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パパは、怖い顔をしたあとそのまま仕事部屋に入っていった。
「パパ、どうして怒っているの?」
ママは、何も答えない。
赤ちゃんが泣いている。
大きな声で泣いている。
「赤ちゃん泣いてるよ……?」
「そう……ね……
赤ちゃんは、泣くのが仕事だから……」
ママは、そう言うとゆっくりと赤ちゃんを抱きしめた。
そして、ママは赤ちゃんにミルクをあげた。
「赤ちゃんに名前は、無いの?」
「この子の名前はね、『由香』よ」
「ゆか?」
「そう、由香よ……」
ママは、そう言って由香ちゃんの頬を撫でた。
と、その時だった。
パパが、鞄を持ってママの前に立った。
「僕は家をでるよ」
「え?」
「離婚届は、あとで送る。
お前は、理香と由香の本当の父親の所に行ってくれ」
「理香の父親は、貴方よ!」
「それもどうか怪しい……」
「そんな!
お願い信じて、理香は貴方が父親なの!
あの人とだって一度しか……」
「その一度が問題なんだろ!」
パパが、怒鳴る。
パパは怒っているけど泣いている。
「……うう」
ママも泣いている。
パパは、そんなママのことなんてお構いなしに部屋を出た。
「パパ!」
私は、走った。
パパの元へ走った。
だけど、私から見た玄関は果てしなく遠く。
パパから見た玄関は果てしなく近かった。
追いつけなかった。
届かなかった。
そして、私の願い虚しく。
パパは、私達の前には2度と現れなかった。