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うそつきピエロ㉖




同時刻 1年4組


「伊達ー! 立川について、色々教えてちょ!」
この時未来は、休み時間を使って悠斗と一緒に伊達の席へ集まっていた。
「何だよ、その語尾」
「何だよ、可愛いだろ? ・・・悪いか」
「いや別に?」
そう言うも伊達は“相変わらず未来は馬鹿だな”という顔をしながら笑っている。
―――・・・馬鹿で悪いかよ。
未来は口に出されてもいない発言に自分で突っ込みを入れ、改めて伊達の方へ身体を向け直した。

このクラスでも、朝のホームルームで日向が入院したということは聞かされている。 未来もその知らせを聞いた時は凄く驚いた。
聞いた後すぐに結人のもとへ行って話し合おうと思ったのだが、教室を出て5組へ行こうとした瞬間彼は走ってどこかへ行ってしまったため、話し合うことができない。
だがきっと、結人は2組の教室へ向かったのだろう。 未来も日向の知らせを聞いた時――――一番最初に頭に浮かんだ人物が、優だったのだから。
優ではないことを信じたいのだが、どうしても彼のことを疑ってしまう。 こんな自分のことを、未来は最低だと思っていた。

「で、立川について教えてって、どういうこと?」
「立川にいて、知っておいた方がいい情報とかない? 今後のためにも、何かしら知っておきたいと思って」
伊達は席に座ったまま肘を付き、未来たちのことを見上げながらそう聞いてくる。 そんな彼に、悠斗が未来に代わってそう説明をしてくれた。

そう、未来たちも後で結人のところへ行って日向のことについて話し合おうと思ったのだが、彼は難しそうな表情を浮かべていたので今は近付かない方がいいと思い、
話し合うことを諦めたのだ。 結人にもきっと考えがあるのだろう。 だから今は、彼をそっとしておこうと思った。 
今自分たちが勝手に行動を起こしても、どうせ邪魔でしかない。 だから今伊達の席まで行き、折角だから立川について勉強をしようと思ったのだ。

「んー、そうだなぁ・・・」
「立川のことなら何でもいいよ。 立川の人なら、絶対に知っていることとかは?」
悠斗は頑張って、伊達から情報を聞き出そうとしている。
「絶対に知っていること・・・。 あ、あれは?」
「何?」

「・・・クリアリーブル」

「くりありーぶる?」

伊達の口から出た言葉“クリアリーブル” クリアリーブルという言葉については、最近ニュースでもよく流れていた。
未来は最近の流行りのものなど結構知っているため、もちろんクリアリーブルという言葉は知っている。
「そう、クリアリーブル。 略してクリーブルだな」
「その・・・。 クリーブルって、何?」
悠斗が上手いこと聞き出してくれた。 そのことに関しては、未来でも詳しくは知らない。 だから知るには絶好のチャンスだ。
「んー、簡単に言うと、悠斗たちと同じような感じだよ。 そう、カラーセクトみたいな感じ。 だから結黄・・・」
「あー! 言うな言うな!」
“結黄賊”というワードにすぐさま反応し、未来はこれ以上話させないよう伊達の口を慌てて手で押さえ込む。
「わ、悪い・・・」

―――つか・・・カラーセクト? 
―――そっか、立川にもカラーセクトはいるんだっけ。

「そのクリーブルって、何色のチームなの?」
―――お、悠斗いいことを聞いてくれた!
「何色・・・。 いや、クリーブルには色がないんだよ。 無色透明なんだ」
「え? そんなんだったら、カラーセクトじゃねぇじゃん」
『色がない』という言葉を聞き、未来は思わず口を挟んでしまう。
「だからまぁ、微妙なところなんだって。 クリーブルはさ、サイトに登録するだけで簡単にメンバーになることができるんだ。
 未来たちとは違って、誰でもクリーブルに入ることができる。 それにクリーブルは縦横の関係が希薄だから、クリーブルメンバーでもチームメイトが誰なのかすら分からない。
 だから、この沙楽にもクリーブルに入っている奴はたくさんいると思うぜ」
そう言って、伊達は小さく笑ってみせる。 
―――そんな適当なチーム、本当にあるのか?
「クリーブルの主な活動方針とかは?」
悠斗がまたいい質問を投げてくれた。
「特には決まっていないよ。 ただクリーブルに入って『自分はクリーブルです』と名乗る。 そして、何をやっても構わない。 それだけさ。 
 でもクリーブルのメンバーはたくさんいるから、もちろん同じチーム内でも問題が起こる。  いくつかの小さいグループが、クリーブルには存在するんだよ。 
だからクリーブルとクリーブルが喧嘩をすることだって、もちろんあるさ」
“クリーブル内でも問題が起こる” この言葉を聞いて、未来はある単語を思い出した。

「・・・クリーブル事件」

「あぁ、未来も知ってんのか」
「クリーブル事件って何なんだよ?」
「一応ネットでは、最近の物騒な事件は『クリーブルの仕業だ』とか言っているよな。 次々と立川の人を襲っては、病院送りにして。 
 ・・・でも何が狙いなのかは、まだ分からない。 それに、それが本当にクリーブルの仕業なのかも分からない。 でも今のところ、沙楽には被害が出ていないのが救いだよな」
最近立川で起こっている“クリーブル事件” 本当に、何が狙いなのだろうか。 どうして罪のない人々を病院送りにするのだろう。
未来にとって“クリアリーブル”とは、とてもいいチームには思えなかった。
「クリーブルがやったっていう可能性とかは、あるの?」
「可能性? ・・・まぁ、クリーブルはさっき言った通り、縦横がないチームなんだ。 だからもし小さなグループがこの事件を起こしていても、おかしくはない。
 同じクリーブルメンバーでも、誰がやっているのかなんて分かりっこねぇんだし。 
 もしかしたら、クリーブルを嫌っている奴らがクリーブルというチームをけなすために、嫌がらせとかでやっているのかもな」

―――へぇ・・・。 
―――つまり、罪をクリーブルに擦り付けようとしている、ってわけか。 
―――・・・何か怖いな、クリーブルっていうカラーセクト。

「あとはまぁ、あれかな。 クリーブルは無色透明って言ったろ? 無色透明だからこそ、できることがある」
「何だよ?」
「まぁ・・・。 怖い話、乗っ取り・・・とか」
「・・・」
「いや、それはないと思うけどな」
そう言って、伊達は笑う。 

―――乗っ取り・・・か。 
―――他のカラーセクトを乗っ取るって意味だよな。 
―――・・・確かにそんなことが起きたら、怖いな。

「伊達、他には立川について知っておいた方がいい情報とかはない?」
悠斗がもう一度、そう聞き出してくれた。
「あとはー・・・。 あ、悠斗たちが今後も喧嘩を続けるなら、知っておいた方がいい人物が一人いる」
「人物?」
「うん。 清水海翔っていう奴さ」

―――シミズカイト? 
―――何か、青っぽくてサッパリした感じの名前だな。

「ソイツがヤバいの?」
「ヤバいっていうか・・・。 うん、コイツには喧嘩を売らない方がいい」
「それは・・・」
「きっと喧嘩が強い悠斗たちでも、負けると思うから」
伊達は先刻とは違って、悲しそうな表情をしてそう言った。 

――――清水海翔。 

―――・・・立川には、俺らよりも強い奴がいるというのか。


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