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告白④

数分後 結人の家


―――あぁ・・・疲れた。 
肉体的ではなく、精神的に疲れた。 帰宅した結人は、力なくベッドに倒れ込む。 そしてまた、彼女のことを思い出していた。
―――・・・俺は、藍梨さんのことを好きでいていいんだよな。
この気持ちに偽りはない。 だが今の関係のまま告白をしたら、成功する確率は低いだろう。
もしかしたら既に藍梨には彼氏がいるのかもしれないが、真宮から話を聞いている限りそれらしき行動や発言はしていなかったため、彼氏はいないと思われた。
―――これからどうやって、藍梨さんに近付いたらいいものか・・・。
そこで意味もなくポケットから携帯を取り出した。 そして、先刻起きた出来事を思い返す。

―――・・・にしても、さっきの電話。 
―――まだ俺は、過去を引きずっているのか。 
―――・・・どうして、アイツがここ、立川なんかに・・・。

~♪

携帯を眺めていると、タイミングよく着信が鳴り出した。 どうやら相手は真宮のようだ。 
結黄賊からの連絡のため、またもやあまり乗り気ではないがとりあえず電話に出ることにした。
「ん・・・。 もしもし」
『おーユイ、今日は藍梨さんとどうだったー?』
電話越しからは、楽しそうに尋ねてくる真宮の声が耳に届く。 そして目を瞑りながら、その問いに対しての答えを返した。
「別に、大した進展はしてねぇよ」
楽しそうに聞いてくる彼だが、結人は事実を話す。 一緒に帰ったことまではいいが、特に何のいいことも悪いことも起こらなかった。
いいことと言えば彼女に対してのモヤモヤが晴れたことだが、その後に届いた一本の電話で晴れた心に再び影が差す。
―――マイナスなんかに向かっていないよな。 
―――少しは・・・前を向いたよな。
その発言に、真宮は相槌を打った。
『そっかー。 帰りはどんなことを話したりしたんだ?』
―――・・・帰り、か。 
そう尋ねられ、結人の脳裏には先刻の出来事が再現される。 

『・・・俺と、風紀委員をやるのが嫌だった?』

―――何であの時、あんな発言をしちまったんだろう。 
―――・・・最低だよな、俺。
心がスッキリしたとはいえ、あの発言をしてしまったことには後悔していた。 少しでも藍梨に嫌な思いをさせてしまったのかと思うと、胸が苦しくなる。
「別にー。 特に大した話はしてねぇ・・・」
『ふーん、そっか。 ・・・あ、ユイ今から会える?』
―――え、今から? 
特にこの後は何も予定は入っていないが、今はそんな気分ではないし外には一歩も出ず大人しくしていたかった。 だからそんな真宮に、やんわり断ろうとする。
「あー悪い、今はちょっと・・・」
『それじゃあ、駅前のファミレスのところで待ち合わせな! 絶対来いよー』
「は? おい待て真宮!」

―ツー、ツー。

一方的に切られた電話を力なくベッドに下ろし、結人は深く溜め息をついた。
―――あー、面倒くせぇな・・・。 
しばらく天井を見つめたまま動かずにいたが、無理矢理身体を起こしベッドから降りる。
―――ったく・・・空気読めよな、真宮。 

―――・・・いや、寧ろ真宮は、空気を読んでくれていたのかもな。

ふとそのようなことを思った結人は、億劫な気持ちが少しなくなり彼との待ち合わせ場所まで行くことにした。





数十分後 ファミレス前


結人は制服から私服へ着替え、駅前のファミレスまで足を運んだ。 中へ入ると真宮は既に着いていたようで、席を立ちこちらへ向かって手を振ってくる。
そんな真宮を見て彼のいる場所まで向かい、対面する形になって席に座った。
「飲み物、何にする?」
その一言から飲み物を互いに決め、店員に注文する。 そして注文し終えた後、少しの間この場には沈黙が訪れた。 

だがこの気まずい空気の中、最初に口を開いたのは――――真宮の方だった。

「・・・藍梨さんと、何があったよ」
「・・・」
真宮は結人の全てに気付いている。 その問いに結人は言いよどむが、この場を誤魔化すように小さく笑ってみせた。
「別に、何もねぇよ」
彼に隠していても、無駄だと分かっておきながら。 その発言を聞いた真宮は、間を空けずに会話を続けてきた。
「じゃあ、藍梨さん以外で何か嫌なことでもあったのか?」
結人が嘘をつかないということは、真宮は知っている。 いや――――嘘をついたとしても、彼だけにはすぐバレてしまう。 
だから藍梨のことでは何もないということは、信じてくれたのだろう。
「どうして、真宮は俺のことが分かんの?」
どんなことでもお見通しな彼に少し呆れ、溜め息混じりで小さく呟いた。 すると真宮は少しの間を置いて、微笑みながら結人に向かってこう答える。

「ユイのことなら、何でも分かるよ」

真宮浩二。 彼は結人以外でも人のことをよく見ており、些細な変化にでもすぐに気付く。 もっと言えば、人の考えていることが何となくだが分かってしまうのだ。 
これは自ら、相手の考えを読み取ろうとしているのではない。 何もしなくても、勝手に分かってしまうのだ。 相手の考えていることが。 
だから知りたくもないことを自然と読み取ってしまうこともあるらしく、彼はその性質に苦しんだ時もあった。
だが大抵、真宮が先に仲間の異変に気付き早めに対応することができるため、結人は彼に感謝している。 事を大きくさせずに済むから。

そしてこの性質――――能力を持っている者は、結黄賊の中にもう一人いた。 だけど彼のことは、今は省くことにする。 
当然真宮は結人のこともちゃんと見ていた。 そんな超能力と言ってもいい素晴らしい性質を持つ彼が、ずっと結人の近くにいてくれているため、いつも助かっている。 

そしてもう一つ大事なこと。 それは、真宮は結黄賊の副リーダーであるということだ。 副リーダーには、彼が最適だと思ったから。 結人はそんな真宮のことを、結構気に入っている。

「ま、正直なところを言うと声のトーンで分かったけど」
いつの間にか運ばれていた飲み物を口に運びながら、真宮はそう口にした。 そして一口飲んだ後、続けて彼は言葉を紡ぐ。

「俺たちには『苦しいことがあったらすぐに言え』って言っている本人が、まさかここで何も言わないっていうのは・・・ねぇよな?」

“それはもっともな発言だ”と思い、結人は何も言い返せなくなってしまった。 
そんな彼に観念し、先刻届いた電話のことを思い出しながら、ゆっくりと言葉を綴っていく。 
「・・・電話が、かかってきたんだ」
「電話? 誰から」
「・・・」
遠慮ない彼の質問に、再び口を閉じてしまった。 だけど真宮は、必要以上なことは何も言わず結人の返事を待ってくれている。
本当はこの名をあまり口にはしたくなかったのだが、ここまで来て引き返すわけにもいかず、先程の続きをゆっくりと口にした。

「・・・柚乃から」

「ッ・・・」

この一言を放った瞬間、真宮の表情が一瞬変わる。 だがすぐに平然とした顔へ戻り、何事もなかったかのように返してきた。
「で、何だって?」
そして結人は、複雑な心境を持ち合わせながら一呼吸を置いて、こう言葉を発する。

「・・・また、会えないかって」


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