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ボッチ、星空に願いを込める

 
───俺の師匠がアリシアさんになったのは、こんな経緯があった。


 「───では、決めるとしよう」

 と、最初に自分が教える職業を決めようと口を開いたのは、 騎士団長アースレルだった。

「私は戦士、騎士、槍術師、バトルマスター、パラディン、武道家を担当するとする......何か異論があるなら受け付けるが」

 アースレルの問いに、異論を唱えるものはいなかった。むしろ、賛同したいくらいだった。
次に、魔女であるリースが職業を決めた。

「私は魔術師、召喚士を教えます」

 リースがそう言うと、アースレルと同じように誰も異論は唱えなかった。

「ワシは......必然的に僧侶、賢者になるの.....」

 神官がそう答え、その隣に居るナスリが注目を浴びる。

「暗殺者......それだけだ......」

 ナスリは依然として会話を上手く出来ないようで、頑張っても片言になっているが、その言葉だけで、十分伝わった。

 そして、次はアリシアの番だ。

「私の......魔法剣士は授かる職業じゃなくて努力によって開花した戦士や騎士からなれる職業だから教えられる人は普通だったらこの場に居ないわ......」

 アリシアの言葉に、皆が首を傾げた。

え......? だったら何でアリシアさんはここにいるの? 

 駿は皆と同様に首を傾げた。

「フフ......皆そんな顔しないでも、私だってあなた達と同じ状況だから......私は国王様に急ぎ用で呼ばれたからここにいるの......───国王様、急ぎ用とはどういった御用でしょうか?」

 アリシアは皆にはソフトに接していたが、王と対談するときは別人のように凛とした声だった。

「うむ......急な呼び掛けに応じてくれたことを感謝する。何故、お主を呼んだかというとじゃな......その三十人の中に、実は一人だけ特異な職業を手に入れた者がおってな」

「......!」

俺か...... 

駿はその言葉の中に、自分を指していることが理解できた。 

「......もしかして、魔法剣士を授かったとでもいうのですか?」

 王の言葉に、アリシアは少し驚いてから、目を細めた。

「いや、魔法剣士ではない。その者は、魔族しかなれないそして、魔族の中の一番の剣術を持つものだけに与えられると言われる、ダークナイトを授かってしまったのじゃ」

 その言葉に、アリシアだけでなく、「そんな凄い職業だったのか......」と、駿達も驚愕した。

 アリシアは瞠目しながら、何か弊害があるかのように、こう呟いた。

「ダークナイト......ですか」

「そうじゃ......だから戦いかたが似ているお主に、その者に師事してもらおうとしたのだが......不可能か?」

「いえ......不可能ではありませんが、その......」

 アリシアは躊躇した顔で、言いごもる。

そんなアリシアに王は思い出したかのような口調でその考察を否定した。

「あぁ、その者が魔族である可能性は低いじゃろう」

「......? どうしてでしょうか?」

 アリシアはそんな王の言葉に困惑した表情で首を傾げた。

「そもそもこの者達は、戦いのない、平和な国からやって来た者達だ。実際、彼らにこの世界に何故呼んだかの理由を述べたら、本当に初めて聞いたような顔を全員がしてたわい。しかも、そもそも彼らが住まう世界では、魔族の存在をお伽噺や、迷信にされておるのが大きな理由のひとつじゃ。そんな存在が認められない彼らの世界に、魔族等元々居なかった可能性非常に高いのじゃ......」

「では、心配はせずとも良いのでしょうか?」

「そうじゃな......彼らの世界にとっては、ここに来ること事態が異常事態じゃからな......職業も何らかの形でそうなってしまったのじゃろうな」

 なるほど、とアリシアは怪訝な顔を浮かべながらも納得したような顔で数回頷いた。
 王はそんなアリシアを見計らって再度、質問した。

「ではアリシア・レイス───」

「は......」

 アリシアは凛とした声と、丁寧な仕草で、そのまま片膝を地面に着けて跪き、片腕を胸の方に添えながら、王に対して頭を下げた。
 その姿は主(あるじ)に忠誠を示し、一切の失礼がないように接する、アリシアという凛とした騎士に皆はそう見えた。いや、そう見える他がなかった。理由はただひとつ、本当にこの国に忠誠を誓っているのだからなのだ。


「ダークナイトを持つ者の、師事をお願いしたい......出来るか?」

 王の言葉に、アリシアは下げていた頭をゆっくりと上げて、王と目を絡ませながら───

「......仰せのままに。この身に替えても、その者が強くなるまで、私は教え続け、また守り続けると誓います」
 

 ───と、真剣な表情で誓ったのだった。



まぁこんな経緯もあってか、俺にアリシアさんが師事したって訳だ......王さまによると、さっき口にしてたのだが、戦いかたがダークナイトと魔法剣士はほぼ一緒なんだそうだ。そのため、王は多分、あのときそばにいた兵士に急ぎ用でアリシアにここに来るようにと伝えたんだろうな......

 駿はあのときの兵士が何故走ってこの部屋から出ていったのか、納得できたようだ。

まだ詳しい話は聞いてないから、後でアリシアさん、もとい師匠に聞いてみよう......今は聞くべきとしてもさっさとこの王の謁見を終わらせるべきだな......

「───では、この者らがこれからお世話になる......新たな師達よ。特に多くの教え子がいるアースレル騎士団長。一人ではその量は大変かと思うが、お主の力量ならば問題ないだろう。しっかりと頼むぞ。勿論、その他の師達もじゃ」

「「「は!」」」

 と、王の言葉に、師達は跪いた。

「他の者達も、師達を支えてやってくれい!」

「「「は!」」」

 王の言葉に、また周りにいた騎士達や武官、大臣も跪いた。

「おぉ......」

 駿はその圧倒的な王への忠誠心が垣間見える光景に、他の皆も同じく感嘆する。

やっぱり......泣き虫でも、王は王だもんな......凄い忠誠だ

 娘に叱られ、散々泣いた後、こんなものを見せられた駿達は、なぜか劣等感を感じてしまった。


「───ではこれにてこの場を終わりたいと思うのじゃが......なにかあるかの?」

..................

............

......



 その言葉の後、経った二秒間の静寂が訪れ、またその静寂を破り、この場を終わらせたのは王だった。

「これにて終わる。転移者以外は解散するのじゃ」

 王のその一声で、生徒達以外の皆は早々に部屋から居なくなり、直にあれほどの量がいた王の間には、大きな空間ができた。

「もう他の者達には伝えておったのじゃが、間だお主らには伝えてなかったから、ここで伝えようと思う。今はもうすっかり十八時を指しているのじゃが、あと一時間後にはこの王宮総出で歓迎会をやることになっておる。勿論、休みたいものも居るだろうから、無理にとはいわない。じゃが、参加するならこの王宮の庭園で行うので、そのままそこに来ると良い。参加するために必要なものは何もないのじゃから、気軽に来てもいいぞ......伝えることはこれだけじゃ。では───」

 パン!パン!

 と、王が誰かを呼ぶように拍手をし、その拍手に応じるように扉から十人のメイド服に身を包んだ女性たちがぞろぞろと入ってきた。
 
 メイドたちは一列に乱れなく並んで一礼をしたあと跪き、一番右に並ぶメイドの一人が、口を開いた。

「国王様......どのようなお申し付けでございますか?」

 王は、うむ......、と頷いた後、用件を提示する。

「当分はこの者達をここに泊まらせる。空室は掃除できとるか?」

「はい。毎日どんなことが起こっても良いように一部屋も抜かりなく掃除と整備を行っております」

「ふむ。毎日苦労かけるな」

「いえ......当然のことをしてるまでのことでございます......では、ご用件というのは部屋へのご案内でしょうか?」

「そうじゃな......頼むぞ」

「仰せのままに......では皆様、こちらに」

「「「はい」」」

 そうメイド達に案内され、この世界に来て二時間という長い王の間での謁見は幕を閉じ、駿達は案内された部屋に着いたとき、やっと一息を着けることができた。

 皆も疲れたようだが、駿に至ってはこの城内を走り回っていたために、人一倍疲れていた。

 駿はその疲れた体を、キングサイズに負けずとも劣らないような大きくふかふかなベットに身を委ね、溜め息に似ている疲れからくる息をゆっくりと吐く。

「......」

全く、知らない天井だ......でも本当に来ちゃったんだな~異世界っていう奴に

 駿は今更確認するようにそんなことを思いながら背伸びをした。

 窓の外に、駿が毎日教室内からみていたアパートや、ビルなどが当然なく、あるのはきれいな街並みと、夜風に揺れる木々だった。

 夜の街並みは活気がよく、明かりが沢山点いていて、駿は、今ごろ下の酒場とか大盛況なんだろうな......、と街を見下ろしながらふと思う。

「......俺は生きていけるのかな」

 駿はポケットのなかに仕舞ってあった自分のステータスが記されている紙を見ながら溜め息をつく。

「能力値に何も秀でてるものはなく、特徴はなし......それなのに職業はダークナイトで、しかも固有スキルはバットスキルの状態異常倍加......もう強くなる以前に終わってんな。俺」

 駿はそんな自分の能力の不安定さに苦笑しながら、また現実世界の風景と、城からみるこの風景を見比べる。

「............うん。断然こっちの方が空気は綺麗だし、緑もあって断然綺麗だ」

まぁ......あんな世界から抜け出せただけでも良しとするか!

 雲によって隠れていた月と、夜空に無限に広がる星空が見えた。

 その月光は、街を徐々に照らしていき、やがて駿の顔にも照らした。

 「......これからが、楽しみだ」

 駿はこの広大な世界のほんの一部の所しか見ていないが、それでも元の世界よりは、断然こっちの世界への可能性は大いに感じられた。

 星空に流れ星が流れたとき、駿はこう願った。






 ───この世界に、居続けられますように

 今はちっぽけな願いだが、後々その願いを大きくすれば良い。

 そして大きな願いが自分にできた時、その時こそがこの世界に長く居続けられるかそうでないかを決める、決断の時なのだから。

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