第十五話
少年は、そこに言ったことを入力し、楡浬を遠慮がちに見ている。
「なんと、この神様であるアタシに、無益な労役を強いるつもりなの?恐れ多いとか、思わないの?」
「それだと、もっと難しい神頼みをしますけど。」
「わ、わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば。その前にお賽銭を入金しなさい。」
ディスプレイに小さな賽銭箱を象った映像が浮かんでおり、少年は銀行ATM入金のように百円玉を入れた。
眉間にしわ寄せしながら、暗い社の中で御幣を振る楡浬。
「アタシの神痛力で、そのカバンをあんたの手元に移動させるわ。そのミミズのように細過ぎる目を全身全霊で開いて、カバンを見なさい。えいっ!」
少女は社の中で御幣を大仰に振りまわした。
『コトッ。』
カバンが小さな音を立てて、ひっくり返っただけ。
「仕方ないですわね。神痛力には整腸剤が必要ですわ。」
大悟はやおら社を出て、トコトコと歩き、短いスカート部分を揺らめかせて、カバンを拾い上げた。
「ほら。ちゃんと門外不出の神痛力を使ってやったんだから、感謝しなさいよね。」
「はあ。ただ単にカバンを運んでくれただけのような。それも大きなお姉さんが実行したんだよね。」
「なに、バカなことを言ってるのよ。これだから、神頼みを軽視するとバチが正面衝突するわよ。願いを叶えたんだから、手数料のお賽銭の効果があったのよ。」
「全然ありがたくないのに。これって、神頼みの押し売り?願いが叶うなんて、嘘に決まってるし。でも百円払って解放されるなら、まだマシかな。」
「何か、耳障りなフレーズが、アタシの鼓膜の前で待機モードなんだけど。」
「な、なんでもないです。さよなら!」
不良グループから逃げ出すように神社を後にした男子の影を見送る楡浬と大悟。不良とは思わぬところで出くわすから注意しないといけない。
「心の底に沈殿する神頼みを叶えるって、実に清々しいものだわ。これで神楽天ポイントが1。あと9ポイントでリーチよ。今のホワイトカードから、シルバーカードへ昇格してみせるわ。アタシの神経垂迹には成功の金屏風が飾られているわ。アハハハ。」
楡浬は、張れない胸を強引に張り出して、悪徳不動産王のように高笑いしていた。
「これでは先が思いやられますわ。神頼みって、完成しないバベルの塔なのでは?」
肩に吹く風が、ズシリと重く感じる大悟であった。
【イタイ!】
「馬嫁下女、何か言った?」
「いいえ。特に何も言ってませんわ。」
「変ねえ。どこからか言葉が聞こえたような気がしたんだけど。」