さぁ冒険の始まりだ!
「らっしゃいませー」
「おらおら! ちゃんといらっしゃいませって言え! これだから若いやつは嫌いなんだ!」
「はい、すいませんねー」
街ではそこそこ有名なレストランにて。俺は今日も掃除当番を任されていた。
トイレ掃除に客のこぼしたものの後始末、そんなサブのサブがやりそうな仕事ばかり押し付けられる俺は、モップを片手に、いつも通り文句ばかり言ってくる店長のくそ髭親父から距離を取り、黙々と玄関の掃除を始める。
……俺が求めていた冒険者ライフはどこに行ったんだ。
着ているレストランの制服の裾をモップを持つ手とは逆の手でぎゅっと掴み、歯ぎしりをする。
くそ! なんで、なんで俺だけ魔法も剣技も使えねぇんだよ!
イライラがつのりにつのった俺は深呼吸を一回すると落ち着いて掃除を開始する。
「お客様、
「はい、使えます」
「かしこまりました」
俺から一番近くの席に座る私女の人はそんなことを言いながら笑顔で注文を開始する。
ほらな。どんな人でも下級魔法くらい使えるんだよ……。
そんなことを思いつつ遠くの席まで見てみると、八割型の人が人差し指から炎を出したり水を出したりと、下級魔法のオンパレードだった。
俺も……使ってみたいな。
モップを動かすのを止め、自分の右手の人差し指をじっと見る。
まぁ何も起きないんだけどね……。
そんな悲しい現実にモップを動かすことしか出来ない俺は、喧騒としたレストラン内の端っこに移動し、またまた掃除を開始する。
「ありがとうございましたー! またのご来店を!」
「はいはーい美味しいお酒ありがとーねー!」
そんな俺をよそに、また一人食事を終えレストランをあとにしようと立ち上がった女の人がいた。
おいおい、綺麗すぎねーか。
その人はとても可憐で美しかった。
美しい紅色の髪の毛をポニーテールにしたその女の人は、細い顎に手を当てくすりと笑い、また来るね! と言い俺の前を通り過ぎて行った。
嗅覚が感じ取るのはバラのような匂い。どこか懐かしい匂いだ……。
そんなことを思い、掃除していた手を止めその場にボーとしていた時、安定の怒鳴り声が響き渡った。
「おいこらぁぁぁぁ!! 手を止めんじゃねぇ!!!」
「……………っっっ!」
不意の怒鳴り声にビクリと肩を跳ねさせた俺は、羞恥で顔が真っ赤になるのを感じる。
食事をしていた人たちも、なんだなんだ? とこちらを見ている。
恥ずかしい……。
客がそんな俺を見てクスクスと笑い始めたその時だった――
「そんなに怒鳴ったら可哀想じゃない! ……大丈夫? 怖かったね、よしよし」
それは先ほどの女の人の声。そして優しく細っこい手。
俺の頭を優しく撫でてくれるその女の人と目を合わせることは不可能だった。
もう涙でいっぱいだから……。これ以上動くと一気に溢れ出てしまうから……。
その言葉にさすがに萎縮したのか店長もすいませんでした! と頭を下げる。まぁもちろん俺にではなく女の人に対してだが。
すると、女の人は撫でるのをやめ優しい声であることを聞いてきた。
「あなた、冒険者になりたくない?」
「え」
「もしなりたいなら私のところに来なさいな、見た感じサイコロも持ってなさそうだし」
「…………!!!」
初めてだ。この街に来て、おじいちゃんと離れてから初めての優しさだった。
どの神の所に行っても除け者にされ、友達なんかもできず、話すらまともに聞いてくれないこの街での初めての出会いだった。
こんな優しい人がいたなんて……!
俺は涙なんか流れてもいいと思いっきり顔を上げ大声で答えた。
「俺で……俺でよければ宜しくお願いします!!!」
こうして俺、