バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

1 はじまり

 私の通う咲野根中学校には毎年文化祭が、通称’’咲祭’’が行われる。今はその咲祭の委員会を決める話し合いをしている。私は学校行事が好きだし、これが最後の咲祭なので委員会に立候補した。委員は二人なのであと一人。
「俺がやります」
そういって手を挙げたのは篠宮くんだった。その後の事はほとんど覚えていなかった。気づいたら、話し合いが終わってた。なぜだか嬉しくて、心がふわふわしていた。私、どうしちゃったんだろう…。
 後日、私たちは委員会で決算した合計金額を確認していた。教室で、二人きりで。今は準備期間でほとんど授業がないので仕事に集中できる、はずだった。
「白石さん、そこの合計間違ってるよ」
「あ…うん」
いつもは会計の仕事で間違うことなんてほとんどない。でも手が震える。篠宮くんの落ち着いた声で、ふとした笑顔で、私はどうかしてしまう。
「ごめん篠宮くん、私体調悪いかも…」
「大丈夫?今日は休んでてもいいよ」
「そうさせてもらうね…ありがとう」
体調が悪いなんて嘘だ、この場から抜け出すための口実にすぎない。私はそのまま篠宮くんに仕事を丸投げしてしまった。
 家に帰って私は今日のことを思い出していた。あの変なドキドキ、嬉しさ、そして震え。この症状はなんなんだろう?私は知りたくてしょうがなくなった。インターネットで調べてみたら、原因がすぐに分かった。それは恋…というものらしかった。私は篠宮くんに恋をしていた。そう考えれば考えるほどに、私はそれを自覚した。
 私は今まで恋をしたこともなかったし、しようと思った事もない。だから、どうすればこれが終わるかもわからないし、どうなりたいかも分からない。私は思いきって親友の茜に相談してみた。彼女は秘密をばらすようなことはしないから安心して話せる。
「へぇ~…恋ね~、佐倉にもそんな人が」
「で、どうすればこの恋は終わるの?」
「まずね、恋には二つの種類の終わり方があるの。一つ目、恋が成就してさらにその人を好きになるハッピーな終わり方。まぁ、終わりで始まりって感じね。で、二つ目、その人に振られてアンハッピーな終わり方。佐倉はどっちがいい?」
「そんなの、まだ分からないよ」
茜は自分の恋なんだから自分で考えろっていってた。だから、私はずっと考えた。悩んで、悩んで、何度も悩んだ。
…そっか、私はずっと篠宮くんと一緒にいたいだけだったんだ。篠宮くんの笑顔をずっと見ていたい、もっと話してみたい、手だって繋いでみたい。考えれば考えるほどに彼のことを求めてしまう。
 とても簡単な話だったのだ。篠宮くんを求めるだけの…簡単な話。その簡単が今までできなかった。でも、今はできる。この気持ちを知るきっかけになってくれた茜にはいくら感謝してもたりないぐらいだ。
(よしっ!これから頑張るぞ!篠宮くん…いや、蓮くんとハッピーな終わり方を目指す!)
私は心の中で決意を固くした。
心の中でぐらい下の名前で呼ばせてね。

しおり