ボッチ、城下街へ
『グランベル王国城』城門前
「お、きたきた」
「───お待たせー!」
昨日約束した通り、城門前を集合場所にしていた駿達はそこにもう集まっており、夕香はクラスの皆をぞろぞろと引き連れながら遅れてやってきたのであった。
「......む?」
何故皆が!?
そんな思わぬ来客達に首を傾げた駿は早々に夕香に聞き出す。
「え......? 安藤さん......俺みんなとそんな面識無い筈なんだけど......? ん......? もしかして知らぬ内に誘った......とか? 俺......もしかして夢遊病!?」
明らかに挙動不審になった駿に、夕香は苦笑いを浮かべる。
「うん、夢遊病は違うかな?......まぁ、その......皆は私が誘ったんだけど......もしかして邪魔だった?」
「いえ! ダダダダイジョウブ! え、えと!───」
そう言った途端、ふとそこで言い止まり、駿の脳内に言葉が溢れ始める。
......む、無視とか皆しないよな!? 大丈夫だよな? 皆は安藤さんの聞いた話だと高山達が強制的にそうさせられたからなんだろ? じゃあ大丈夫だよな!? ここで俺が挨拶して誰も返してこなかったら一人で盛り上がってる場違いな感じになってしまうからマジで......いやもうここは本当にマジで信じていいんだよな!? いいか? 信じるぞ? 行くぞ? 本当に言っていいんだな? い、行くぞっ!? ......行くぞっ............行くぞ......って早く言わんかいっ! なにやってんだ俺......ここで挨拶しなかったらこのまま気まずいままだぞ! 勇気をだせ近藤 駿! てめぇはでけぇ背中になったかどうかはしらないが少なくとも前よりは逞(たくま)しくなった筈だ! いやでも......長年の習慣といいますか......話しかけても無駄だった記憶が邪魔して体が......というか口が動かねぇっ! くっ......! この程度の男だったのか......もういっそこのまま......いや、俺に内気な少年なんて似合わない! なんだって小中学生の頃は下ネタとか下品な芸人の真似を乱れ撃つように教室ではたまにだったが男友達と会話してる時は連発してた俺なんだ......今そんな俺に戻れたらどんなに良いものか......ん? ............いやダメじゃねぇかっ! この年齢で下ネタを公然で連発しまくるなんてクズじゃねぇか! あーどーすればっ..................あっ、そうだ! ユカ! 居るか!?
多少涙目になりながらも、心の中では懇願する。
ユカパイセン......! お助けください! 俺の過去の壁がどうしても邪魔してきてですねっ!?
すると、ユカはいつもながらの無感情な声に冷めた感情が混ざってる声色を駿の頭の中で響かせる。
”......マスター。呼ばれるのは大変嬉しく思います......ですが、私は人との交流は全くの未経験ですので手助け出来ません。というか、それぐらい自力で乗りきっていただきたいのですが......”
えぇ!? だって気まずいじゃんこれ! ......だって......今更顔向けできないし......また無視されるかもしれないですし......でもこのままじゃ楽しい城下街散策が気まずくなっちゃいますし......
そんな敬語になり縮こまっていく駿に、ユカは ”果たして、本当に無視されるのでしょうか......?” と、首を傾げるようにそう口にする
えっ? それってどういう......?
「近藤君?」
「......あっ......えと......」
挨拶をしようとしてそのまま固まっていた駿に、優菜が疑問に思い、声をかけてきた。
駿は少し言葉を模索したあと、いま最善だと思った言葉を返答に使った。
「いや、今ちょいと今日は何処にいこうか悩んでた......」
そんな駿の返答に、優真が吹き出した。
「お前挨拶しようとして一体っ......ぷくくっ......というか何故に今その悩み事をしてんだよ。タイミング悪すぎだろ!」
優真のそんな笑い声に、皆が釣られ、雰囲気が一気に明るくなる。
「いや、俺も何故に悩んだか分からんが......まぁ、とりあえずだ。俺は焼鳥を探すのに今日は尽力するつもりだぜ?」
「いや、誰も聞いてないからね? というか何故に今それを宣言したの?」
そうドヤ顔している駿に、優菜のツッコミが入り、さらに場が盛り上がる。
「あれ? ウケ狙ったつもりはなかったんだけど......焼鳥を探すのが今日の目標だったから言っておこうかなと」
「成程......こんな大人数で行く楽しい城下街散策の目的が焼鳥か......ふむふむ......ってちょっと待ていっ! 散々人誘っておいてそんな動機かよっ!?」
「なんだと? 母国日本の良いところはほとんど無いが、俺は米とか焼鳥とかとにかくmade in japanの食べ物が大好きでな!? どれだけ思ってきたか......一ヶ月大好物を食べれなかったこの思いは............あなたにはわからないでしょうねぇっ!? 」
「何故にキレ気味!? てか途中の英語発音ネイティブ並みに上手いし、最後お前なんでいきなり号泣してんだよ! てかお前の食べ物への思いどんだけなんだよ! 大好物とやらも聞いてもないし、聞きたくもないわっ!」
そういわれた駿はわざとらしく畏怖の目を優真に向けながら優菜の背中に隠れた。
「え? ......何怒ってるの優真くん......俺怖いよ朝倉さん」
「ほらほら大丈夫ですよ~もうっ......優真君っ! ダメでしょ? クスリが足りないからって人に当たるなんて!」
「優菜さん!? あなたそこノっちゃいますか!? てかやってねぇよ! 断じて違法ドラッグに手を出してねぇわ!? 覚醒剤ハンターイッ!」
「お巡りさんこいつでぇすッ!」
「やめろぉおお!?」
───そんなやり取りに大爆笑している優真が覚醒剤と疑われる原因を作った優菜、そして伽凛を含めたその場に居る全員が城門前で笑顔の花を咲かした。
「......まぁそれは置いといて」
「置くなし!」
「皆も城下街散策に行きたいの? 安藤さん」
駿はその明るい雰囲気の中を一番言いやすいタイミングだと判断。すぐに話を展開させる。
「そうみたいだよ。私も行きたかったし、どうせなら皆で同じ日に行った方が楽しいでしょ?」
「確かにそうだな......じゃあ今ここに居るのはあの三人を除いた27人だから......こんな大人数じゃ道の邪魔になるし、自分たちだけのグループでもペアでも作って各自、自由行動にしよっか」
「俺はそれでもいいぞ~。皆は?」
駿の提案に優真が同調し、他の意見を聞く。
「私もそれでいいよっ」
伽凛は満面な笑みを浮かべて駿の提案に賛成した。
うおっ......! 眩しいっ! これが女神の笑顔かっ......! 惚れてまうやろ~っ!? あ、もう惚れてたわ
と、伽凛を見て頬を染めている駿を他所に、皆も賛成したようだった。
「反対意見なしっと......じゃあ駿、早速組もうぜ」
「......えっ? あ、もう決まったの? そっか......うん、組もうぜ!」
「よっしゃ。じゃあ後......あ、峯崎! 一緒に回ろう~!」
「えぇっ!?」
駿はその言葉に当然驚く。
お、おいっ! 心の準備がまだっ......!?
優真は早速駿と組むと、女子や男子達に誘われて囲まれていて少し困った表情でこちらをチラチラと見ていた伽凛にそう呼び掛ける。
伽凛はその呼び掛けにパァっと表情を明るくさせて駆け寄って来た。
あ、駆け寄ってくる女神が一人......じゃなくて! やっべぇ......優真最高かよ......散策に伽凛さんが一緒とか......今日雨とか降るんじゃないか? いや、降るなよ? 絶対降るんじゃないぞ? ......ん? ちょっと待て......雨で濡れた伽凛さんの制服姿......Yシャツ......っ!? 前言撤回! 降ってくれ!? 頼む! 俺は見たいんだっ......人類の至宝が目の前で水の滴るイイ女の子に変貌する姿を! とりあえず───
「───優真......」
「あ? 何だよ?」
「お前は神か」
「は? なに言ってんの?」
突然ガッツポーズを目の前で煌めかせた駿に、優真は思わず一歩引いた。
そんな二人のところに、抜け出してきた伽凛が話しかける。
「本当に良いの!? 浅野くん!」
「......? いやだって峯崎は回復担当だろ? 俺達と一緒に居なきゃ意味ないじゃん」
「......!」
伽凛は目を見開いて駿をイチコロにするほどの輝かしい笑顔を浮かばせた。
「ぐっはぁ♪」
思わず聞こえない程度の小声でそう呻く駿。
あぁ......告白する前に俺、死にそうだわ......てかもう死んでもいいわ......
そんな駿に、伽凛は嬉しそうに跳ねた後、少し心配そうな表情を浮かばせた。
「うんっ! そうだよね! あっ......その......近藤君は大丈夫? 私が一緒で......」
しかも上目遣いで。
なん......だとっ!? これはもう......死ぬか。死んでみるか。いや、まだ濡れたYシャツ姿を見てないからまだ生きるっ!
「全っ然! むしろ大歓迎ですぅ......はぁ......伽凛さん一つ聞いてもイイですか!」
「うん。大抵のことなら大丈夫だよ?」
なんで敬語なのかな......?
と、苦笑した伽凛に駿は質問する。
「この世界に女神って居ると思いますか!」
「えっ......あ、あの......ごめん近藤君。まだこの世界について勉強中だからそこまで深いところにはいってないんだよね......」
「おいおいそこまでまじめに答えなくてもいいんだぞ? 駿が言ってる駿にとっての女神ってのは峯崎の───「いや! いいんだ! 伽凛さん。今日はよろしく!」おい割り込んでくんな」
「うっせ! おおおおおおお前!? かか、勘違いすんな!? デデデデデマを流すのではありませんよ!? 大体俺は女神なんか信じるに決まってんだろ!」
「信じるのかよっ!?」
「え? だっていたら嬉しいじゃん?」
「それはそうだな」
「だろ?」
「───あの......」
二人の世界に付いていけずにいる伽凛。
私仲間で大丈夫なんでしょうか......?
と、肩を落とした。
「───ねぇ! 私たちも入っていい?」
そんな所に、夕香達三人が駆け寄ってくる。
「お、安藤さん」
「あ、浅野くんと峯崎さんがいる。近藤君は恵まれてるね~!」
「そうだな」
肩まで伸びた黒くきらびやかな特徴的なサイドテール揺らしながら、無垢な笑顔を浮かべる夕香に駿も笑顔で同調する。
「二人とも......俺の大切な仲間だ」
「「......!」」
優真と伽凛は、そんな駿の言葉に目を見開き、次には微笑んだ。
「あっ......今のはう、嘘! いやっ嘘じゃないけど!?」
ふと心に浮かんだ言葉を口に出した駿は、数秒後には顔を真っ赤に染めて恥じていた。
「お前どんだけダサいんだよ......恥ずかしがってる姿がっ......プクク」
と、優真はそんな駿に苦笑し
「近藤君っ......ふふっ......!」
と、伽凛はそんな駿可愛げに思いながら笑った。
「近藤君......やばっ......!」
「意外と純粋なんだっ......いや、純粋すぎっ......」
「可愛い一面もあるんだねっ......」
夕香達も笑い、周囲に居る皆も思わず釣られていく。
一時的にクラスの笑い者として駿は大役を果たし、笑いが収まった頃に優真が「よし、そろそろいこうぜ!」と出発を促した。
駿たちは快諾し、これで優真、伽凛、駿、夕香、三波、希という六人グループができた。
グループを決めた駿たちは早速街へと繰り出すことにしたのだった。