…」
「すれば?」
「隊長、あなたもお人が悪うございますな。もう既にお気づきなのでしょう」
「まぁな。俺の考え過ぎなら それで良かったんだがな。爺さん、あんたまで そぉいうならちげぇねぇや」
「そうですな」
「これは 我が部隊の壊滅を狙ったものなのか、それとも…こっちの方は、考えたくもねぇが…竜皇国への決起反乱か」
「よし、引き上げだ。こんなお役目、やってられっか。」
「と、申しますと」
「おうよ、我ら第三騎士隊、二週にわたって皇都からの使者殿ご一行を待てど そのお姿未だ見えず、隊員たちの士気も下がり任務遂行に支障をきたし始めた故、いったん領都に戻りますってことで 帰るぜ」
と、そこまで隊長が言い終えたところに
「隊長さん、帰られちゃ困るんですよ」と騎士その二が、長剣を構えて 隊長に突きつける。
「おい、てめぇ いったいどういう了簡だ」
「おっと、そこのロートル。あんたも 動くんじゃねぇ」
「貴様、隊長に向って何をしてる」
「あぁ、やだやだ、これだから愚民共が のさばってる部隊に入るなんてのはごめん被ると言ったんだがなぁ」
「おめぇ、自分が 何やってるのか解ってんだろうな」
「あん?ここで 成り上がり者の騎士隊長殿とロートルの一人や二人、始末したところで 何も困ったりしねぇんだよ」
「なるほどのぉ、目的は この部隊の壊滅なんてもんじゃなく わしらを始末することにあるとな。よくも こんなつまらぬことを…」
「何言ってんだよ、このジジイが」
「てめぇらなんざただのおまけよ。行きがけの駄賃ってやつさ」
「なるほどな、こういう筋書きか。出迎えに出た騎士隊、その中の隊員が 皇都からの使者に無礼を働きお手討ちに。隊を率いていた隊長及び副官は 当然任務に失敗して更迭。あわよくば 無礼を働いたのが 隊長の俺と副官である爺さんか。で、この筋書きにゃもう一つあって、皇都からの使者は無礼を働いた者によって 傷を負わされる、あるいは、お命まで」
「いずれにしても なんだ。竜皇国との仲は 最悪な状態にってワケか」
「誰が 考えたかわかんねぇけどよ、この筋書き考えた奴ってのは まったく持って現実が見えてねぇな。竜皇国ってのはな、たかだか モンド・グラーノが 喧嘩売って 勝てるような相手じゃねぇんだよ。おめぇも まんまと乗せられたってわけだ」
「どうも貴族主義、身分至上主義のやつらってぇのは 現実が見えてねぇもんが 多すぎて困る。だいたいなぁ、あんたらの国へ 仲間に入れてくれつって頼んだのは 前国王だぜ。それを ちょっとばかし立ち直ったからってな、後足で砂かけるような真似、犬畜生にも劣るってもんよ。」
「隊長さんよぉ、言いたいことは それだけか」
「そうだなぁ、まぁ 何にしたって おめぇは ここで終わりだってことよ」
「なんだと?」
「周り見てみな」
「おめぇの仲間な、全員倒れてるぜ」
「い・いつの間に?」
「だから 言わんこっちゃねぇ」
「よっ!あんた隊長さんだったんだなぁ」
「それと 爺さん。いいところ教えてくれて あんがとよ」
「何が起きたのか、解ってないようだな。あんた」と騎士その二に向けてタケが言う。
「どういうことなんだよ、これって一体どういうことなんだ!!」
「そうですね。あなたたち第三騎士隊?でしたっけ」と隊長さんの方を見て確認をとるミキ。
「あぁ」
「では、あなたたち第三騎士隊を装った盗賊団は、旅の行商人を襲い失敗、全員捕縛された、ってことでしょうか?」
「「!」」
「それで よろしいのか?」
「えぇ、わたくしどもは 皇都よりモンド・グラーノへ向けて 先々の町で行商を行っている者にございます。こちら 皇都よりの鑑札にてお確かめいただければと存じます。」
「この捕縛した盗賊の一味をお引き渡ししてもよろしいでしょうか?」
「あっ、あぁ。それで構わぬ」
「あと取り調べのおりには、皇都からの視察官殿にも立ち会っていただくようお願い出来ますでしょうか」
「そ・それは…」
「うむ、そちらもお引き受けしよう」
「その方が、お互いのためかと存じます。元・モンド・グラーノ共和国騎士爵ジラーノ・ギムレット殿、そして 元・モンド・グラーノ共和国グラーノ辺境泊サイラス・グラーノ殿」
「「知っておられたのか」」
「商人にとって 情報収集は必須ですので」
◇
「此度の件、ほんとうに これで宜しかったので」とサイラス騎士隊長
「えぇ、旅に危険は つきものでございます、ただし冒険者では ありませんので 極力危険は排除せねばなりません。彼のものたちを あなた方の手に委ねるということを あなた様なら きちんと理解していただけると信じております」とミキが言う。
「さて ヒサさんや、タケさんや。ぼちぼち 参りましょう」
◇
「いかがなされました、隊長」
「爺さん、いまは 普通に話してくれよ」
「では、サイラス坊、恐ろしいまでの手際の良さでしたな」
「あぁ、竜皇国には、エリステル陛下は 別としてもあれほどまでの 使い手がいるとはな」
「穏便にすませて貰った、あれだけの人数を一瞬にして 捕縛してしまうとは。しかも 誰に気付かれることなく。斬って捨てるのは 簡単なんだがな、それでも 時間がかかる。そして 範囲砲撃魔法は 殲滅戦に用いることがあっても 被害も大きい。そして 余計な者も呼び寄せる。俺も 多少魔法を使うが あのレベルで魔法を使ってしまえるとは…ほんとにただの商人なのか?」
「先ほど 見させて貰った鑑札には、皇都『エチゴヤ商会』商会主ミキとあり申した」
「おい、エチゴヤっていやぁ、あのライト・エールのエチゴヤだぜ。」
「あと魔道具もですな」
「そして お供の二人は…ヒサにタケ。一流の中の一流。超一流ってやつじゃねぇか。傭兵グループ『雷鳴の響鬼』リーダーとサブだぜ」
「爺さん、俺たちゃ薄皮一枚で助かったみてぇなもんだな」
「ほんとですわい」
◇
さて 次回は 何故ミキたちが 隊長と副隊長の危機に間に合ったのか?その舞台裏を明らかにするという話でございます、えっ ピンチに颯爽と駆け付けるのって ピンチに陥ったのがヒロインの時だけだって?まぁ そういうこともありますね(影)