やるしかないよね、強行偵察
「着いたよ」
しばらくその極寒の地を歩くと、そこにはでっかい煙突が何本もある街が。
「ここが<ブリューナク王国>」
俺がそう呟くと、ミカエは、
「どうでもいいからホテル行きましょ。ここじゃ寒いよ」
と愚痴のようなことをこぼした。
ので。
勇者から一応貰った多額の資金の一部を使って普通のホテルに泊まることにした。
資材が余っている時に大型建造をやると資材はすぐ無くなるわ大和の補給は大変だわできつい思いをすることを全国の提督諸君は知っているだろうし現に俺も体験した。
だからこうしてお金が有り余っている時こそ慎重に使っていかなければならない。
と、みんなに話すとクリム以外の全員は拍手してくれた。
「時にはパーっと使っちゃいましょうよ」
「クリムはいつでもパーっと使っちゃってるじゃん」
今回は珍しくミカエが一蹴した。
こうして俺達は普通のホテルに泊まることにした。
のだが。
「作戦会議ー」
と言って俺が各部屋からみんなを集めようとすると、
「ボクも行くんですか?」
とリーベはそんなことを抜かすし、ミカエにあたっては、
「めんどいー」
と返された。切腹したい。
どうにか集めて作戦会議をする。
もちろん強行偵察についてだ。アベルが唯一この城の特徴を知っているので、アベルが中心となった。
「この<ブリューナク王国>の城は非常にごちゃごちゃしている。まるで絡まったイヤホンのように」
「パイプ状になってるの?」
ミカエがそう聞く。違うだろ。単なる例えだろ。
「通路がそんな感じになってるのよ」
おぉいアベルさん。
「んで、シロートだばパイプ伝ってどこに出るのか分からないから偵察はひっじょーに難しいんだが」
「「「「だが?」」」」
「今回は強行偵察。いくら人をぶっ殺しても監禁しても身ぐるみはいでも偵察できたらそれでいい」
強行偵察という名ばかりではない強行っぷりだ。
「お前、<よいではないか>とか言って着物クルクルーってやるやつやりたいだろ」
「どこのバカ殿様だ」
長門、ド変態説。
「それで、ボク達は何を調べるんですか? 」
リーベが尋ねる。それが聞きたかった。
「この国が<どうして>そして<どのように>潤沢なのか」
ミカエが俺を指さした。
「それをまとめて、勇者様に提出だって」
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいでしょうか」
会議が終わって皆が部屋に帰っていく時、リーベが俺を呼び止めた。
自分の部屋に連れ込むと何だか禁断の関係みたいな面倒くさい関係になってしまうので、立ち話になった。
「ボク、思うんですけど」
こうしてリーベが語った仮説は、実に信ぴょう性が高く、そして現実味に欠ける仮説であった。
「勇者様の考えてることって、<世界の平和>なんかじゃなくて、<世界征服>的な何かを企んではいないでしょうか」
あるかもしれない。
だが、現実味には欠ける。
だって、世界征服だぞ?
そう考えていると、リーベは俺の考えを察したかのように、
「<ありえない>なんてことはありえないってどこかの誰かが言っていました」
と言った。あのホムンクルスは好きだった。
なにはともあれ、リーベの仮説を聞いたからには、今後の勇者の動きには気をつけないといけない。
「それに──」
リーベはまだ何か言いたそうだ。
なんだよ、と思ったのだが、その一言で俺は動けなくなった。
「あなた、心が嘘をついてはいませんか」
俺の胸をリーベの指が刺す。
「……っ」
リーベには、バレても仕方が無いか。
「あの時、<団長>を倒した時のアナタと、今のあなたの目の色が違いますし」
目の色?
そう尋ねようとする俺を遮るかのように、リーベは説明を加えた。
「あなたが団長を殺した時の目は、もっとブラッドで、悲しい目をしていました」
でも今は普通の目ですが、とリーベは言った。
「あの時の目は、酷く悲しいものでした」
リーベはこう言った。
まるで俺の核心をついてくるかのように。
「過去に何があったんですか」
過去に何があったか。
そりゃあ色々あった。
人に話せないくらいに。
でも、リーベになら話せる気がする。
そう思って、俺は開いた。
硬い心のドアと口を──