二話 《第二章》
アルファは必要なものをバックに詰めて出かける準備を終わらせると、ベータの待っている庭に出る。
必要なものと言っても最低限の水と食料、薬品だけだ。
「……」
「あ、もう準備は終わったのですね」
「……」
アルファは、コクコクと頷く。
「それでは行きましょうか」
「……」
アルファはニコニコと笑顔で頷く。
アルファ山に住み始めて、アルファは数百年経つ、この山の事は自分の体のように知り尽くしているから遠足気分なのだ。
もちろん、危険な生き物なども居るがアルファは安全な道を知っている。
ベータは自然に前を歩くアルファの後ろを付いてきている。
~β~
ベータは驚いていた。
(おかしいのです……獣に一度も会わないなんて……)
アルファの安全ルートを進んできたおかげで一度も獣に遭遇しなかった。
それは悪い事ではなく、いい出来事、幸運としか言いようのない出来事だが……。
あまりにも不自然なのだ。
(まるで、獣が私達を避けて道を作っているような……)
過去、アルファに会うためにこの山に挑戦した物はベータだけではない。
数百の編成で国が騎士隊を動かした事もある。
だが、騎士隊の倍以上の獣の群れの妨害にあい。アルファを見つけた者は一人もいない。
「……」
(アルさんは当然の様に歩いているのですが……明らかにおかしいのです)
もう少しで、騎士隊すら到着できなかった山の山頂に着く。
獣に一度も会わず……。行き過ぎた幸運にベータは嫌な予感を感じていた。
「……」
アルファが立ち止まり、ベータはついに獣が現れたかと身構える。
__山頂だよ
「……えっ」
しかし、ベータの考えとは違いアルファが立ち止まった理由は山頂に着いたからだった。
アルファ山の山頂。もはや『伝説の地』とも呼ばれている場所に難なく着いてしまう。
英雄アルファが邪神討伐後暮らしているという伝説の地。
「何も……ないのです」
だが、そこにはベータの考えていた様な風景はなかった。
どの山とも変わらない。山の頂……そこにはアルファどころか人が住んでいた形跡もない。
「あ、アルファ様が住んでいるというのは……嘘だったということなのですか……」
ベータは山頂にはアルファが住んでいると確信していた。それはこの国の者なら当然の事だろう。
でなければ、過去に国が騎士隊を動かしてアルファを探すわけがない。
だが……伝説は所詮伝説。それには当然嘘もある。
「……」
アルファは落ち込んでいるベータを見て、首を傾げる。
「そんな……私、村の人になんと言えば……」
悲しさに目に涙を浮かべるベータを、どう励ませば良いのか分からないアルファは困惑する。
__もう少し探そう
アルファは地面に書いた。そして、ベータの方に手を差し伸べた。
「アルさん……」
ベータはここにいなければアルファがこの山に居ることがないのは分かっていた。
アルファの事が書いてある伝説には『邪神を倒した英雄アルファは昔自分が修行をした山の山頂で緩やかな人生を過ごすことを決めた』と書かれていた。
山頂にいないという事はアルファが山に住んでいるという伝説が嘘だったという事になる。
「ありがとうなのです……。はい、もう少し探しましょう」
ベータはアルファの手を取り、涙をこらえて笑顔を作った。
瞬間、大きな爆発音が山を駆け抜けた。
ベータとアルファは咄嗟に爆発音の方向を見た。
「あ……あぁ……」
「……?」
ベータは爆発音のした方向を見て膝から崩れ落ちる。
アルファは何が起きているのかわからず、目を凝らして山の麓を見た。
そこには人々の集落があり、黒い煙がモクモクと空に上っていた。
「村が……」
ベータの一言を聞いて、アルファはあれがベータの言っていた村だったのかと理解した。
__助けに行くよ
そして、アルファはすぐに地面に書いた。
ベータはアルファの書いた文字を見て、驚いた表情でアルファを見る。
アルファの顔は先程と変わらない笑顔で、自分のしようとしていることに少しの疑問も持っていないように見えた。
「……はい!」
ベータはなぜ平然とそんな事を、と思ったが村は恐らく獣に襲われている。
早く向かわなくちゃ被害が拡大していくだけ、村に自分以上の実力者はいない。
だから、悩んでいる暇はない! とベータは判断した。
「__『村まで飛べ』」
アルファは相当な痛みを覚悟して言葉を出した。
二文字三文字なら痛みもすぐに引くが六文字ともなると、数分は痛みが消えない。
だが、その御蔭で気を失うこともない。
「えっ!?」
「……っ!」
アルファとベータは宙に浮き、物凄い速度で村に飛ぶ。
ベータは驚きで手足をバタバタと動かし、アルファは痛みに耐えながら村を見据える。
__これがアルファの英雄譚。その第二章の幕開けだった。