プロローグ
「これで我の因子と記憶は輪廻転生されるはずだ。神の子め、この痛みを次はお前達に与えてやるからな!!ガハハ、ガハッ……」
この世の全てを恨むかのような最後の声を上げ、この大悪魔は息をしなくなった。
この大悪魔は神の子と呼ばれる「善の象徴」に打ち倒され、絶命する直前にある古い禁術を己の身体に施した。
その術は簡単に言うと輪廻転生を自分の魔力によって再現するというこの世の理に違反する代物だった。
また、リスクと呼べるリスクが無いというのもこの術の異常さの理由の一つになるだろう。
しかしこの術は神々も使用するだけあって、常人には修練をしても到底辿り着くことも出来ないほどの魔力を必要とするのは必然だった。
しかし、この大悪魔は底を尽きかけていた魔力を隠し持っていたマジックアイテムによってできる限り回復させ、その奇跡を起こした……かのように思えたが、実際はほんの少し魔力が足りなかったのである。
「偶然」
この時起こった出来事にこれ以上の言葉があるだろうか。
偶然なのか必然なのか、この異世界の時間概念は地球のそれとまったく同じだった。そしてこの大悪魔が絶命した時間、その時刻のコンマ1秒までもが同じタイミングで息を引き取ったある日本人の男がいた。
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男は自分で感じているほど幸せで順風満帆な生活を送っていた。五体満足で産まれ、そこそこ良い会社で若いながらも成果を出し、良い女性にも出会い、結婚も出来た。
まぁ、結論から言うと、人生はこんな良いことばかりなはずがないのだ。
それもそのはず、結婚式を終え、次の日の初めての二人の生活で自分の得意料理の中華料理の材料が足りないことに気付いて近所のスーパーマーケットに歩いて行ったところ、帰る途中に後ろから突っ込んでくる居眠り運転の軽自動車にぶつかり、気づいたら体が吹っ飛んでいた。
しかも即死では無く、意識がある状態で虫の息という最悪の状態だったのだ。
なんとも言えない鈍い痛みとフラッシュバックのように目に浮かぶ一瞬の走馬灯に驚きながら男は呆然と呟いた。
「死ぬのかー、嫌だなぁ........」
その言葉を最後に男の意識はテレビのようにブツリと切れたのだった。
先の2人の死亡時間がコンマまで合致するという偶然と、大悪魔の魔力が少し足りないというほんの少しのミスが輪廻転生の術を狂わせたことがこの物語の始まりであり、原点でもある。
そして奇しくも日本ではちっとも珍しくない黒髪という部分だけが2人の死亡時間以外の唯一の共通点だったのは神の悪戯とでも言うべきだろうか。