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うそつきピエロ㊲




現在


「は・・・。 誕生日・・・?」
日向は未だにこの状況が理解できないのか、その場で固まっている。 
―――これが俺の考えた仕返しだよ、日向。
優はコウより一歩前へ出て、日向に近付いた。 それと同時に日向は再び優のことを睨みながら、こちらへ身体を向け直す。
大きく息を吸い込み、優は聞きやすいよう丁寧な口調で言葉を放った。
「そう。 今まで日向にしてきたのは、全てこのためのサプライズ。 わざと日向をからかい冷たく突き放して、でも最後にはちゃんと心を込めて祝ってあげる。
 もちろんこの種明かしもさ。 ・・・どう? この、素晴らしいバースデイサプライズは」
そしてニヤリと笑う。 

―――これで、俺の勝ちだ。

「は・・・ッ。 ふ、ふざけんなよ! 意味が分かんねぇ!」
そしてここから、日向の質問攻めが始まった。
「シスコンのデマは一体何だったんだよ!」
「もちろん俺が流したよ? 未来に日向の個人情報を調べてもらってさー! そしたら、美人なお姉さんがいるみたいじゃん」
「ッ・・・! じゃあ、あれも嘘なのかよ! 牧野の彼女の写メの流出は何だったんだ!」
「あぁ・・・。 あの彼女の写メは、瀬翔吹だよ」
「は・・・?」
写メの質問に関しては、牧野自身が答えてくれた。 そう、牧野の彼女の正体は実は優。 もちろん彼には、ちゃんとした本物の彼女がいる。 優は牧野に続いて、説明を付け加えた。
「そう! あの写メ、俺が女装してメイクをして撮ったんだ。 口元は隠していたけど。 本当に女の子に見えた? ねぇねぇ、写メの子は可愛かった?」
「ッ・・・」
笑顔でそう問うが、返事はこない。 

―――女装なんてしたくはなかったけど、これでも頑張ったんだよ? 
―――コウからのウケもよかったのにな。

「じゃあ・・・あの掲示板は何だったんだ」
「あぁ。 あれは、悠斗に作ってもらったんだよ。 悠斗はパソコンを使うのが凄く得意でさ! あの掲示板なんて、10分くらいでちゃちゃっと作ってくれたよ」
そう、掲示板もこのためだけに制作してもらったのだ。 未来と悠斗の協力もあって、この仕返しは完成した。
「あの落書きもお前らがやったんだろ!」
「もちろん。 ちゃんと綺麗に消せるよう、薄く書いてあげたでしょ?」
「体操服がなくなったのも同じか」
「体操服はちゃんとユイが返しましたー」
「じゃあ筆記用具がなくなって、御子紫がわざと俺にシャーペンを渡してきたのもお前の仕業か!」
「え、御子紫?」

―――・・・何のことだ? 

御子紫にはこの計画を伝えてはあるが『筆記用具を日向に渡してほしい』だなんて頼んだ憶えはない。 
―――御子紫が自己判断で動いたのかな?
「秋元が俺に言ってきた悪口は、一体何だったんだよ!」
この問いには、秋元自身が答えてくれる。
「あれも全て嘘だ。 ・・・瀬翔吹に脅されて、協力せざるを得なかった。 ・・・本当はあんなこと、思ってなんかいない。 日向、悪かったな」
「・・・それで、許されるとでも思ってんのか。 あんな風に言われた時の俺の気持ち、秋元には分かんのかよ!」
「日向」
日向の意識を、秋元から優へ向けさせた。 
―――日向が秋元に対して怒っている気持ち、俺には分かる。 

だって――――

「日向は・・・友達に裏切られた時、何て思った?」
「は・・・?」

だって――――優も、コウに裏切られたことがあるのだから。

「凄く、悲しかったでしょ? 凄く、苦しかったでしょ。 ・・・もう死にたいって、思ったでしょ」
「・・・」
「俺も同じ気持ちだったんだよ、日向」
そう。 日向も、この気持ちになってくれたのならいい。
「日向も、俺と同じ気持ちを味わってくれたのなら・・・それでいい」
「・・・」
彼は黙ったままずっと俯いていた。 優や秋元たちのことを、きっと直接見ることができないのだろう。 ということは、優の気持ちを少しでも分かってくれたのだろうか。
そんな姿の日向の見て優は満足し、優しい口調で改めて言葉を発した。
「日向、早いけどお誕生日おめでとう。 ・・・まぁ、俺と誕生日が近いのは気に食わないけどね」
誕生日が近いことだけは、どうしても受け入れ難かった。 どうして日向なんかと近いのだろう。 

―――日向と同じ人間性みたいだから、何か嫌だな。

「日向。 これ、誕生日プレゼント。 当日に渡してもよかったんだけど、今ないと不便だろ?」
牧野は日向に近付き、ある物を手渡した。
「これ・・・」
彼が渡したものは、新しい筆記用具。 日向がその筆記用具を受け取ったのを確認し、優もある物を取り出す。
「・・・ッ! 何でそれをお前が持ってんだ!」
「いやぁ、返してもらおうと思って」
「はぁ?」
優が今手に持っている物は、日向の筆記用具だ。 いや、正確にいうと優の筆記用具。 御子紫の件の時、優の筆記用具を日向のものとすり替えた。
その理由は、彼と全く同じ筆記用具だったから。 自分の筆記用具を優が持っていることに対して混乱を起こしている日向に、優は言葉を放つ。
「まぁ、いいよ。 気にしなくて。 説明するのが面倒だ。 ただ俺の物を何食わぬ顔で使っていることが、何か嫌で気持ち悪くてさ。
 だから、このまま捨てようと思って」
「おい!」
「中身はその新しい筆記用具の中へ移し替えておいたから大丈夫だよ。 俺も、新しいものがあるし」

―――そう、コウから貰った大切な筆記用具がね。 

日向は優の言っている言葉がよく理解できていないらしく、難しい表情をしたままだった。 
―――まぁいいさ。 
―――取り返せたのなら。
そこでもう一度、彼に向かって口を開く。
「コウからのプレゼントはもちろんないよ? ・・・でも、俺からはプレゼントがある」
そう言い、優は日向に近付いた。 そして――――
―ボゴッ。
「くはッ・・・」
日向の目の前で立ち止まると、優は彼の頬を目がけて思い切り一発殴った。 その突然な行為により日向は少しよろけるが、足を踏ん張り何とかこの場を耐える。
「ッ、おい! さっき喧嘩はしねぇつったろ!」

「言い忘れていたけど、一発だけは許可もらっていたんだ」

最後に――――結人に頼んだこと。 それは『日向を一発殴ってもいい?』とお願いしたのだ。 そしたら彼は、OKしてくれた。

―――流石にこれらの仕返しだけじゃ物足りなくてさ。 
―――でも日向を一発殴ってスッキリしたよ。 
―――これで満足。 
―――日向もきっと、痛かったよね。 
―――凄く力を込めて殴ったから。 
―――でも、無傷だから・・・大丈夫だよね?

「ッ・・・」
「どうだった? 俺たちからのプレゼントは」
日向は何も言わなかった。 いや、もう何も言えないのだろう。 ならここで――――もう一勝負だ。
「日向、取引しよう。 お前がもう人をいじめないって約束をしてくれるのなら」
「・・・?」
「俺らは、先生に『日向はいじめていた』とは言うけど『停学にはさせないでほしい』って土下座してでも頼んでやる。 ・・・どうする? 乗る?」
真剣な表情でそう言うが、彼はまだ諦めなかった。
「そんな証言だけで、通用するとでも思ってんのかよ!」
―――・・・しょうがないなぁ。 
―――こんなことはズルいからしたくはなかったけど、仕方ないよね。
そう言われて優は携帯を取り出し、ある動画を日向に見せる。
「なッ・・・!」

この動画は、真宮が撮影してくれたもの。 映像の内容は、日向の手に持っているナイフによって結人が切られているというものだった。
優の知らない間に、こんな酷いことが起こっていたのだ。 結人のあの左手の包帯は、このせい。 結人から直接このことを聞いた時、優は何度も自分を責めた。 
『ユイにまで酷い目を遭わせてごめん』と、何度も謝った。 だが彼は『大丈夫だよ』と言ってくれたけど。 この動画は真宮から送ってもらったもの。 
『いつか使えるだろ』と。 上手く場所を移動して撮影してくれたようで、綺麗に撮れていた。 いや――――内容は綺麗よりかは程遠く、残酷なものだったけれど。

「流石にこの動画を見せたら、停学どころじゃないよねー? きっと」
「・・・」
「あ、まだあるよ」
そこで優はもう一つ、動画ではなく写真を見せた。
「ッ・・・!」
これは北野から送ってもらった、日向が現場に落としていったナイフらしい。 
―――凶器を置いていくなんて、本当に馬鹿だよね。
―――それにこの凶器を警察に届けたら、もう停学どころじゃなくなるよね。 
―――まぁ・・・これも自業自得だ。 
これで本当に何も言えなくなったのか、日向はまた俯き始めた。 そんな彼に、もう一度トドメの言葉を言い放つ。
「もう一度言おう。 お前の負けだよ、日向」
「・・・畜生ッ!」
その一言を言い、日向はその場に跪いた。 そんな彼を、助けるわけにもいかずただただ冷たい目で見下ろす。

―――・・・仕方ないよ、日向。 
―――今まで日向がしてきたこと、それがそのまま返ってきただけなんだ。 
―――・・・だから、仕方ないよ。

優は日向に向かって、改めて気持ちを込めて言い直した。 今まで彼に見せたことのない――――優の、本当の笑顔で。

「最後に。 ・・・本当にお誕生日おめでとう、日向」


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