北野の休日⑤
以上が、北野が結黄賊に加わった時の話だ。 あまりいいものではないが、みんなとの出会いは今でも大切に感じ大切に思っている。 北野にとって、結黄賊みんなは宝物なのだ。
「じゃあ、最後はユイについて。 ユイは、俺たちのリーダーと言ってもいい。 そのくらいみんなは、ユイのことを信頼しているんだよ」
「・・・うん、ユイは本当に凄い人だよ。 もう『本当に凄い』っていう一言でしか言い表せられない。 他には、どういう言葉が合うかな?
・・・超人? スーパーマン? あれ、何かちょっとズレちゃったね」
「・・・ユイのエピソード、か。 俺たちが何かトラブルに巻き込まれたりすると、ユイはすぐに助けてくれるんだ。 俺も何度も助けられた。
だから俺もユイを助けてあげたいって思うんだけど、なかなか難しいよね」
「ユイ自身がトラブルに巻き込まれたことはないか? んー・・・。 どうだったかな、これといってないかも。 俺たちがいつも、ユイをトラブルに巻き込んじゃっているって感じ」
「ユイは強いか? あー・・・。 まぁ、ある意味強い、かな。 たまに弱いところを見せるけど、そこが素直でいいよね」
「他に言っておきたい人? んー・・・。 あ! 藍梨さんのことは?」
「藍梨さんは綺麗な人だよね、ユイが羨ましいよ」
「・・・え? 俺が藍梨さんを狙っている? それはない。 藍梨さんはいい人だと思うけど、ユイから奪おうだなんて絶対に思わない。
ユイとの今の関係を、崩したくはないから」
「んー。 あ、あと伊達のこととか」
「・・・そうそう、4組の伊達。 ・・・あ、知っているの? 一緒の中学校だったんだ」
「そうだよ。 最近伊達とも仲よくしてもらっている。 ・・・してもらっているっていうか、俺たちの中に入りつつあるっていうか・・・」
「伊達はいい人だよ。 ユイと性格が似ている感じ! 優しいし人気者だし、容姿もいいから言うことなしって感じだよね!」
「・・・最後に一言、か。 俺はみんなのことを大切に思っている。 この気持ちは絶対に忘れないし、今後も変わることはない。
そして、このままの関係がずっと続くといいなって思っている。 ・・・いや、信じている、が正しいかな。
誰一人も欠けないで、誰かが困っていたらすぐにみんなで助け合って、解決して。 それを繰り返していって、俺たちは今以上に強くなるんだ。
もっともっと強くなって、どんどん固い絆で結ばれて。 俺たちは、色んな人に認められるようないいチームになりたいと思っている。
『仲がよくていいチームだね』って、たくさんの人に羨ましがってもらいたい。 ・・・俺は、そんなみんなのことが大好きだから」
インタビューが終わった。 カフェを出て小林と別れ、携帯を取り出し時刻を確認する。
―――17時、か。
携帯には、椎野からのメールが届いていた。 内容は『もしインタビューが早く終わったら公園まで来てほしい』というものだった。
彼に『今から行く』と連絡し、携帯を閉じて基地である公園へと足を進める。
それともう一つ、言っておきたいことがあった。 北野が結黄賊に入った時、結人から言われたのだ。
『北野は喧嘩しなくていい。 俺たちの手当てを、してくれるだけでいいから』と。
最初は言われた通り、彼らが喧嘩をして怪我をしたら北野が手当てをするという流れが当たり前のように続いていた。
だけどこれには北野はあまり慣れず、みんなは怪我をしているのに自分だけが何もせず見ているだけ、自分だけが無傷という立場が次第に嫌になってきたのだ。
だから自分から結人に申し出た。 『俺もみんなと一緒に喧嘩をしたい』と。 最初は何度も止められたが、それでも気持ちは変わらなかった。
そしたら結人も気持ちを分かってくれ、喧嘩について無知な北野に色々と教えてくれた。 喧嘩のやり方を。 攻撃の仕方や、防御の仕方。
だが『まだ俺たちは喧嘩初心者だから、聞いても役には立たないぞ』と言われたが、その時の北野にはそれだけでも十分な力になったのだ。
だから今も、みんなと一緒に戦っている。
北野だって――――みんなにだけ苦しい思いはさせたくないし、みんなと同じ立場で戦いたかったから。
「お、北野ー!」
「インタビューお疲れ」
「どうだった?」
公園へ着くと、みんなは北野を迎えてくれた。 みんなといっても、数人だけど。 今ここにいないのは未来と悠斗、コウと夜月がいなかった。
毎日みんなが集まれるわけではないため、これは仕方がないと思っている。
「ありがとう。 ちゃんとみんなのことも話しておいたよ」
そう言うと、みんなは喜んでくれた。
―――俺の気持ち、ちゃんとみんなに伝わるといいな。
「そうだ、北野ー。 明日と明後日って、空いているだろ?」
「え? あぁ、うん」
「明日からみんなでキャンプへ行くぞ!」
「キャンプ?」
御子紫が、今からでも楽しみにしているかのように笑顔で満ちた顔でそう言った。
「伊達の知り合いが、キャンプ場をやっているらしくてさ。 伊達が聞いてくれたら『安くしてあげるからおいで』って歓迎してくれたよ」
「本当にいいの?」
北野は念のため、伊達本人に確認を取った。
「もちろん。 俺の親は来れないから、俺たちだけで行ってこいって。 キャンプ場にいる知り合いの人が、俺たちの面倒を見てくれるってさ」
「そうなんだ、よかった。 ・・・あ、でもテントとかは?」
「テントや寝袋、毛布とかは俺ん家にあるヤツを使っていいって言われた。 よくキャンプへ行ったりするから、いくつか大きいのがたくさんあるんだ。
まぁ、食材は俺たちで買えって言われたけど」
「もちろんだよ。 ありがとう、伊達」
「いいよ。 ・・・つか、逆に聞くけど本当に俺も行っていいのか?」
その問いに、代表して結人が答えた。
「いーのッ! 伊達がいなきゃ、始まんないしな。 キャンプのこと、何から何までありがとな」
その言葉を聞いて伊達は安心したのか、優しい表情をしながら頷いてくれた。 そして、みんなが役割を決めてくれたらしい。
結人・夜月・椎野・御子紫はテント係。 コウ・優・未来・悠斗は料理係。 北野は真宮と一緒にレクリエーション係――――
―――何だろう、レクリエーションって。
「この後、コウたちと合流して食材を買いに行くんだ!」
「食費代とかは後日でもいいかな。 今日はみんな、集まってねぇし」
優と結人がそのような会話をしているのをよそに、北野は真宮のもとへと近付いた。
「真宮。 レクリエーションって何をするの?」
「まぁ、遊びがメインじゃないんだけどな。 一応、サプライズがあって」
「サプライズ?」
彼はそう言って、楽しそうに笑った。
明日はみんなでキャンプ。 藍梨もいるし、伊達もいる。 結黄賊とは一味違う日常が、明日から訪れるのだ。 これらが、みんなの日常。
特にみんなと北野は、何も変わっていない。 だが北野は、ここにいるみんなと一緒にいられるだけで満足だった。
仲間といてつまらないとか、退屈だなんて思ったことは一度もない。 みんなといられる時間は、一秒一秒大切なのだ。
―――だからこれからも、みんなでずっと一緒にいられるといいな。
みんながずっと、笑っていられますように――――
そして――――みんなに幸せが、これからもずっと訪れ続けますように。