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「全くアンタってやつは……」
ベラが笑う。
「ああん?」
「正直に言いなよ。
誰も死なせたくないって」
「んなもん、言わなくてもわかるだろう?
死んでいい人間なんていないんだ」
ジルの言葉にボクは思った。
このジルは自分の知るジルとは違う。
恐れる必要はない。
でも、怖い。
頭の中では理解できる。
だが、整理がつかない。
ただ怖い。
ただ恐ろしい。
それだけ。
それだけなんだ……
ボクが複雑な顔をしていることにジャキは気づいた。
そのジャキの表情を見たボクも気づいている。
生きる。
ただ生きる。
それだけ。
「まぁ、なんだ……
裕也さんだけが犠牲になる必要はないってことだ」
灰児がそういうとジルがうなずく。
「そういうことだ。
勇者は負けちゃならねぇ。
そのあとに兵士の士気に関わる。
敵はモトフミだけじゃねぇ」
「ベルゼブブのことを言っているかい?」
新一がそういうと次々と名前が上がる。
「赤い眼のモルテも恐ろしいわ」
「フィサフィー」
「クレイジー・クレイジー」
「ガイル」
「ゲルンガ」
「紫」
「そして白銀も……」
「な?今名前が浮かぶだけでそんだけの強敵がいる。
テオスは頭を潰しただけでは、ダメージは受けない」
ジルの言葉にまわりにいたモノの言葉が止まる。
「なら、どうする?」
ジョーカーがそういうとジルが冷静に返す。
「それを考えるための会議だろう?
弱いであろうアスペルガーから倒すのがいいと思うが。
総力ではこちらは圧倒的に弱い。
だから戦力は、固めたらダメだ。
俺らも頭を潰されてもへこたれねぇ力が必要だ」
「理想はそうだが……」
ジョーカーがうなだれる。
「俺らはそろそろ抜け出さなければいけない」
「抜け出す?」
一花が首をかしげる。
「経験値になる側から経験値にする側になるってことさ」
みなが顔を合わせる。
「俺らも勝っていくんだ。
テオスの全滅を目指して……」
「勝つ?」
亜金の目になにかが宿る。
「そうね。
勝たないとね殺されるわよ?」
プレゲトンがそういって冷たい目で周りを見る。
「殺されるだけですめばいいけどね」
ベラがそういうと玉藻がベラの方を見る。
「どういうことだ?」
「痛みを最大限に引き出されて苦しめて苦しめて苦しめて殺すだろうね。
フィサフィーとは、そういうヤツさ……」
ベラの言葉にジャキがいう。
「そういえばお前の両親……」
「ああ。殺されたよ。
目の前で……
残酷な方法でね」
「過去を思い出すな。
未来を見ろ」
ジルの言葉にベラはそれ以上言葉を放つのをやめた。