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033 これでいいのだ!

これでいいのだ!

「ヒサさんとタケさんには、悪いことしちゃったかな?」と少し思ってみたりするミキである。
(まぁ、普通の時代劇のノリなら、あそこで、『こちらにおわすお方をどなたと心得る』とか、『これにおわすは、上様の…あっ!ここは、僕の場合だと竜皇国陛下の…』とかってやっちゃうんだろうけど。まぁ ヒサさん、タケさんの方がきっと有名だろうしね。それに どうもまだ 表だって僕の名前は出さない方が良さそうな気がするんだよね。これから向かう『モンド・グラーナ』が なんとなくキナ臭い感じがしてきたよ。なので これでいいのだ!)
と、色々と回想しつつ歩いて行くとベルニーニの宿に到着する。ベルニーニの宿では、昼前から町長(まちおさ)たちと出かけたミキを心配して女将自らが宿の前で待っていた。


「お帰りなさいまし、みなさん、ミキさん。よくご無事でお戻りになりました」

「あっ、女将さん、ただいま~。」とミキ。
「「ベルちゃん」、「ベルさん」、「「「うんうん」」」
皆が笑顔で、宿の前のベルニーニ応える。

「ベルや、すべて解決したぞ。もう宿のことも心配ない、こちらのミキ殿、そして なんとミキ殿の店の従業員であるあの二人は、かつての『雷鳴の響鬼』のお二人じゃったんじゃよ」

「まぁ、そんなご高名な方が…うちのような宿のために」と驚きを露わにするベルニーニ。

「そんな女将さん、この宿のことを自分で卑下するようなこと言っちゃいけません」とミキ。
「女将さんも、妹ちゃんもお二人ともとっても素晴らしい接客でしたし、料理もすっごく美味しかったです。女将が 器量よしってのもありますけど、宿だって すっごく落ち着く 居心地のいい作りですしね。」

「そんな、ありがとうございます」


結局、ベルニーニには 出かける前に事のあらましを おおざっぱではあったが話して出かけたのである。まぁ そうでないと一連の事件?の経緯やなんやらで、町長たちが そろい踏みで出かけるのか。とかね。で、ミキたち三人は、その町長たちの護衛としてついて行く感じで話を通していたのである。


ところ変わって、ベルニーニの宿の食堂にて…
和気藹々と食事をとりつつ、代官館でのやりとりやあらましを話ている様子。

「いやぁ、この歳まで生きてきて 今日ほど面白いものを見せて貰ったことはないのぉ」
「そうだよねぇ、あのミキちゃんの啖呵」
「たしか……」
「『こちらにおわすお二方をなんと心得る、このお二方は、…』でしたっけ」
「ま・まぁ それはもういいじゃないですか」「そうですぜ、冷やかしなしで おねがいしやす」

「でも、ほんとうにお二人とも素晴らしいお方だったのですね」とベルニーニ。

「まぁ、顔は 強面ですけどね」

「だんなぁ~、そりゃ言いッこなしですぜ」「ダンナ…」

「でも、そんな有名な方々が どうしてミキちゃんの店の従業員?、護衛?をするようになったのかしら」

「うむ、それは わしも聞いてみたかったのじゃ」

「それはですね~」

「それは?」

「まぁ、なんだ。俺たちの傭兵仲間は、みんな 幼なじみっつぅか、同じ村で、兄弟みたいにそだってたんだけど。もともと 傭兵になるってのは そんな強く考えてなくってなぁ。いまここにいないけど そいつは 村を出る前からの夢だった料理人になるって想いを皇都の食堂で 叶えることが出来てよ。んで、もう一人は、同じ食堂で ウェイター?にスカウトされたんだよ。んで、俺たち二人は どうしよっかって思ってたらこっちのミキ殿にスカウトされたってわけだな」
「まぁ 傭兵なんてのは いつまでも続けられるもんじゃないしな、それに 今回の奴等みたいに 食うに困っちまって 人の道を外れるようなことに手ぇ出しちまうこともあるしな」

「でも、まぁ そこは 傭兵だからっていうよりもその人、その人の資質?考えなんてのもあるって思いますしね。実際、皇都で出逢ったときの…ぷぷ(笑)」
「いま思い出しても すごいありさまでしたものね。あの格好。着てるものはもうボロボロでしたし、顔とかも土埃とかで ほんと見られたものじゃなかったですよね」

「そりゃないですぜ」

「まぁ それでも目だけは…光を失ってなかったですよ。だからお願いしたんです。僕の護衛を、心配性の母さまに少しでも安心して貰うために」

「まぁ、なんていうか ダンナはすっげぇお人好しってこってす」
「そうだな。おれたちゃ、そのお人好しの旦那に拾われたみてぇなもんだ」

「そんな、拾っただなんて。第一、そんな大きなものを拾うような力、このか弱い僕には ありませんよ」

「!!!」

それまで うんうんって聞いてた他のメンバーだが ミキのか弱い発言に 何処が?と思ったのである。

「あれ、みんな どうしちゃったのです?」

ここにいるメンバーは ベルニーニ以外、皆そろって 今日のミキの戦いぶりを目にしたものばかりである。そして あのぶっ飛んだ口調、一瞬にして敵を屠ってしまう技、その何処が力がないと言うのであろうかと…。

「はぁ~」とため息一つつき

「そう言えば、ミキちゃんたちは いつまでこの町にいるの」とロビーナ。

「はい、名残は惜しいのですが、明後日には旅立とうって思っています」

「そっか、それじゃ 今日が みんなそろっての最後の宴だね」

「そうなるのかの、わしももう少しミキ殿と話してみたかったぞい」

「「わたしたちもね」」

「「「そうだな」」」

「みなさん…僕も 色々ありましたけど この町の人のあったかさを知ることが出来てすっごく すっごく良かったです。困ってる人を見過ごさない、みんなで 助け合うって。それが知れたことが ほんと嬉しいです」

「「「ミキちゃん」」」
「「「「ミキ殿」」」」
「「だんな」」

「えへへ、さぁ みなさん、今日は じゃんじゃん飲みましょう」

「あっ!だんなは これな」とヒサに渡されたのは ライト・エールである。

「そんなぁ、僕だって本物飲みたかったのに」

「えっと、ミキさまって おいくつなんでしょう?」

「今年で、十五だっけかな」

「もうすぐ十六ですよぉ」

「あの失礼ですが、十五なら成人を迎えられているのでは?」

「あぁ、そうなんだけどな。こいつの保護者殿から十六になるまでは 絶対に飲ますでないと仰せつかっているのでな」

「うぅ~、母さまめ!」

「ずいぶんとお子さま想いのお母さまでいらっしゃるのですね」とベルニーニ。

「そういうことでしたらお勧めできませんわね」

「うぅ、ベルさんまで。酷いですよ」

そう、代官館から戻ってきたミキは、ベルニーニからこれからは 女将さんじゃなくて「ベル」と呼んでくださいと言われたのである。
まぁ、実際のところベルニーニも十八、か十九辺りの年頃。宿を一手に預かる身としては 落ち着いた雰囲気を醸し出しているが それでもまだ若い身空である。それを 同い年くらいのミキから女将さん呼ばわりされると一気に老け込んだ気がして気分が沈んでしまうということである。

「はいはい、そう悄気(しょげ)てないで、どんどん飲んで、どんどんお食べ。明後日にゃぁ ベルの料理も食べられなくなるんだし」

「そう・ですね。うん、よーしいっぱい食べていっぱい騒ぎましょう」

その夜、ヴェスドラッヘの中央から少し離れたベルニーニの店からは 遅くまで笑い声が絶えなかったという。


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