プロローグ
「ここの勉強方法教えてくださいよ」
「勉強方法を人に聞く時点から君は脳みそがおかしいようだが」
「ボクは全然ダメなので」
「そんな低能な輩が俺に勉強方法を教えてやるほど俺は優しくない。他のバカ共に聞いてみたらどうだ」
「……」
順風満帆。
俺は針野結羅(はりのゆうら)。今年で高校三年生になる。
俺は今、順風満帆な生活を送っている。
学校一の美少女と言われる彼女もいるし、友達からの信頼も厚く、俺自身頭もいい。こればかりは努力のたわものだ。
実際俺は彼女を愛している訳でもない。ただ俺の地位の維持と確立だ。それに人間の三大欲求である性欲を解消できるのだからもってこいだ。その彼女も頭が悪いから、そろそろ切り離さなければ。バカが移る。
バス停で俺はバスを待っている。
無論、勉強をしながらだ。
バスがまだこないのか、と車道を除いたその時──
「──死ね」
俺は。
何者かにより、
車道に吹き飛ばされていた。
バッグの中身が飛び散る。
そこから微かに見えたのは。
そうやって跳ね飛ばされている俺を見てほくそ笑んでいる後輩と、
車道から迫ってくるトラックであった──
「……っ」
目を覚ますと、俺は長椅子で眠っていたらしい。
多分、死んだのだろう。
辺りを見渡すと、目の前にはステンドガラスが。
壇上には大きな神の石像が。
俺が眠っていたような長椅子が規則正しく並べられている。
教会だ。
しかし、誰もいない。
しばらく辺りをウロチョロしていると、石像から何が声のようなものが聞こえた。
駆けつけて見ると、石像は俺にとても低い口調で語り出した。
「汝。汝、我と契約せよ」
契約?
魔法少女になる気は無いが。
「契約……とは、何ですか? ていうか、いきなり誰ですか?」
「我は天空神ゼウス。汝、我と契約せよ」
天空神ゼウス。
さぁ、厨二病っぽくなってきたが。
「それで、契約とは?」
「我と契約し、二つの力を手に入れよ。その代わり、他の異世界で勇者のお供、いや、下僕をせよ。」
「その他に道は?」
「ない。天国も地獄も」
つまり、ここで契約を結ばなければ俺は永遠とこの教会の中か。
否、どこか別の場所に飛ばされるやもしれない。
「これを断ると、どうなりますか?」
「汝は永遠とこの教会の中」
そういうことか。
契約する以外道はないってか。
いいだろう、神よ。
このクソみたいなチャンス、引き受けてやるよ。
何もしないよりかは、なにかして失敗した方が徳になる。
「──引き受けます」
「よかろう。汝、これを受け取れ」
壇上から光が溢れ、一つの手袋が出現した。
「左手には<状態変化>、そして右手には<形状変化>の魔法がかけられている。試しに、右にある小池に左手を突っ込んでみろ」
言われた通りに手を突っ込んだが、何も起こらない。
「そのまま、氷をイメージしてみろ」
言われた通りにイメージを目を瞑ってしてみた。
すると。
小池は一瞬にしてフィギュアスケートのリンクのようになっていたのだ。
「なんだこれ……」
「これが<状態変化>。そして、その氷に右手を当て、剣をイメージしてみろ」
言われた通りに日本刀をイメージしてみる。
「引き抜け」
言われた通りに当てていた右手を引き抜くと──
自分がイメージしていた通りの氷の日本刀ができていたのだった──
「悪いが質量保存の法則はどうにもできん」
「つまり、1mlの水から1L分の氷は作れない、と?」
「そうだ。それに、水からは水の状態変化で作れる水蒸気と氷しか作れない。それは大宇宙の法則だ。勘弁してくれ」
ゼウスは何の申し訳なさもなくそう言った。
「最後に、お前の一人称を決めろ」
「俺、じゃだめなんですか?」
「あぁ。違和感の塊だ」
異世界になると一人称も違うのか。
少し考えた後、とあるゲームの一人称、そしてとある本の一人称を思い出したので、それにすることにした。
「じゃあ、<僕やつがれで>」
「よかろう」
再度石像を拝もうとしたら、そこは教会ではなかった。
ただの街であった──
「あ、君が僕の下僕だね?」
そう言ったのは──
小太りな体型に汗っかき、じゃがいものような顔の男であった。
「俺はマイナ、勇者だよ。よろしく、下僕!」
今、<俺>って確実に言ったよね?
しかし、神に誓ったことだ。変えられない、と思ったのだった。
「やつがれは針野結羅。宜しくお願いします、勇者様」