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偵察に潜む、復讐と覚悟

「偵察、ねぇ……」

アベルが呟く。

「……やるっきゃないっしょ」

俺がそう言う。

「まぁ、頑張るしか無いですよ」

クリムがそう言った。するとミカエは、

「エイエイオーってやろうよ! 私が仕切る!」

そんなガキのようなことをぬかすので俺はしぶしぶ皆に従った。他の人達は知らないが。

「がんばるぞい!」

「「「「ぞい」」」」

こんなことをやって、城に入った。
何故か、城の前で──
「うっわぁ……」

例えはどピッタシであっている。
絡まったイヤホンのようにごちゃごちゃしたパイプが俺達の前に立ちはだかった。

「でも、入口は二つしかないんですね」

クリムが期待はずれのように言う。

「まぁ、二手に分かれて見ていった方がいいんじゃねぇか?」

「そういうことなら、ボクは結羅さんと組みます」

リーベが真っ先に手を挙げた。

「え……提督の話は終わってないんだけどなぁ……まぁ、帰ってきてからだな」

アベルが若干不満そうに呟く。

「んじゃ、私とクリムとアベルのペアと結羅とリーベのペアって感じでいい?」

「よき」

俺がそう言うと、みんなも頷いてくれた。

「はいじゃ、また後で」

「あい」

俺とアベルはもう打ち解けた……はずなので息ぴったりのはずなのだが、まぁいいや。

「頑張りましょうね!」

リーベが俺の心臓をトン、と叩く。

バチッ。

と心臓がなる音がした。俺はその音にとてつもない嫌な予感をしていたのだが、それは喉で抑えて、

「ガンバロー」

と返した。
しかし、その結羅の感じた<嫌な予感>は生憎、的中するのである──










絡まったイヤホンのようにごちゃごちゃしている人が一人入れるくらいの大きさのパイプを伝って、城の地下へと入った。

「うっ……くっさ」

そこは少しホルマリンの独特な匂いのする空間であった。色々な種類のパイプがむき出しになっているコンクリートの通路であった。
緑色の蛍光灯が俺達を拒絶するかのように地面を照らしている。

なんだここ。

しばらく薄い蛍光灯が照らす通路を歩いていく。

「……ん、ちょっと待ってください」

どこに行ったらドアがあるんじゃい、って感じだったが、リーベが俺を止めた。

「この床、コンクリートの種類が違います」



「れありぃ?」

ポケットから懐中灯と呼ばれるものの先っちょの蓋を開け、中に入っているアルコールに火をつけると、その懐中灯は焔色に光りだした。
懐中電灯のようなイメージだ。

よーく見てみると、そこのコンクリートだけあたかも最近塗りつけたような綺麗な白である。

「開けてみる?」

「いいと思いますよ」

リーベにそう言われた。
ので、リーベを信じてそのコンクリートを左手で液状にしてみると──

「……研究所」

「みたいですね」

そこには、デカイメスシリンダーのようなものの中に液体が入っていて、その中には──

「あれって、肝臓」

「あれは肺です……」

まだ断定とはいかないが、大体見当はつくだろう。
どうしてこの国が潤っているのか。
そう、<臓器売買>である──








「おい、貴様らは誰だ!」

「げ」

早々に見つかった。
随分早々に見つかった。

「……どうする」

「やりましょう」

武器を構える。するとあちらの研究者Aと研究者Bは腰から消火器のような物を取り出し、銃口(?)をこちらに向ける。

「殺せぇぇぇぇぇぇ!!」

消火器のピンを抜くと──

「レ、レーザービーム!?」





とりあえず壁に隠れる。
と、思っても。

「壁を貫通!?」






何だよこれ。
イカの陣取合戦のスペシャルウェポンじゃあるまいし。

「チッ」

鉄の物をを投げたような金属音がした。

「だぁぁぁぁぁぁ!!」

太刀を二刀流に割って、研究者に突っ込む──







「ぁあ……?」

目の前には引きつった顔の研究者。
心臓にはナイフが。

ウッソだろオイオイ。

こんなに痛いハズじゃ──

痛い。
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い──








「っく……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

結羅の意識が途絶えた瞬間、リーベは高らかな笑いを上げた。

「ざまぁみろ!団長を殺すからこうなるんだ!」

「なんだ……仲間割れか……」

研究者がたじろぐ。

「だって今、あの女・・・この男を後ろから刺したんじゃあないか──」







痛い。
あんなに痛い思いをしたのは初めてだ。
蘇るからまぁ別にいいんだけどさぁ?





「……え?」

服についた返り血が。
結羅の死体に持っていかれている。
まるで血液一滴一滴に意思があるかのように。

その血液は色々なところから集まり──




「……っく」

「え……!?」


「悪い。俺、死なないんだわ」







「でも死なないとは言っても痛いものは痛いから、もうちょっと一思いに殺してくれないかな?」

だって痛かったし。
そこまで死んでもいないけど。

「じゃあ、やられたらやり返す。殺られたら殺り返す」

やるか。




右手で地面のコンクリートに触る。
あの研究者を。
串刺しに。


コンクリートは飛び出して槍のようになり、意志を持ったかのように研究者の体を突き抜いていく。
それも一本ではなく、数十本である。

「やめて……くれ……」

「そんなこと言われても、もう遅いし?」

自業自得だし?







「ふぅ……」

人間のものではないような人間の死体を見て、リーベは唖然としていた。
もし研究者ではなく私があの鉄槌をやられていたら。

体がゾワッとする。

「んじゃ、行こー」

結羅が臓器だらけの部屋を抜けていくのに、リーベの足はしばらく動かなかった──








「……どうしたんだろ」

ホルマリン漬けの臓器だらけの部屋を抜けていくと、両手足鎖で繋がれた1人の女性が。
まだロリといえる年齢っぽい童顔で、金髪碧眼である。
どこの魔法少女ですか、みたいな奇抜なゴスロリ服を来ている。

「ちょっと待ってね」

流石に俺も幼女の監禁プレイで興奮する程のドSロリコンではない。俺はその女の子の鎖を瞬時に液体化させ、くさりが溶けたところでまた個体に戻して鉄の延べ棒にして、俺のバッグの中にしまった。
その女の子は、

「Спасибо(スパシーバ)」

という流暢なロシア語を見せて走り去っていった。
あの子も提督なんだな、という勝手なこじつけをながら、結羅はリーベに、

「どうしたの?はやくー」

と声を掛けて、どんどんと進んでいく──









しばらく進む。
そうして進む。

「……」

「……何か言った?」

「いえ、何も」

俺が声を掛けるとビクッと体を震わせた。何だかよく分からない。

「……やっぱり何か聞こえるな……」

「……ゆ、結羅さん……め、目の前……」

ん、と言って前を向くとそこには。

何もない。
と思うと、頭に水が落ちてきた。
上を見ると──

八本足にふさふさの毛。10メートルくらいはありそうな体長であった。

「巨大クモ──」








蜘蛛はその大きな足を俺の方に振りかざす──
ギリギリでかわしてリーベに、

「逃げよう! こいつは何だかヤバそうだ!」

「分かってます!」

そう返され、リーベは走っていく。
蜘蛛の狙いは俺らしく、その針のような足で俺を串刺しにせんとする。

「やばいこいつ……」

そう呟いた。
すると俺は、つるんと転んでしまった。
いや、なんでこんな時に。まぁお決まりかもしれないけど!
っと待てよ。

「足が動かな……」

蜘蛛なんだよね。
そりゃそうか、と納得した。
足が、強靭な蜘蛛の糸で地面と固定されていた──




来る。
とっさに太刀を抜いて、攻撃を受け止めようとする。
が。

「っく……」

太刀は蜘蛛の攻撃の衝撃で根元から折れていた。

「やっば……」

蜘蛛はもう1発、俺の胴体を串刺しに──






するその時であった。
目の前にとてつもない火柱が。
蜘蛛はとっさに後ろに逃げる。でかい割には動きが早い。
後ろを見ると──

「さっきの……」

ゴスロリではないか。
ゴスロリは俺の前に立ち、蜘蛛の方を向いたまま言ったのだった。ロシア語ではなく、英語で──

「Don't be afraid.」

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