035 そろそろ参りましょう
二人が たどり着いたその先に見たものは…。
画像は、あくまでイメージです。実際の風景とは異なることがございます。
「きれい~、なんだかとっても心が落ち着く景色だね」
「ここね、わたしのお気に入りの場所なの、むしゃくしゃしたり、嫌なことがあってもここに来て この景色を見ていると あぁ、明日も頑張らなくっちゃって思えてくるんだ」
「あっ、その話し方が 普通なの?」
「ふふ、さてね。わたしだって 女将なんて呼ばれているけどたまには 女の子に戻りたいときだってあるんだよ」
きらきらと光る水面、そして夕陽の輝きを浴びてミキを見つめてくるベルニーニの姿は、幻想的な雰囲気を醸しだし、とても魅力的に映った。
そんなベルニーニから寄せられる期待を受け止め…
「ベルさん、こんな素敵な場所に連れて来てくれてありがとう。ベルさんの宝物なんだよね、ここって。そして そんな宝物を僕に 触れさせてくれてとってもうれしい。帰りにも絶対、絶対ベルさんの宿に泊まるから、またここに来てもいいですか?一緒に…」
逃げた、逃げました…女の子の気持ちに気付いていながら逃げてしまうミキ。へたれだねぇ
さて ベルニーニはというと
「ほんとですね、絶対の、絶対ですよ!!」と微笑みとともに返すのだった。
(ごめんね、ベルさん。ベルさんの優しさに甘えてしまう形になってしまって)と心の中で謝るミキであった。
そのあとは、とりとめもない話を…お互いの趣味だとか 好きなモノだとかを話し合って どちらからともなく
「そろそろ「帰ろっか」」と、まったく気の合うことで…帰り支度を始めるのであった。
◇
ヴェスドラッヘの町・中央区 入り口
「おやま、お二人さん。こんな時間まで 何処へ行ってたのかな?かな」と訊いてきたのは、ノーザンである。
「あっ、ノーザン姉さん。今日はね、ミキさんに この町の案内をしてたんだよ。」
(姉さん?)と思いはしたが、それを口に出すほど野暮じゃないミキである。
「そうかい、そうかい。それは 良かったね。これで 一安心だよ」どこか訳知り顔で うんうんとうなずくノーザン。そして ベルニーニの口調が 女将としての口調でないことにもしっかり気付いていながらもそれを 口にしない空気の読める
「ところで 姉さんは?」
「あたしゃ、この間ロビーナの店を留守番したときに お客から頼まれた言伝をロビーナに言うために出てきたんだよ。」
「あっ、それだったらロビーナさん、いまうちの宿にいてくれてるんです」
「そうかい、なら一緒…」(なんて言える訳ないじゃないかね)と言おうとして、「そうだったそうだった、あんたの宿に行くんなら ちょっと持っていきたいモノもあるから あとでお邪魔するわさ」とその場を去っていくノーザンである。
「あれ、どうしたのかしら?」と小首を傾げるベルニーニに苦笑を返すしかないミキであった。
「あぁ~、楽しかった一日も もう終わりだね」
「楽しかった、ですか。良かった。町の案内なんて お願いしてしまって。」
「ぜんぜん。町の案内なんて 言ってながら、いろんなモノが見られて とっても楽しかったし、それに…これ」と髪飾りにさりげに手を触れるベルニーニ。
「わたし、男の人からプレゼント貰ったのって初めてだったんですよ」と衝撃発言。
実は、町の男たちはお互いが牽制しあい、訳のわからない協定を結んでいたりする。まぁ そんなこともあって すっかり年頃の時代を宿の女将という立場で 過ごしたロビーナであったりする。まぁ、下手な牽制なんてするもんじゃないって話ですよ。そんなことしてると、どこの馬の骨とも解らない見た目イケメンな男にかっさらわれていくのが落ちですね。おっと失礼(影)
◇
「ただいま~、ただいま戻りました。」
「ロビーナさん、今日は一日 ほんとにありがとうございました。(小声)おかげで気持ちの整理もつきました」
「そうかい そうかい。ほんとに よかったよ。おや、あんたその髪飾り?」
「はい、ミキさんにプレゼントしていただきました」
「おやおや、ミキちゃん。あんたも隅に置けないねぇ」
「な・なにを 仰っておられるのでございましょう」といきなり自分に話が回ってきてあせるミキ。
「何、あわててんだい。そりゃそうと 今夜の宿の夕飯は、どうするんだい?」
「あっ、もしよろしければなんですが…今日は 僕に 夕飯を作らせて頂けないでしょうか?」
「あんたが?かい」
「ええ、僕こう見えても 料理大好きなんです。もちろん ここの宿のご飯に比べれば たいしたことありませんけど。結果的には よかったかもしれませんが みなさんを振り回してしまいましたし。ベルさんには 今日町の案内をしていただけましたし」
「そうさね、あたしゃ このミキちゃんの手料理食べてみたいな。どうする、ベルや」
「そんな、でも…」
「でもも ヘチマもないよ。はっきりおし。こんなチャンス滅多にあるもんじゃない」
「はい、お願いします!」とロビーナの勢いに押し切られて ミキの夕ご飯に賛成するベルニーニであった。
◇
「おまちどおさま~、さぁさ、みなさん お食べください」と言いながら 次々と料理を運んでくるミキである。
メインは、ミキが食べたかった『唐揚げ』と『一口カツ』、副菜には、『大根の煮付け』、『菜の花のおひたし』それと『コンソメスープ』そして エールのともに『枝豆』といったメニューである。もちろん 唐揚げは、鶏の肉でなく、異世界産『ポッロ』というこれまた鶏によく似た鳥である。また一口カツには、『マイヤーレ』というこちらも豚さんによく似た生き物である。まぁ 異世界定番のオーク肉とか、コカトリスのお肉でなかったというのは、この世界に感謝である。まぁ 他の野菜もそれぞれ よく似たお野菜たちであったりするのだけれど、まぁ その辺りは いずれまた。果たして語られることがあるのか(影)
「ミキちゃん、この唐揚げっていうの?すっごく美味しい。カリってしてて中は、柔らかで。それに こちらの一口カツだっけ?これも すんごく美味しいわよ~」とは、ロビーナである。
「若、この枝豆ですかい?冷えたエールとよく合いますなぁ」とは、ヒサの談である。
「ダンナ、ダンナ。あっしは、この菜の花のおひたしっていうのが またすんごく気に入りやした。っていうか やっぱダンナって…「ジロ」はい、すいやせん」とタケ。
「あたしまで、お相伴にあずかっちゃっていいのかしらねぇ、けど本当に美味しいわよ。あたしは、この唐揚げが とっても気に入ったわ」
「さぁさぁ、ベルさんも、シオールさんも食べてくださいな…」
「ねぇ、ミキさん。お願いがあるのだけれど」
「な・なんですか…そんな
「えぇ、「おねぇちゃん!」そうね。今言わないとね」
「あのね、この、今夜のお料理のレシピなんだけど…」
「いいですよ、こっちに簡単な作り方と必要な食材をメモしておきましたので 良かったら使ってやってください」
「!」
「もともと、ベルさんに 差し支えがなければ 作っていただこうって。ここの宿の名物にでもだればいいかなって。唐揚げも、一口カツも 油であげるんですけどそのときに すっごく良い匂いするんですよね。お腹が減っちゃいますよね、匂い嗅ぐと」
「ミキさん…」
「ベルさん…」
「「「「はいはい」」」」
「おふたりさん、そういうのは みんながいないところで やってちょうだいね」
「「だな」」
いろいろあって今は寂れてしまったベルニーニの宿。もう悪党共の襲撃は、ないけれど 一度去っていったお客を取り戻すには、時間がかかってしまうだろう。それを再び呼び込むには どうすればいいか?と考えたミキは 取りあえず料理上手なベルニーニのこと。何か珍しい料理のひとつでもと思いこんな機会を設けようとしたのであった。
「でも、ほんとにミキちゃん。明日行っちゃうんだ」
「そうだよね~、ふふ。ここと目と鼻の先で迷子になっちゃって。人の縁って不思議だねぇ」
「帰りのときにも必ず寄るんだよ!」
「そうだよ、素通りなんてしたら絶対に許さないんだから」
「あは、あはは」と笑ってごまかすミキ。そのときチラとベルニーニの方に目をやるとベルニーニの方もミキの方を心配そうに見つめていた。
「大丈夫ですよ。必ずこのヴェスドラッヘの町に寄って んで、この宿にもう一度泊まりに来ますって」
「「だって」」
「良かったね、ベル」
「もぅもぅ、なんてこと言うんですか。お姉さんたちも」
「「リア充、ホロビロ」」
((はっ!俺たちはいま何を))
今夜もなかなか騒ぎが おさまりそうにありませんね。
◇
一夜明けて
「ほんとに なんにも言わないで行っちまうんですかい?」
「ったく、ダンナのヘタレっぷりには 呆れちまいますぜ」
「ヘタレって、まぁ 朝早いですしね。それに 帰りにもまた寄るって行ってますし」
「それより、最後に…」
そういうとミキは 普段は見せない集中を始める。ミキの身体全体から淡い光があふれてくる。その光が次第に強さを増すのと同時に ミキの魔力が次第に高まり…。
「エターナル・クリーン」、「リ・クリエイト」、「プロテクション」と立て続けに魔法を放つのであった。
「ダンナ、いま何を?」
「俺たち夢でも見てんのか」
「ダンナ、いまのって?」
ミキはと言うと それには、答えず
「さぁ、ヒサさん、タケさん。」
「それでは そろそろ参りましょう」
というのであった。
※ヴェスドラッヘの町編 終了