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第九話 ふさけんなクソ女神 (5)

 「……実は一定範囲内にその指輪の相方がいる場合、所有者同士で魔力の共有ができるの。だから栄一は私が魔法を使えないようにすることができる……」
「一定範囲とは?」
「だいたい半径500m圏内よ」
「魔力の転送速度は?」
「大抵の人間相手なら念じた瞬間に誤差なく全ての魔力を共有できるし、いくら私が女神とはいっても魔力量は一般的な魔法適性のある人間の5倍程度。ほぼ一瞬ね」

 少しの間、俺はその指輪の効果と有用性を考察し、俺の考えか正しいか確認する。

「相手が指輪を外そうとする前に魔力を全部奪ってしまえば相手は魔力を奪い返すことはできないから、警戒して互いに外すことはできないということか」
「理解が早いのね。……えぇ、そうよ。私が不穏な動きをした瞬間に私の負けは確定するけど、栄一は元々魔法を使わないから関係ない」

「……だが、魔力が奪われた直後にまた奪い返せば良いんじゃないか?」
「確かにそれはできるけど、どうせまた一瞬で奪われるもの。0.01秒もかからないから。つまり、高速で奪い合うことになるわけだけど、どちらか一方が先に指輪を外した時点でほぼ1/2の確率で全ての魔力が一人に輸送される。逆に1/2の確率で全魔力を失うの。そんなリスキーなことは私にもできないわ」

 大事な書類をうっかり処分し忘れたり大事な指輪を簡単に奪われたりと、女神にしては甘すぎるのではないかと思っていたが、普段だらしないだけで理性的な判断はできるらしい。

 まぁいずれにせよ、女神を無力化する力と誤転生を天界に報告するという二つの弱みを奇跡的に握れたわけか。思い返してみると本当に奇跡だな。天界への報告方法は女神を無力化した後にどうとでもなるだろう。これなら女神もむやみに俺に手を出せまいし、最後にもう一推ししてダメだったらひとまず今はこれくらいで手を引くか。

「——なるほど理解した。ところで、この言語理解能力の指輪、明らかに女ものだしダサいんだよな。それにこれからはわざわざ2つも指輪をつけるのなんてめんどくさいし、指から外れたら効果も切れるんだろう? これらの指輪と交換してもいいからやっぱり何か能力をくれるのは無理なのか?」
「……本当に欲深いわね」
「当たり前だろ。俺が今まで何百回異世界生活を夢見たと思っている。トラックに轢かれそうになってる女の子はいないか、暇さえあれば探し回ってた時期もあったんだぞ!」
「そ、そう……」

 女神は未だ大事な指輪を奪われているということも忘れたのか、俺の要求を聞くとこっちを睨んできたが、今となってはもう呆れたような顔をしている。

(さすがにやり過ぎたか)
 押し黙って塾考している様子の女神を見て、要求を重ね過ぎたかと後悔していると、突然女神は手を叩いて何かを閃いたらしい顔をした。

「確か、栄一にぴったりの能力が一つだけ余ってたかも!! (昔、とある勇者候補が必要ないと言って余ったものだけど……)」
「おお! あるなら先に教えろよ! なら早くそれを付与してくれ!」
「忘れてたんだからしょうがないじゃん。じゃあその能力を付与してあげたら、誤転生の件はなかったことで! あとそれが終わったらもう帰ってね!」
「誤転生の件は無理だ。だが、お前が俺に敵対しない限りは秘密にしておこう! それと帰宅は約束する!」

 ある程度の妥協点を互いに提案し、それで今回は納得することにした。

「一応のために契約の魔法を使うわよ」

 そう言って女神はデスクの引き出しから一枚の白紙を持ってくると、指でなぞるようにして文字を書いていく。青く光るその文字はどうやら魔法で構成されているらしい。

「さて、内容は、私が能力を付与したら、私が栄一に敵対しない限り誤転生に関することは秘密にすること。そして栄一はこの空間から出て行くこと。いいわね」
「あぁ問題ない」
「じゃあちょっと手を出して。少し血をもらうわよ」

 まず、女神が指を風系の魔法らしいもので軽く切って、そこから出た血で自分の名前を書いた。続いて俺の指先も少し切ってもらって同じようにサインする。ちなみに、その書類は言語理解能力の効果がある指輪を嵌めているおかげか、見たこともない文字で書かれていたが難なく読むことができた。実に不思議な感覚だ。

「よしっ! 誓い終了! っあ! もしこの誓いを破ったら魂ごと消されるから」

 事後承諾でそんなことを言ってきたが、まぁ能力が手にはいればそれでいい。
 女神は契約書をデスクの方へ置いてくると、俺の方へ戻ってきた。

「さぁ! 早速、付与を頼む!」
「言い忘れてたんだけど、能力付与にはその指輪が必要なの」

 彼女が見入る先には、俺に踏まれたままの指輪があった。

「じゃあ、その念話兼魔力供給の指輪と誤転生に関する報告書と引き換えにこの指輪を返すよ」

 俺がそう言うと女神は素直に指輪と書類を引き渡した。なので俺も約束どおり女神から奪った指輪を渡す。
 能力付与に必要な指輪だというからには、壊したりでもすれば相当まずいのだろう。何せこれがないと仕事ができないんだからな。女神があんなにも必死になったのも頷ける。

「はぁ〜。……うん、傷はないみたい! よかったぁ〜」

 そう安堵する女神にお構いなく、
「ほら。さっさと俺に能力を付与してくれ」
 と急かすと、少し不満そうな顔をしたが、すぐに真剣な眼差しを俺へと向けてきた。
 女神は指輪を嵌めた右手を俺に向けると、一拍遅れてその指輪が燦爛と輝き始める。


「女神——ルーナの名の下に、この者へ天界からの加護を授ける」

 その宣告をトリガーとして、俺の体が淡黄の光に包まれた。

(おお? なんだこれ。なんか心が無になるというか洗われるというか、とにかく変な感覚だ)
 そしてそのまま数秒も経たないでそれらの光は一気に霧散した。

「……ん? 今は特に何も感じないけど」

 おそらく発動方法を知ってその手順で発動した時にようやく自覚できる能力なのだろう。

 知覚系か生産系か肉体強化か、はたまた魔法か。どんなチート能力が手に入ったのか、俺の豊富な能力リストから該当しそうなものを脳内でリストアップしていると、不思議そうに俺を見ていた女神がポツリと呟く。

「そりゃあ何も感じないはずよ。だって”付けている指輪の効果を能力として魂にコピーする”能力だから」
「は?」

 聞き間違いだと思って聞き返すと、女神はまたもや同じことを言う。

「だから、”触れている指輪の効果を能力としてコピーする”能力だって! この能力さえあれば、一度指輪を嵌めるだけで、あとは指輪を持ち歩かなくてもその効果が使えるのです! なんと言う便利な能力なんでしょか!!」
「は?」

 いやいや、意味がわからない。なぜ反則級なチート能力ではなくこんな少しの役に立たなさそうな能力なんだ? おかしいだろ?

 苛立ちを全面的に出している俺に、女神も俺の言いたいことを察したのか言い訳じみたことを言ってくる。

「だって指輪をつけたくないし、外すと能力が使えないから何か良い物はないかって言ったのは栄一でしょ?」
「そんなこと言ってねーよ。俺は唯、何かしらのチート能力が欲しかっただけで——」
「——これも立派なチート能力よ! ……誰もが欲しがらなくて余っちゃてただけで」
「おい? 今、余り物って言ったか?」

 目を左右に泳がせている女神に、今にもブチギレそうな俺。というかもう若干切れている。
 そんな俺を見て慌てたように帰宅を促してきた。

「ほら、約束は果たしたんだからさっさと帰ってもらうわよ。——っあ! ついでに倒せそうだったら魔王も倒してきてね!」

 女神はそう言って、何やら俺の身長ほどある魔法陣を生成し始める。

(帰還用の魔法陣か!?)
「おいこら話は終わってないぞ! 天界にあのことをバラしてもいいのか?」
「それは契約違反よ!! 残念だったわね〜」
「おい! ふざけんなクソ女神!! 待っ——」

 俺が文句を言い終えることもできず、青く光り輝く魔法陣へと包まれていった——。

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