ボッチ、武具屋に行く
「おお......凄い量の武器と防具だ」
”そうですねマスター”
「品質の方はどうだ? ユカ」
”どれもしっかりと手入れされており、質はまぁまぁなものから素晴らしく良いものまであります”
「そっか......あとアリシアさんからもらった訓練完了報酬は......ざっと90000円だな」
”最初は安いもので良いでしょう。ここの装備達は安物でも十分な丈夫さですから”
「あぁ、そうだな。課金武器を最初から装備しても楽しくないのと同じだからな」
”はい?......かきん武器......というのはどういうものでしょうか?”
「あ、いや。こっちの話だ。気にしなくていい」
───服屋から『武具店』ビッセルがある、数十分かけて商店が賑わいを見せる王都の中央広場に到着した駿達は早速入店し、各自別行動で得意武器を散策している。
駿は今、長剣が主に取り扱われているコーナーに足を止めて、当分は相棒になる武器を物色している途中だった。
「さて......先ずは第一印象から良いものを三つ選ぶことにしよう」
よくある鑑定スキルは持ってないが......ユカがすごく詳しそうだし、良い悪いの判断をしてくれるはずだから気楽に選べるな
と、先ずは外見的に業物に見えた刀身が少し青みがかって煌めいている長剣を手に取り、感覚を確かめながらユカに質問する。
「ユカ、この剣はどんな感じだ?」
”その剣は......マケラクト鉱石という素材が主に使われてますね”
「マケラクト鉱石? なに? 鉄鉱石よりも上質なやつか?」
”はい。鉄鉱石よりも上質な鉱石です。ですが......少々手抜きされてますね......本来の丈夫さを発揮できてないようです”
「手抜き? どんなのだ?」
”簡単に言えば、マケラクト鉱石の純度を低くした剣ということです。元々埋蔵量が少ないマケラクト鉱石の足りない分を恐らく鉄鉱石で補ったのでしょう。混ぜたら混ぜたですばらしい剣が生まれる黄金比というのがありますが、この剣はマケラクト鉱石と鉄鉱石が4:6になっています。マケラクト鉱石と鉄鉱石の場合の黄金比は8:2ですが、マケラクトのそれを二割鉄鉱石が越してるこの剣は少々耐久度に難ありの武器です。他の剣の選択を推奨します”
ユカの説明を聞いて、駿は驚く。
「さ、流石ユカだ......まさかこんなに詳しいとは思わなかったけど、ユカがいれば最高の剣を見つけられる気がする」
”いえ、これまで何千というダークナイトに従えて来た身として、何万もの武器を見てきたのでこれくらい出来ます。それにマスター、最高の剣はもうすでにマスターの側にあると思いますよ”
「え? どれだ? この目の前の棚の剣か?」
ユカに言われた通りに見渡してみるも、駿の目には最高の剣の区別がつかなかった。
”ここにはありません”
「ないんかい」
”ですが、いつでも側にあることは確かです”
「ふーむ......中々意味深なことをいうな」
側にある最高の剣......想像もつかない
”真実を言ったまでですよ?”
「..............................分からないっすよ~ユカパイセン」
黙考したが、やはり心当たりがない。
そんな駿にユカは嬉しそうに声のトーンを上げてこういってきた。
”まぁ、時が来れば......マスターの手には最高の、いや至高の剣が現れますよ”
「えぇ~そこ焦(じ)らす? ユカも中々意地悪だな~」
”ふふっ......そうでしょうか?”
「自覚しなさい。ユカは可愛い上に小悪魔という反則級のキャラなんですから!」
”......? きゃら?”
少し困惑しているユカを他所に、駿は次に目に留まった剣を手に取った。
次に選んだのは無難に丈夫そうな白銀の刀身に輝いている長剣だった。
先程選んだものより刃渡りが長く、重く感じる。
「......かっけぇ」
......ゲームだとカクばってたり、ゴツかったり、格好良く見せるために歪なものが多いから逆にこういうなんの変哲もないシンプルな剣って格好良く見えるよな......共感する人は少なそうだけど
「で、ユカ。この剣はどうだ?」
”非常に能力値が高く、そして均等な剣ですね。中々の業物だと思います。鋭さも耐久度も刃の丈夫さもどれも高水準に纏まってます。リーチも長くなっており、戦闘を有利に運べる筈です。重さが少し気になるところですが、これからレベルを上げていく上でそれは解決されることでしょう”
「お、じゃあ太鼓判ということで?」
”たいこばんという言葉は分かりかねますが、推奨します”
「なるほど......」
じゃあとりあえずこれが第一候補だな......
と、剣を持ちながら上機嫌になっていると不意に誰かに声をかけられる。
「あの、すみません」
話しかけられた方向に反応すると、そこには見知った顔があった。
「おぉ! ジャックじゃないか。ビル公爵様は大丈夫か?」
そんな声に、ジャックはぱぁっと表情を明るくさせて、力強く頷いた。
「はいっ! ミネサキ・カリン様という召喚者様の治癒魔法が素晴らしかったとお父様が言っていました!」
「だろ? 伽凛さんは凄いんだぞ? あの可愛さ故に治癒特化の固有スキルを持ってる女神様なんだぞ?」
「えぇ!? ミネサキ・カリン様は女神様だったのですか!?」
「あぁ......そうだ。俺は何度もあの笑顔に助けられた。マジで可愛い! 可愛いは正義! ジャスティスなんだ!」
「せ、正義......! 正義かぁ......!」
「覚えておくが良い少年。この世で一番大切なものは女の子達......男は女の子が側にいるだけで何かと普段できないことが出来てしまう。それ即ち......勇気を持てるということだ。勇気を持つ者は『勇者』になる......ジャックよ、お前が笑うだけで女子は歓声を上げることだろう」
「えっ......どうしてですか?」
「それはお前がイケメ......ゲフンゲフン。それはな、人の笑顔は人を幸福にさせるのだよジャック」
「は、はぁ......」
「......もし女子達に言い寄られた場合は、その要望にきっちりと答えろ。女子の数が増える度に、勇気が倍増することだろう」
そう少しイケボを意識したトーンの駿から放たれた言葉に、ジャックは瞠目し、次には羨望の目を向ける。
「......はいっ! 先生!」
「先生か......良い響きだ」
よしっ! これでオーケーだなっ! ジャックはこれからチーレム勇者として生きていくことになる......よかったなジャック。お前はその整った顔(武器)で女子(魔物)の心臓を仕留めていけばいい......俺はそれを陰ながら見てリアルラノベとして見物させてもらうからなっ!
駿は満足げに頷きながら、「そういえば一人できたのか?」とジャックに聞くと
「実は姉様の買い物の付き合いをしてるんですよ」
「え? ルリアさん来てるのか?」
「はい、丁度今は魔法学園の方で校内戦をやってる途中なんですけど、鍛練中にどうやら杖を魔法を行使中に折ってしまったらしくて......」
「なるほどな......だからここに来たのか」
「はい!」
「じゃあ俺はあとひとつ剣を見て買う予定だから一緒に来るか?」
「勿論です! ご一緒させてください」
駿はそんなジャックを弟が出来たみたいに微笑ましく思いながら「じゃあ伽凛さんのところにルリアさんが居るのかな?」と小さく呟いたあと、再度剣を物色し始めたのだった。
= = = = = =
「いい買い物したなぁ......けど......」
上機嫌にレジから歩き出す伽凛は、その手にもっている新たな杖を抱き締めながら笑顔を浮かべていた。
えっと......生命の樹から作った杖だって聞いたけど......効果は魔法の行使時にHPを微量回復してくれるって聞いたけど......実感わかないなぁ......本当なのかな?
「───ミネサキ様ですね?」
そう首を傾げながら歩いていると、唐突に後ろからそんな声が響いた。
「え、あ......はい」
伽凛は振り返ると笑顔を浮かべているルリアが立っていた。
「おはようございます」
「あ、ルリア様でしたか。おはようございます」
笑顔を向けるルリアに対して、伽凛もそれに釣られて笑みを浮かべた。
「ミネサキ様は杖を買いに来たのですか?」
「そうですね......流石に訓練用の杖じゃ心許ないので。ルリア様もそうですか?」
「あぁ......はい。恥ずかしながら魔力を制御出来ずにそのまま折れてしまいまして......」
「ではもう買われて?」
伽凛は自分と同様に折った筈の杖ではなく新しい杖を持っているルリアを見て、そう判断する。
「はい。ウリーズの樹から作られた杖を買いました......魔法行使時にMP消費量を微量抑えてくれるらしいので......」
「なるほど......ルリア様もいい買い物しましたね?」
「ふふっ......そちらは生命の樹の杖ですね? 当分は買い替えなくてもいいくらいの代物です。大事に扱ってください」
「そうなんですか? はいっ、大事に使います。......あっ......わ、私は無知ですね......自分の買った武器でさえ分からないなんて......」
これじゃあ近藤君に呆れられちゃうなぁ......もっと頑張らないと
そう落胆してると、ルリアは優しく微笑みかけた。
「いえ、何も気にすることはありませんよ? 一ヶ月前まで違う世界に居たのですから。むしろもうこんなことまで知ってるとなると少し驚きです」
「え、あ......いやでも......」
「ミネサキ様日頃から厳しい訓練の後に図書館に残って資料を熱心に見て勉学に励んでいたとリーエル王女様がおっしゃっていました。実際に、今のミネサキ様からは人一倍努力しているのが垣間見えます。知らないことはこれから知っていけばいいのです。勿論、大切なお仲間とご一緒に......」
「......」
───これまでの一ヶ月の間、クラスメイトの仲間達と共に異世界という慣れない環境の中で黙々と師から出される課題をこなしてきた。
自分達の能力がだんだん上がっていくのを実感できたのは一週間後だったが、知らないことを知りながらやる訓練は全員楽しく感じた。
しかし、優真と伽凛は違う。
強力な職業を授かった二人には多くの期待が寄せられており、そしてそれ故にクラスを引っ張っていかなければならなかった。
二人は昔から皆の手本となるような模範生を任されてきたため、優真は気楽にやってたのだが、伽凛はある日駿と話した時に約束したことがあった。
それはまだこの世界に来たばかりのときのことだ。
歓迎会の後二人で湖に行き、指切りまでした。
────どんなに離れたときも、俺は峯崎さん達と一緒に居ると思っておいてくれる? そしてこれからも優真と一緒に皆を引っ張ってくれる?
駿のその言葉に伽凛は心から頷き、強く、強く誓った。
伽凛はこのときのことを胸に、クラスを引っ張ろうと誰よりも世界の知識を収集し、誰よりも訓練に打ち込み、模範生という虚像を自分に作ることに誰よりも注力した。
皆もそんな伽凛を見習い、二週間後には全員とまではいかないが七割の人たちが必死に訓練に励むようになった。
たまに自分を見失おうとしたときがあった。
出来るだけ自分を抑えて、模範生という虚像の顔を周囲に作り続けるのは誰にでも辛いことだったからだ。
しかしその度に、伽凛はあのどこまでも澄んだ美しい湖の前で駿と交わした言葉と約束を思いだし、頑張ろうと自分を叱咤する。
そんな毎日は昨日で一息着いたものの、次の一ヶ月間の実戦訓練が待っている。
後一ヶ月、と伽凛は実戦訓練期間中にも自分を抑えて模範生という虚像の顔を作り続けることを意気込んでいた。
だからだろうか。
ルリアのその何気ない言葉にこれほどまでに肩の荷が軽くなったのは。
押し潰されそうだった。
期待に。
そして、自分自身に。
自分一人頑張ることで、他の人も頑張るのならそれでいいと思ってた。
でも、自分一人頑張ったと思っていたあの時、側には仲間達が付いていたことをルリアの言葉で思い出した。
私を......近藤君はどう思う? 今の私こと......どう思う?
そう心の中で幾度も想像(駿)にその質問をぶつける。
返ってくる答えは当然ない。
でも、予想はできた。
それは────
────
──
─......
「......ありがとうございますっ、大切な仲間達と一緒に頑張っていきたいと思っています!」
伽凛は、どこか心の靄が吹っ切れたような心からの笑みを浮かべながら深々と礼をした。
そんな伽凛に、ルリアも頬を緩める。
「先程とはどこか違って見えます......その調子ならば大丈夫ですね?」
「はい......」
「───伽凛さーん!」
ルリアとそう笑い合っていると、そうこちらに向かって走ってくるのは夕香達三人だった。
伽凛は、仲間が居るこの時、この瞬間を深く噛み締めながら、三人を微笑んで向かい入れるのだった。