バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

文化祭とクリアリーブル事件㉔




一時間前 沙楽学園1年4組 帰りのホームルーム


少年には、一つだけ考えがあった。 もうクリアリーブルに直接関わることには限度がある。 
動くことができるのはこの少年だけとなったため、一人で夜中を歩き回ることには少しの恐怖感があった。
もちろん『俺だけが動くからみんなは関わるな』と発言したことについては、後悔などしていない。 だが誰も味方がいなくなった今、できることはこれしかなかった。

そう考えながら、帰りのホームルームを気だるそうに何となくで聞き過ごしている少年――――関口未来。 未来は今から、動こうとしていた。
時間がかかるのは分かっている。 どれだけかかってもいいから、少しでも手がかりがほしい。 クリアリーブルに関する、有力な情報や何かが。

「はいみんな、気を付けて帰るように」
先生のこの一言でホームルームが終わり、クラスのみんなが自分の思うようにあちこち移動している中、未来は一人すぐに教室から出る。 
そして廊下へ行き少し待っていると、時間差で彼が現れた。 ――――伊達だ。
伊達と一緒に教室から出るところを他のメンバーには見られたくなかったため、予め彼を呼び出し廊下で待ち合わせしていたのだ。
彼が来たことを確認し、二人は昇降口へと足を進める。 それにつられて、伊達も一定の距離を保ちながら付いてきた。 
だが何も話すことがなく黙って歩いていると、彼は後ろから静かに口を開きこう尋ねてくる。
「・・・なぁ、未来。 どうして俺なんだ?」
そう。 未来は今日、伊達に『協力してほしい』と頼み込んだ。 協力というのは、当然クリアリーブルについての情報を聞き出すため。

「俺が未来に協力するって言っても、未来は俺のことを信用できないだろ。 ほら、一応今は・・・敵同士、だし」

“敵同士” それは彼の言う通りだと思っている。 
実際にクリアリーブルは結黄賊を完全敵に回しているし、そのことを知っている結黄賊もクリアリーブルのことを敵視していた。
それに伊達に直接聞いたとしても、有力な情報は手に入らないと分かっている。 彼の性格上、今のクリアリーブル事件に関与しているとはどうも思えない。
結人がやられた時に言っていた『・・・クリーブルは、そんなチームじゃない』という発言も“自分の所属しているチームがそんなことをするわけがない”という心の叫びなのだろう。
そのことから、伊達は今のクリアリーブル事件に関しては何も知らないと思われた。 だから彼だけに、協力してもらおうと思っているわけではない。

―――伊達の仲間にも、協力してほしいんだ。

「それにほら、協力するって言っても俺には何もできねぇよ。 クリーブル事件の情報なんて、何も知らないし」
先行き不透明なこの状況に、伊達は懸念しながらそう言ってくる。 そんな彼に対し、未来は後ろへは振り向かずにこう答えた。
「分かっている。 伊達が何も情報を知らないっていうのも、今俺たちは敵同士でいるっていうのも」
「・・・だったら」
「でも俺にはもうお前しかいないんだ。 ・・・伊達にしか、頼ることができねぇんだ」
できれば伊達にはクリアリーブル事件に関わってほしくはなかった。 クリアリーブルである彼をみんなで守りながら、事件を解決させたかった。
だけど結人が目覚めなく真宮には動くなと言われた今、選択肢は伊達に頼るということしかなかったのだ。 彼には凄く負担がかかることは分かっている。 だけど――――

―――・・・ごめんな、伊達。

これ以上伊達には何も言えなくて口を噤んでいると、彼は未来の気持ちを察してくれたのか静かにこう呟いた。
「・・・まぁ、いいよ。 俺も、ユイをやった犯人を許しているわけじゃないし」
「ッ・・・。 いいのか?」
その一言が嬉しく、未来は思わず立ち止まり伊達の方へ勢いよく振り返った。 その突然な行動に彼は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐ笑顔になる。
「あぁ。 俺にできることなら、何でも協力するよ」
「・・・ありがとな、伊達」
伊達から協力の許可をもらい、二人はもう一度昇降口へ向かって歩き出す。 これからどうするかについては、正門を抜けてから話す予定だ。
結黄賊の誰かにこの話を聞かれないよう、そして未来たちのことに気付かれないよう早足で向かおうとした。 昇降口から正門までの距離は約100メートル程ある。
未来と伊達は同時に外へ向かって一歩を踏み出し、正門を目指した。 その時――――そこへ行かせないように立ちはだかる者が、突然二人の目の前に現れる。

「・・・悠斗」

そう。 悠斗が二人の前に立ち、行き先を塞いだのだ。
―――何だよ、俺を止めに来たとでもいうのか。
「・・・未来。 今度は伊達を連れていくつもり?」
悠斗は未来の隣にいる伊達のことをチラリと見て、呆れたような表情をしながらそう言ってきた。
―――悠斗に止められるなんて思ってもみなかったな。 
―――・・・そうか、真宮に俺を止めるよう言われたのか。
「これからどこへ行くんだ。 ・・・また、クリーブルについて探ろうとしているのか?」
―――悪いな、悠斗。 
―――悠斗に何と言われようが、俺の意志は変わらないんだ。
昨日から、白くて固い物を巻き付けて首を固定している悠斗。 今朝悠斗と一緒に登校すると、当然クラスのみんなは彼に向かって一斉に注目した。
そこから昨日起きた出来事を嘘を交えながら適当に説明し、いったんその場を静めることはできたのだが、やはり彼を何度見ても可哀想だと同情してしまう。
悠斗には実際付いてきてほしかったのだが、流石に怪我をされては一緒に行動する気にはなれなかった。
二人のことを交互に見ながら心配そうに聞いてくる悠斗に対し、未来は真剣な表情を変えずに口を開く。

「何だよ悠斗。 俺たちを止めに来たのか。 悪いけど、俺たちはこれから行くところが」

「違うよ」

「は?」

未来の発言を遮り否定の言葉を述べてきた悠斗。 そんなことを口にする悠斗が理解できず、彼から出る次の発言を待つ。 そしてまたもや、意味不明な言葉を紡いできた。
「行くところがあっても、正門からは出ない方がいい」
「は? どういう意味だよ」
そう尋ねると、彼は正門の方へ振り返りながらこう口にする。
「正門で、真宮が未来たちを待ち伏せしているんだよ。 だから、動きたいなら裏門から出て行った方がいい。 その方が未来にとっては都合いいだろ」
「・・・悠斗」
優しい笑顔でそう答える悠斗に対し、未来は少し心が揺らいだ。 

―――悠斗は、今でも俺の味方でいてくれるんだな。
―――ずっと俺の味方だと分かっていたのに、少しでも悠斗を疑ってしまった俺は最低だ。

「本当は俺も未来たちと一緒に行きたいんだけど、怪我をしてしまったから今は足手纏いにしかならない。 だから俺の分まで、未来には頑張ってほしい。
 危ないことが起きないよう、未来はちゃんと伊達を守るんだよ」
正門から未来たちのいる昇降口の間には、たくさんの沙楽の生徒が正門へ向かって歩いていた。 そのため、真宮のいるところからは未来たちの姿が見えていない。
そう言ってくれる悠斗の優しさを身に染みて感じ、感謝の言葉を彼に向けて綴った。
「あぁ、もちろん。 さんきゅーな、悠斗」
そんな悠斗に感謝しつつ、彼と別れ未来と伊達は裏口へと足を向けた。 

裏口には生徒はあまりいなく、これから部活動を始めようとする生徒がちらほらといるくらいだった。
中には文化祭に向けて大きな作品を頑張って作っている者や、男女隣同士になって歩きながら楽しく話をしている者もいる。
そんな中、彼らに反するよう未来たちは真剣な表情をして裏門へと歩いていった。 その時、伊達が未来に向かって話しかけてくる。
「未来。 その・・・俺は何をしたらいいんだ?」
彼のその質問が、これから未来がしようとしていることのカギとなる。 どんなに時間がかかってもいいから、クリアリーブルについての手がかりが欲しい。
できるだけ、伊達には負担をかけないように。 そして、結黄賊のみんなや藍梨、誰にも迷惑をかけないように。
そして隣にいる伊達に向かって、ハッキリとした口調でこう答えた。 
「伊達の仲間に会わせてほしい」
「え・・・。 仲間?」
未来の言った発言が理解できないのか、もう一度聞き返してくる。 そんな伊達に対し、もう一つの単語を付け加えて彼に言い渡した。
「そう。 クリーブルの、仲間に」
だって、これしかもう方法はないだろう? 直接クリアリーブル事件を起こしている者に会うのは、一人では危険だ。 それに聞き込みを続けても、新しい情報を得るには難しい。
だったら回りくどいが、伊達のクリアリーブルの仲間に協力してもらった方が早いし安全だと思ったのだ。
「え、それだけでいいのか?」
「あぁ、それだけでいい」
未来の頼み事が思っていたよりも簡単だったのか、呆気に取られた表情をしながらそう口にする伊達。 これ以上、誰にも被害を出さずに調べる方法はこれしかなかった。 
どんなに時間がかかってもいい。 有力な情報を得られるなら、未来は何時間だって待つつもりでいる。

―――こうなった以上・・・つてを辿っていくしか、他に方法はねぇだろ?


しおり