1、これはきっと光の軍勢の仕業に違いない
「……ん……何だ、眩しい……」
あぁ、また朝か、と俺は両手足を伸ばそうとして……
ゴツンッ
固い壁にぶち当たった。
「……は?」
よくよく見てみると、俺はめちゃくちゃ狭い白い空間にいた。
手も足も延ばしきれずに、体育座りみたいな恰好で閉じ込められている。
ぺとぺとと触って確かめてみたが、どこにも隙間や窪みがなく、球体のような空間だ。
その割に光は透けて通しているみたいで、真っ暗ではない。
「は? 何コレ? 何で俺こんなとこ閉じ込められてんの?」
白い――光――?
「ハッ! これはきっと光の軍勢≪ルーチ≫の仕業に違いない!」
暗黒破壊神たる俺様を恐れるあまり寝ている間に閉じ込めようとは、なんと卑怯な!
それでよく貴様らは正義を名乗れるな!
なんて叫んでみる。
が、反応はない。
あ、あれ?
おかしいな。いつもならこの辺で嫌がらせとかしてる奴らが出てきて終わるのに……。
「出せ! ここから出さぬか!」
狭いんだよ! 足くらい伸ばさせろ!
全力で手足をばたつかせ、壁を殴り蹴り破ろうとするが、びくともしない。息が上がる。
あれ、これ、空気穴とかある? 大丈夫だよね?
再度バタバタと、さっきより必死に脱出を図る。
グラッ
「うぉっ!?」
球体の中で暴れたらどうなるか。そう、転がるよね。
ゴインゴイン、と重々しい音を響かせ、天地がぐるぐると入れ替わる。
「ちょっ、まっ、やめ、止め……」
両手足で踏ん張ってみても止まらず、ゴインゴインと転がっていく。
そして――
ゴッ
プチッ
「ブッ」
急に止まって顔面を強かに打ち付けた。
「痛ぇっ!」
顔をさすさすしていたら、まるでカパッという効果音が似合いそうなほど綺麗に球体が割れ、勢いで転がり出れた。
べちゃ
ん? べちゃ?
『――≪名もなき卵≫がブルーコ・ヴェレを倒しました。経験値5を獲得しました――』
「は? 何今の声?」
キョロキョロと辺りを見回すが、誰もいない。
「何者だ! 姿を現せ!」
シ……ン
ぐっ、放痴プレイか(誤字ではない)。
「答えろ! 貴様、ルーチの一員であろう? 早急に出てこないと……ぐっ、鎮まれっ、俺様の右腕よ! 封印されし力をまだ解き放つべきではないっ! ……はぁはぁ、早急に出てこないと、俺様の右腕が暴走するぞ! 良いのか?!」
シ――ン
誰からも何の反応もない。
沸々と強まる羞恥心を誤魔化すように、俺は辺りを見回す。
白を基調としたゴシック調の柱に、大理石っぽいツルツルした床。
ナチュラルブラウンの木製の机。開け放たれた解放感溢れる大きなガラス戸からは穏やかな風が白いフリフリのカーテンを揺らしている。
扉の横の三段しかない小さな本棚にはびっしりと分厚い本が並んでいるのが見える。
どこだここ?
いや、それ以前に柱も調度品も、何もかもサイズおかしくね?
やたらでかく見える。
俺、まだ夢でも見てんのかな?
自分の頬をつねろうとして、ぬるっ、とした感触が襲う。
「は? え? 何だこれ!?」
異臭を放つ鮮やかな緑色のぬたぬたした気色悪い液体を浴びた俺の両腕はまるで獣の様だった。
白銀の鱗に包まれたすらりとした腕に、猫のような形の手には鋭い長い爪。
もう一度言おう。何 だ こ れ ?
いや、俺の身体もそうだけど、このくっさい液体。
一体何なんだ、と視線を下に移し――
「~~~~~~~!!!!!!!」
人間、驚きすぎると声が出ないんだな。初めて知った。
俺が下敷きにしていたのは、俺がまるっと入れそうなくらい大きな――芋虫だった。
見るからに吐き気を催す紫色の巨体から、あの鮮やかな体液がぷちゅっと溢れ出て、辺りを緑色の海に変えていた。
「うぼぇぇぇぇぇえ!!」
えれえれえれえれ、と緑色の海に俺の胃液が混ざり、異臭がさらに凶悪になる。
やばい、誰か助けて……。
俺はこのままキッショイ芋虫の体液と自分のゲロに塗れて死んでいくのか……うぅ……気持ち悪い……。
えれえれえれえれ、と、こらえる間もなく再び吐く。
「ああ、俺は、もうダメだ……」
助けを求めようとするものの、強烈で凶悪なビジュアルが視覚を襲いまた吐き気を催す。
涙で滲む視界に、自分の手に重なるようにぼんやりと半透明の板のようなものが視えた。
「?」
何やら文字のようなものが視えた気もするが、それを確認しないまま、俺の意識は体ごと芋虫の体液の海に沈んだ。
最後に体の浮くようなドスドスという振動と、女の悲鳴のような甲高い音を感じた気もするが、きっと気のせいだ。
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【ステータス】
名前 : ――
レベル : 1
EXP : 5/10
HP : 5/50 【瀕死】
MP : 5/5
Atk : 20
Def : 10
スキル : ――
称号 : 中二病(笑)