童話
僕の名前。
もう忘れた。
そもそも名前を呼ばれたことなどない。
ただ僕は、昔パンを作っていたことがある。
だからか、僕の鞄の中には無限のとあるパンが入っている。
今日久しぶりに人にあった。
老人だ。
老人は、小さな声でつぶやいていたのだ。
「お腹がすいた……」
僕は、お爺さんに声をかける。
「お爺さんどうしましたか?」
「お腹がすいた。
ミミをくれ……」
僕は、カバンからとあるパンを渡した。
老人は激怒した。
どうして激怒したかはわからない。
僕は、そのパンの名前しか知らない。
そのパンの名前は、ランチパック。
なぜ、老人は激怒したのだろう。
あ、思い出した。
僕の名前は、芳一。
琵琶法師をやっていた。
琵琶法師だけでは食べていけないので、パンを作っていた。
そして、その功績を認められパンの普及を目的に僕は、この無限のパンが出てくる鞄を授けられた。
僕は、目が見えない。
耳もない。
聞こえにくいけど耳は、聞こえる。
子どもの声が聞こえる。
僕は、その子どもにパンをあげた。
すると子どもは嬉しそうに声を上げる。
「僕、ランチパック大好きなんだ!」
そう言って子どもは去っていった。
喜ぶ子どもと激怒する老人。
一体僕は何を間違えたのだろうか……
答えはわからない。
僕は、芳一、耳なし芳一。
耳がないパンを売っている琵琶法師もやっているパン職人。
老人が僕を見て激怒した理由はわからない。