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ママは、気付いてくれない。
もしかしたら、知っているのかもしれない。
もしかしたら、知らないふりをしているのかもしれない。
だけど、そんなこと考えたくなかった。
「理香?」
ママが、優しくそう言って私の肌に触れる。
「これって、タバコの跡?」
気付いてくれた。
私からは、怖くて言いだせなかった。
「誰にやられたの?
もしかして、武君?」
私は、大きくうなずいた。
涙が出そうになった。
「そいつが、言う事を聞かないからだよ。
これは、しつけだな。
そう、しつけ!」
武さんが、そう言ってケラケラと笑う。
「理香!
きちんと武君の言う事を聞かなきゃダメでしょ!」
私の涙は枯れたようだ。
でも、どうしたらいいのかわからない。
私が、悪いの?
私は、何もしていないよ?
それとも何もしていないからダメなのかな?
私は、しおれるように小さくなった。
「理香!
なんとかいいなさい!
武君にごめんなさいは?」
「……え?」
「理香!」
ママは、そう言って私の頬を叩いた。
痛い……
痛いよ、ママ。
どうしてだろう?
頬を叩かれたのに胸が痛い。