第二百十話
こうして、騒動は鎮火した。
とはいえ事態が事態なので、俺はすぐにギルドと役人へ連絡し、後始末へかかった。色々と話せないことも出ているので(俺が国賓の証を所有しているとか)、色々と工作に大変だったが。
今回の騒動で逮捕されたのは、村長と内通者、そして魔石使いの三人だ。魔石使いは冒険者でもないのに冒険者ぶっていたことが罪だが、余罪がないので禁固刑程度だ。内通者は背反行為、危険行為などの罪が重なっているので、重罪が待っている。
そして村長は様々な罪状があるので、即座に終身刑が言い渡されるだろうとギルドの推測だ。
「終身刑、そうか、ふふふ」
極刑でないので不満じゃないかと思っていたが、意外にもオルカナは嬉しそうだった。
訊ねると、
「奴には《魂の凌遅刑》を刻み付けた。まぁ呪いだな」
となんとも恐ろしい答えが返ってきた。
詳しくは訊かなかったけど、どうせ少しずつ魂を削って発狂させながら死に至らしめる呪いか何かだろう。そんなもんを笑ってかけられる辺り、間違いなく
どの道、村長は助からないってことだな。
まったく。最初は芋泥棒を捕まえるためだけだったのに、どうしてこうなったんだ?
ちなみにその芋泥棒さんは隣で吹かし芋を幸せそうにパクついているのだが。うん、バターとハーブソルトの組み合わせは最強だよな、わかるぞー。
「なんだか随分と大事になっちまったねぇ」
そんな俺にスープを出しながら、おばちゃんは苦笑してくれた。
ちなみに村は現在、合併する流れで話が進んでいる。
芋の発育が悪いのは土壌をちゃんと手入れしてこなかったのが原因で、それを改善すればブランド芋が植えられるのだとか。
元々似た条件だから当然と言えば当然か。
その土壌の手入れの第一歩として、俺たちが接収した芋が使われる運びで、人的資源は村人たちを使うことで解消する。村人たちからも不満は出ていないようだ。
「まったくですねぇ」
「まぁおかげで芋は増産できそうだし、人手不足も解決できそうだしね、悪いことよりも良いことが勝った事件だったねぇ」
おばちゃんは嬉しそうに語る。
ここ最近、芋がブランドとして知名度が上がっているようで、需要がかなりあるそうだ。とはいえ耕作範囲の問題もあるし、何より人員の問題があった。
今回、その二つの問題が一気に解決したのである。
おばちゃんがどこかほくほく顔なのも納得は出来るが、やはりお人よしである。
「後は依頼料だけど、しっかり払うから安心しなよ」
「ええ、ありがとうございます」
俺はお礼を言いつつ、スープを口にした。甘い。
今回の依頼は変更になったので、貰えるポイントが七十五ポイントと跳ね上がっている。俺としてもかなりの収穫だ。中々もらえるポイントじゃあないからな。
おばちゃんがキッチンへ引っ込んだタイミングで、俺はぬいぐるみになったオルカナを見る。すっかりルナリーヴァティアに懐かれて膝の上に鎮座している。
「それで、今後の相談なんだけど」
「うむ? とりあえずお前たちについていく、ということだぞ?」
「それがちょっとした問題なんだよ」
ルナリーヴァティアとオルカナを連れていくことに問題はない。
だが、冒険者としての活動に巻き込むとなれば、大きな問題だ。
理由は単純である。二人は冒険者の資格を持っていないのだ。誰もが冒険者になれるわけではない。
少なくとも三年間は学園へ通うことになるだろう。だが、もちろん身体検査もあるわけで、そうなったらルナリーヴァティアが
どこか抜け道はないものかと思案中なのだ。
「それに、国籍の問題もありますしね」
メイの言葉に、俺は更に気分を重くさせる。
ルナリーヴァティアは現状、身分を証明できない。王国は町人はもちろん、村人にさえ国籍があって、意外としっかりしている。無くても良いのだが、大きな町に入ることは出来ない。他にも色々な意味で不利益がある。
と、なると、まずはそっちの獲得からかな。
早くも面倒なことになっている気がするが、うん、気がするだけだ、うん。
俺は頭を振ってから、ツテがないわけではないことに気付いていた。
――アリシア。フィルニーアの子孫であり、メイが苗字を借り受けた貴族様だ。
学園生活中は色々とあったが、なんだかんだで面倒をさりげなく見てくれた人でもあるので、色々と協力してくれるかもしれない。
特に名前を貸すことに関しては。
「とりあえず王都に戻ってから、だな」
ルナリーヴァティアは王都に入れないので、アリシアを連れ出すことになる。
中々にしんどうかもしれないが、彼女になら
俺は一つため息をついてから、スープを一気に飲み干した。
「さて、そろそろ行くか。ルナリーヴァティア。本当についてくるんだな?」
「うん。幸せ、ついていく」
芋を齧りながら、ルナリーヴァティアは答えた。
意思が固いというか、とりあえずそっちしか考えてないというか。まぁ、仕方ないか。
俺は苦笑しながらメイを見ると、メイも苦笑していた。
「とにかく、ここからそろそろお暇しましょう。依頼達成の報告もありますし」
「報告書もまとめたしな」
メイの提案に、俺も頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
村の人たちとのお別れもそこそこに、俺たちは王都へ向かった。
王都に一番近い宿場町までクータに乗って、宿を確保してから俺だけで王都に戻る。オルカナがいれば問題ないと思うが、一応メイを護衛につけた。
それから俺はポチに乗って戻り、早速アリシアへ渡りをつける。
ちょうど時間があったらしく、アリシアとはすぐに会えた。
以前来た時と変わらない、書籍だらけの部屋で、俺は事情を正直に打ち明けた。
「……
一通り話し終えたタイミングで、アリシアは興味深そうに俺を見てくる。どこか値踏みされているようだ。
ちょっと居心地が悪くなっていると、アリシアはふと笑顔を浮かべた。
「あのおばあ様でさえ、手に入れられなかった領域を易々と見つけてくるなんて……君は面白いね」
「好きで見つけたワケでもないんですけどね」
「でも、仲間として連れて歩くのでしょう? しかも吸血鬼ヴァンパイアと。正気の沙汰じゃあないわよ、正直に言って」
「それも仕方ないんです」
事情は説明してあるので、それだけでことは足りる。
「だから面白いのよ、君は」
評するように言ってから、アリシアは立ち上がった。
「結構よ。あの
「そうですか、良かった」
「でも、名前を与えるかどうかは、その時に決めるわよ。私が気に入らなかったらそれでおしまい。構わないわね?」
笑顔の念押しに、俺は断る胆力がない。
こればっかりはどうしようもないからな。たぶん、大丈夫だと思ってるけど。
「分かりました。それじゃあ、ご足労願いますね」
ミステリアルな笑顔を浮かべるアリシアに、俺はそう言った。