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うそつきピエロ⑰




同時刻


その頃未来は休み時間のため、一人でお手洗いへ向かっていた。 日向の尾行は、二日に一回のペースで行っている。 
いつもと変わらず、日向はコウに向かって暴力を振るっていた。 
―――ユイはまだ、動かないのかな・・・。

「・・・だよー。 だからさー、・・・。 マジ・・・」

―――ん? 
―――誰かトイレでたむろってんのか? 
―――ここは学校なんだから他でやれよな、邪魔くせぇ。
未来はそんなことを思いながら、男子トイレの中へ入ろうとする。 だが――――入る直前で、足の動きが止まってしまった。 その理由は明らかだ。 
何故ならば――――トイレの中から聞こえる話の内容が、綺麗に全て未来の耳に届いていたのだから。

「何かさー、最近神崎をいじんのがつまんねぇんだよな」
「んー? どうして?」
「つか、まだ神崎をいじめてんのかよ。 ・・・もう止めたら?」
「は? 止めるわけねぇじゃん。 お前らも色折のこと、うぜぇ奴だと思ってんだろ?」
「それは確かに思っているけどさ」
「だからといって、神崎をいじめの標的にしなくてもよくね? 色折を直接やりゃあいいじゃん」
「色折は“仲間”ってもんを大事にしてんだ。 だからアイツにとって、仲間がいじられていることこそが、一番苦しいんだよ」
「ふーん・・・。 で、何で最近神崎を相手にすんのがつまんなくなったんだ?」
「何かさぁ。 最近、瀬翔吹が俺たちに全然絡んでこねぇんだよ。 前は『コウには手を出すなー!』とか言って、俺に食らい付いてきたのにさ」
「瀬翔吹、か・・・」
「そ。 だから、瀬翔吹は神崎のことがもう飽きちゃって、見捨てちゃったのかなぁーって。 ・・・そこで、俺は思い付いたんだ」
「何を?」
「もっと、パーッとやりたくね? 派手なことをさ!」
「派手なことって、具体的にどういうことをだよ」
「んー、例えば・・・。 ナイフでグサッと?」

―――ッ、は!? 
―――日向の奴、何を言ってんだよ! 
―――コウをナイフで刺すだと・・・!? 
―――そんなこと、許されるとでも思ってんのか!
トイレの中は覗いていないため、誰がいるのか正確には分からない。 だが会話の内容と声からして、あの場には日向と牧野、秋元は必ずいるはずだ。
―――どうしよう・・・コウが危ない。
未来はこの場から急いで去り、4組へ走って戻った。

「悠斗!」
「またそんなに焦って、何かあったの?」
悠斗はそんな未来を見て、呆れた口調でそう言ってくる。 確かに未来は悠斗に対して急用を言う時は、いつもこんな慌てた感じで悠斗の目の前に現れるため仕方ないだろう。
「悠斗、今日の放課後は俺と一緒に来てくれ。 つかいつも一緒に帰っているからいいよな? コウが危ないんだ」
「あ・・・。 悪い、今日は無理だ」
「はぁ!? 今日の用事は外してくれよ、頼むから!」
「・・・ごめん」
―――くそッ、何なんだよ悠斗は! 
―――こんな大変な時に限って・・・そんなに今日の用事は大事なのか?
だがこれ以上、悠斗に無理強いはしなかった。 いつも悠斗は未来の後ろを付いてくる少年だ。 だけどこんな大変な時に、彼は未来よりも自分の用事の方を取った。
だからきっと、何かがあるのだろう。 

未来よりも大事な――――何かが。

「分かったよ。 ・・・じゃあ悠斗は、その用事をきちんとこなせ」
「ありがとう。 また大変なことがあったら俺に言って? その時は必ず、未来に協力するから」
「あぁ、ありがとな」
―――じゃあ、今日の放課後は一人でコウのところへ行くか。 
―――日向を止めなきゃならないし。 
―――・・・コウの命も、危険だしな。
「あ、そうだ。 未来、真宮は誘ってみた? 大変なことなら、一人でも多くいた方がいいだろ」
―――真宮、か・・・。 
―――そうだな、俺一人じゃ止めることができないかもしれないし。
悠斗にそう言われ、真宮のいる5組へと向かった。 

真宮に『今日の放課後空いているか』と聞き『コウのところへ一緒に行ってほしい』と頼み込んだ。
「いいよ。 つっても、二日に一回は日向を尾行しているから、あまりいつもと変わんねぇけどな」
「ありがとな、真宮」
「あったり前! コウが危ねぇんだろ? 特に今日。 だったら、早く止めに行かないとな」
―――・・・まぁ、今日日向が実行すんのかはまだ分からないけどな。 
今日日向が現れなければ、また明日尾行をすればいい。 どちらにしろ、日向はナイフをコウに向ける気だ。 アイツは本気。 
コウのことだから、きっと反抗はせずにそれすらも受け入れてしまうのだろう。 そんなことはさせない。 流石に命を狙われたら、コウでも反抗するのかもしれないが。 
悠斗はいなくても、真宮がいれば大丈夫。 
―――・・・絶対に、日向を止めてみせる。


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