第九話 鬼ごっこin夜の王城withエルフの大群
僕達は夜の王城を走り続ける。
王城の人に見つかってもエルフに捕まってもアウトの鬼畜仕様。しかも魔物とかではなく、人間だから殺すこともできない。
僕は極小の光を「魔法適性(光)」の光魔法で生み出し、周辺を照らしながら走る。
しかしエルフの中にも「魔法適性(火)」を持ってるやつがいるらしく、それによってエルフ側にも灯りがあって優位に立てない。
それにしてもスキルの「魔法適性(火)」と種族スキルの「植物操作」って相性悪そうだな……。下手したら植物燃やしちゃうんじゃないの? いや、むしろ燃えた植物で戦うのか?
そんな下らないことを考えていると、フェラリーに冷たい目を向けられた。
偶然にでも王城の人に見つかったら終わりなので、「索敵」で人の気配がする方を避けていく。物音もできる限りたてないように走る。
しかし、それにも限界はくる。
「ちっ、どの通路を行っても人がいる」
通路が前、右、左に分かれているが、そのすべてから人の気配がする。
こんな夜中なのにこれだけ多くの人が働いているのには驚いた。いつかどこかで聞いたブラック企業というのはこういうことではないのか?
再びズレた思考を元に戻しながらフェラリーに指示を出す。
「走ってる勢いを殺したくないから前に行こう」
「はいっ!」
僕達は真っ直ぐ前に進む。
そして、気配のする部屋の目の前を素通りしようとし――
バタンッ、ガシッ、ドンッ、バタンッ。
――ドアから出てきた小さな手に腕を掴まれて引きずり込まれた。
ここで何が起きたのか解説!
バタンッ(通路横のドアが勢いよく開く音)。
ガシッ(僕とフェラリーが腕を掴まれる音)。
ドンッ(僕とフェラリーが部屋に引きずり込まれる音)。
バタンッ(通路横のドアが勢いよく閉められる音)。
僕はその部屋の中に勢いよく投げ出され、尻餅をついた。
「グベッ」
思い切り床に投げ出され、下品な声を上げてしまう。
「お二人、アーツ様とフェラリー様ですね?」
「え、あっ、はい」「そうです」
唐突に投げかけられた問に、咄嗟にフェラリーと同時に答える。
「お父様がお待ちしております。付いてきてください」
そこで初めて僕は彼女の顔を見る。
「……へ?」
その彼女があまりにも可愛くて、気の抜けた声が出てしまう。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもないです」
整った顔立ち。かすかにウェーブがかかった長く美しい髪。全てを飲み込んでしまいそうな、深い碧色の瞳。
まだ10歳くらいだろうが胸部はほんの少し、しかし確かにピンク色のドレスを持ち上げていた。
そして微かに生まれる疑問。僕とフェラリーを引きずった怪力はどこから出てきたのだろうか。
この少女が向かった先にあった部屋に入ると、そこにはさっき僕が殴り飛ばしたドゴーン国王陛下がいらっしゃった。
……え? あの少女、この人のことお父様とか言ってなかった? お姫様だったってこと?
まあいいや、取りあえずさっきのことは謝っとかないとな。
「国王陛下、先程は失礼致しました」
「よいよい、儂から仕掛けたことじゃ」
ふぅ、どうやら許してくれたようだ。
「それよりも、さっきお前はエルフ達を解放して、もう村を襲ったりするなと言っていたな」
「……は、はい」
「お前がある2つの条件を受け入れてくれるのなら呑んでもいい」
マジか……。何だろ条件って。
そもそも弱みで脅しているのが僕達なのだから向こうに条件を出されるというのも変な話なのだが、聞ける条件なら聞くことにする。
「一つ目の条件は、儂が助けを求めたときに駆けつけてくれること」
つまり、国がピンチになったときとか国王が出掛けるときの護衛になってほしいときとかに呼ばれるから駆けつければいいってことか。
「魔法適性(時空)」があるからそれくらいならできるかな。
これで穏便に約束を取り付けられるのなら呑んでも良い。
しかし一応これだけは呑んでもらえなきゃ困る。
「どうしても無理なときはこれませんよ? 仲間がピンチなときとか」
「それでも構わん。ただし家族、仲間以外の全てよりこちらを優先しろ」
……家族はいないけど細かいことは気にしないっと。
「わかりました。一つ目の条件は呑みます」
「ふむ、では二つ目の条件だ。そこにいる儂の娘をお前のパーティーメンバーとして連れていけ」
「理由を伺っても?」
「一つ目の理由は彼女に経験を積ませたいからだ。冒険者として得た経験は将来必ず役に立つ。二つ目の理由はお前の横が最も安全だからだ」
「なるほど。わかりました。そっちの条件も呑みます」
これだけ可愛いのだ。僕としては何ら問題はないどころかむしろ嬉しい?
「では娘を頼むぞ。死なせたりしたら分かってるな?」
すげえ殺気だな……。件の娘が怯えてる……。
しかし僕はそれを正面から受け止める。
「分かっています。ただ、今回のようなことが再び起きたら容赦しませんよ?」
それだけ言うと僕はフェラリーと、新たに王女様を連れてこの部屋を後にした。
――そして、ドアを開けるとそこにはエルフ達が……。
不意打ちだった為にあっさりと捕まってしまう。
しかし、王女様が「魅了」スキルを発動。国王の「カリスマ」を上書きしてしまう。
スペックは同じだろうからこの系統のスキルは類似スキルで上書き可能ってことか。それとも時間が経つと効果が薄れていくのか?
「皆様、こちらの方の話を聞いてください」
王女様がそういうと、エルフ達の視線が一度にこちらを向く。
……村を襲った黒幕すらあそこまで尊敬させてしまう「カリスマ」もそれを上書きしてしまう「魅了」も恐ろしいスキルだな……。
僕はエルフ達にこれまでのことを全て話した。
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その後、何とか誤解を解くことに成功した。
そして最後に……。
「今回の記憶を消したい人はいますか? 肉体も記憶も村が襲われる前の状態に戻すことができます」
一応回復魔法がかけられていて傷などはないが、精神までは回復できない。また、回復魔法は
しかし、誰も手を挙げようとしない。
エルフのひとりが言う。
「確かに今回は酷いものだった。でも、記憶を消して逃げることを正しいとは思わない。それに何より、記憶を消しちゃったらフェラリーに助けてもらった記憶もなくなっちゃうじゃないか。そんなの嫌だよ」
フェラリーは今の一言で少し涙を浮かべている。
僕の心臓が貫かれたときといい、彼女は涙もろいのだろう。
エルフ達はみんな、同じ気持ちなのか頷いている。
「フェラリー、ありがとう」
「酷いこと言っちゃってごめんね」
「この恩は生涯忘れない」
次々と浴びせられる感謝と謝罪にフェラリーは満面の笑みで答えた。