第二話
学校に着いた大悟たち。大悟は黄金色の高さ10メートルは優にある校門を通りながら、首をかなり反らして上を見上げている。柱には『神鳴門高校』と書かれている。それは校門というよりは威圧的な凱旋門にしか見えない。左右には刀と槍を持った女神像が柱の中で門番として生徒を見下ろしながら睨み付けている。
「いつもながらでっかい校門だよなあ。これって校門なんかじゃなく、明らかに大鳥居だよな。」
「そうだね、お兄ちゃん。ここを通過すると、関所のようにお賽銭が置いてあって、生徒は必ずお賽銭を入れなきゃいけない校則なんだから。」
「授業料とは別に毎日お賽銭が必要だなんて、実に不合理っていうか、ぼったくりだよな。毎日授業を受けられるというありがたみを感じさせるためらしいけど。お金の行き場が気になるねえ。」
ふたりはありがたくなさげに、賽銭箱に小銭を入れた。大鳥居の校門が朝日を浴びて輝いている。いつもきれいに磨かれている証拠である。
べったりの兄妹は、無数の黄金椅子ペアを横目に見ながら、別々の校舎へと分かれていった。
二階の教室に向かう大悟。その前に三組のペアが先行しているが足下は左右に大きく揺れている。上に乗っている女子は黒い服を着用している。
女子は三組の先頭に立つ、黒ブレザーの小柄な女子が、ツンツンに立てた二本緑髪をさらに跳ねさせている。
「もっと速く走ってよ、この駄馬ぁ。こんな牛車のようなスピードじゃ、おふくが遅刻しちゃうよぉ、ナメクジにも負けちゃうよぉ。よぉし、言うこと聞かない馬にお仕置きだよぉ。ナメクジ退治は、昔からこれがいちばんなんだよねぇ。じゅる。」
自称おふくという女子は、よだれで濡れた口を拭って、わずかにつり上がった丸く赤い瞳を爛々とさせながら、椅子を持つ女子に塩をまいた。
「痛い!」
目にまともに塩を食らって、顔をしかめるセーラー服女子。
おふくのすぐ後ろにいる大柄な女子が、耳に手のひらを当てて、聞き耳立てのポーズ。色黒な肌に月見のような丸い目、大づくりな鼻と肉感的な唇が、肩までの漆黒の髪によく釣り合っている。
「おふくちゃん、ちょっとひどい扱いどす。馬も動物なんどすから、可愛がることも必要どす。ウチのように小さなからだを、より縮めて馬の負担を減らしてやるのが飼い主の務め。優しく接すれば、馬も応えてくれるもんどす。馬の耳にも念仏どす。」
「ダイコクちゃん。馬の耳に念仏は、効果がないという意味だよぉ。おふくたちは、無意味行動禁止だよ。どうせやるならこんな風にしないと。」
おふくは、後ろを向いて、椅子から身を乗り出し、頭を逆さにしたポーズで、ダイコクのひざ下を覗きこんだ。
「うひょー。今日は黒の水玉だねぇ。これは初物だよぉ、超ラッキー。神秘的な宇宙の始まりを感じるよぉ。」
おふくの二本のツンツン髪が頭の真ん中で一本になり、殿様のように立っている。
「きゃあああ!止めてどす。恥ずかしいどす。乙女の純潔が汚されたどす。破れたポイはポイ捨てされて沈むどす。しかもうちはポイの破れて溶け出した紙どす。散り散りになって当て所なく、金魚すくいの水槽を漂うだけで、誰にも気づかれない幻どす。もうお嫁に行けないから、せめて金魚と一緒に掬ってほしいどす、どす、どす。」
大柄なダイコクはブンブンという音を響かせながら、顔を左右に振っている。
「きゃあああ。」
風圧で廊下の窓ガラスが割れてしまい、馬女子や他の生徒たちを血だらけにしてしまった。その光景がダイコクの視界に入る。
「こ、コワいどす。血を見るなんて初めてどす。気持ち悪いどす!」
頭を下げて、すっかり意気消沈のダイコクの図。
「ク・・・ク・・ク。ク、ク、ク。ギャハハハハハ!」
口の端を吊り上げたダイコクは、バチバチと馬の尻を叩き、苦痛に耐えかねた馬女子は悲鳴を上げた。それに飽き足らないダイコクは、ガラスのなくなった窓枠に、長く伸びた腕を当てて力一杯引いて、壁ごと破壊。校舎の外にコンクリートの破片が落下して、歩いていた生徒を傷つけた。
「コワいどす、コワいどす、ウチは血がコワいどす。」