第十四話 人間界に現れし「神」
~三人称~
「さあ、約束通り人間界に向かってもらうぞ。あいつは新たに二つものスキルを『創造』した」
「別に二つくらいいいじゃな~い?必要以上に『創造』を使ってるわけでもないし~?」
「いや、ダメだ。殺さないまでも忠告くらいは必要だ」
話しているのは「神界」の長と褐色肌美熟女の「
「時神」は人間界に行きたくなかった。「神界」と人間界の境に張られた結界のせいで物凄い量の魔力を消費するからだ。大量の魔力を消費すると恐ろしいほどに疲れる。
なおも反論し続ける「時神」に対して、長は「命令だ」と一言告げるとどこかへ去っていった。
長の有無を言わさない態度を見て、こりゃもうだめだと思った「時神」は人間界に向かう支度を始める。
とは言っても持ってくものはほとんどない。
勿論「神界」には人間界と共通の金銭などもなく、他に必要な物といえば武器くらいだ。
彼女は
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僕達はとある依頼を難なくこなし、ソアールへの帰路へついていた。
「思ってたより簡単な依頼だったね~!」
「僕達が強くなりすぎただけだ」
そんな自惚れのような会話をしていたとき。
ヒュウウウウゥゥゥ―――……。
ふと上で風切り音がしているのを感じ取り、その方向に顔を向ける。
――美熟女が空から降ってきていた。
「危ないッ」
僕は全力で駆け、降ってきていた熟女をお姫様だっこになるような格好で受け止めた。
「グェッ……」
予想以上の重さに僕は呻き声をあげるが、あの速度で空から降ってきたのだからこうなるのは必然と言える。
むしろよく止められたものだと自画自賛したくなるレベル。
「ありがと――ッ!?」
僕の腕の上から降りながらお礼を告げていた彼女は、僕の顔を見た瞬間にその言葉を止め、物凄い殺気を放ってきた。
「えっと、僕が何かした――ひっ?」
質問が終わる前に手に持っていたかなり強力そうな剣で切りかかってくる。
「私は今、猛烈に怒ってるのよ~?」
喋っている間も本気で剣を振り回し続ける。
「お前が余計なことをするせいで私がこんなところまで出向かなければいけなくなっちゃったの~」
彼女が纏うのほほんとした雰囲気とは対称的に、その剣技は恐ろしい程に鋭い。
「武術適性(剣)」を持っている僕以上の技をどんどん繰り出してくる。
その上剣自体も良いものなのだろう。
一撃でも貰ったら簡単にあの世に行ける気がする。
そして、何より意味の分からないことがある。
戦いながら何とか「鑑定」を使用することに成功したのだが……。
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名 前:読み取り不能
性 別:読み取り不能
年 齢:読み取り不能
種 族:読み取り不能
職 業:読み取り不能
スキル:読み取り不能
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こんなステータスは初めて初めて見た。
ステータスを隠す類のスキルでも持っているのか? しかしそれにしては剣技の方が凄まじすぎる。
持っているスキルがひとりひとつである以上、剣技を上げるスキルを持っていると推測される彼女がステータスを隠せるスキルを持っているはずがない。
「武術適性(剣)」はあくまでも「適性」なので、才能あるやつが本気で努力すればあるいはこのスキルに追いつけるかもしれない。
しかし、その可能性は限りなく低いだろう。
恐ろしい程の才能と、血の滲むような努力がなければ追いつくことなんてできやしない。
……わからない。
考えてる間にも次々と相手の剣は繰り出され、致命傷こそ避けているものの、完全には避けきれない僕に細かい傷が少しずつ増えていく。
「アーツさんに手を出さないでください!」
そんな声と共に太い植物の根っこのような物が飛来する。
フェラリーが自身のスキルである「魔法適性(木)」と種族スキルである「植物操作」を併用してサポートしてくれたのだろう。
さらには、レヴィの空間魔法の渦が美熟女の目の前に展開され、一方キーは精霊術ですぐにでも攻撃できる体勢でいた。
――しかし、それらは全て停止した。
僕と相手の女以外が完全に時が止まった空間で、相手は面白そうに言う。
「ふふっ、私のスキルを教えてあげようか~?」
美しい顔を歪めてにっこりと笑む。
その笑顔はとても美しかったはずなのに、不思議と恐怖を覚える笑顔だった。
「『時』だよ~、私のスキルは」
返事する前に自らスキルを明かしていく。
しかし僕はそんなスキルを聞いたこともない。
名前から想像するに時を操るスキルだろうが、そんなのが世界バランスを保っているようには思えない。
僕はその女に底知れない恐怖を感じた。
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名 前:読み取り不能
性 別:読み取り不能
年 齢:読み取り不能
種 族:読み取り不能
職 業:読み取り不能
スキル:読み取り不能
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スキルを知ったことによって一部でも読み取れるようになったかと思ったが、全くさっきと変化はなかった。
そして、彼女は艶美に笑って続ける。
「私は『時神』。『創造神』であるアーツと同じ『神』だよ~」
時を止められた世界の中でその言葉を聞いていたのは、僕と、「時神」と名乗った熟女だけだった。