最後の決断
豪華な調度品に囲まれた室内で、俺は銃を構えて苦悩していた。銃口は、まだ十にも満たないであろう一人の少年を捉えている。隣には、この少年の父親の死体が転がっていた。背後の廊下からは、駆け回る足音、怒号、銃声が絶え間なく聞こえてくる。
この父親は権力者で、この国の国民を永いこと食い物にしてきたが、武装蜂起によって追い込まれ死んだ。と言うか、俺がさっき射殺したのだが。
あとは、この男の実子である少年を殺せば全てが片付く。引き金を引くだけだ。しかし、それができないでいた。
この少年が、一体何をしたというのだろうか──?
親の因果が子に祟る。そんな理不尽な話もない。この少年は、ただこの男の、子に生まれた。それだけなのだ。
息を荒げ、怯えきった目が俺を見つめてくる。互いに動くことができなかった。
俺の心が囁く。この少年を生かしておけば旧体制派の神輿として担がれ、戦況が泥沼化すると。
一方で、もう一人の俺が引き金を引かせない。
今更何を迷う必要がある? 今まで何人も殺してきただろう。それに見ろ、この上等な服を! この少年は父親の庇護の元、いい暮らしをしてきたんだ!
いやしかし、そんなのは逆恨みだ。真に憎むべきは、父親だけだ。
思考が、堂々巡りを繰り返していた。廊下を、多数の足音が迫って来る。仲間が追いついたか、旧体制派の兵士が来ているのか。決断しなければなければならない。
俺は銃を――。