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第一話「俺さ、ダンマス辞めたら、ロリ少女ハーレム作るんだ……。」①

 やぁ、俺……坂登(さかのぼり) 仁(ひとし)。
 
 訳あって、300年位前からこの難攻不落のウラガン大迷宮の支配者、いわゆるダンジョンマスターをやっている。

 自慢じゃないが、元々日本でシステムエンジニアなんてやってた俺は生来の凝り性。
 幾多の罠に、人間心理の裏を付きまくったエゲツない地形、凶悪な守護者達。
 各所に設置された防衛システムは、まさに敵を効率良く殺すための殺戮兵器だった。

 幾多の冒険者、軍隊、魔物が繰り返しこの迷宮に挑んできたのだが……それらすべてを返り討ち。
 勇者や魔王なんてのも来たが……そいつらですらも踏破は叶わなかった。
 
 もちろん、奴らは伊達に勇者とか魔王とか名乗ってない……連中はなかなか善戦した。
 
 だが、善戦しただけだ……所詮は俺の手のひらの上。
 いかに強大な力があろうとも、我が迷宮は力でどうにか出来るものではなかった……ただそれだけだ。
 
 まさに、難攻不落……作った自分でも正面から行ったら、たぶん攻略不可能な無理ゲー。

 一応、俺はこの大迷宮のラスボスであり、ここまで来たやつにはそれなりの景品だって用意しているのだが。
 
 この300年間誰も来ない……そりゃあもう全く来ない。

 そろそろ、この生活も飽きてきたので、お役目御免と行きたいが……。
 
 自分もこの司令室から出れないと言う制約がかかっている以上……自主的に引退って訳にはいかなかった。

 ……誰かがこの迷宮を攻略してくれるか。
 もしくは、いっそこの司令室に殴り込んで来て、スパッと倒してくれるのも一興か……などと思っているのだが。
 
 いずれにせよ夢もまた夢というのが実情で、俺の願いは叶いそうもなかった。
 
 そんな俺の最近のささやかな楽しみは……この大迷宮に挑む冒険者たちの観察だ。
 
 全60層のこの大迷宮……最高記録は150年前の魔王ルシファルファとか言う健康食品のような名前の魔王様。
 軍勢を率いて、大挙して押し寄せてきて、なんと50層まで辿り着いた。
 
 もっとも、その軍勢はそこに至るまでに、すり潰されきってしまい。
 魔王様本人も50層に配置しておいた俺の考えたさいつよゲート・ガーディアン「究極スーパーデンジャラスストロングドラゴン改MK2」と相打ちになった。
 
 風のうわさでは、この時多数の部下を捨て駒として犠牲にしたせいで、すっかり求心力を失い……。
 地上へ帰還後、反乱祭りが発生し部下に討たれるという悲壮な最期を遂げたらしい。
 
 いい所まで行っていたのに惜しかったが……それっきりだった。
 
 勇者サナトスって奴も割りと頑張った。
 けど、40層止まり……半分ちょっとだ。
 
 けどまぁ、頑張った方だ。
 「究極~中略~ドラゴン」ほどではないが、「絶品カニアーマーユグドラシル実装型」と戦い……まぁ、負けた。
 と言うか逃げた……カニ嫌いだったんだって……。
 
 結局、ほうほうの体で地上へ帰還後、本来の役目魔王討伐に乗り出し、ルシファルファ亡き後、魔王の玉座に付いた魔王四天王筆頭のアッシュマーとか言うやつと戦い……やっぱり、相打ちになった。
 
 諸行無常の響きあり……残念な事だ。
 ちなみに、アッシュマーの断末魔は「アッシュマーがぁっ!」だったらしい。
 
 それっきり、折り返し地点の30層を超えるような冒険者はおらず、俺としては退屈な日々を過ごしていた。
 
 ……そして、それはちょっとした気まぐれだった。
 
 その日、俺は退屈しのぎに、飛天の眼を使い大迷宮の各所を見て回っていた。
 
 どうにもこれだと言うやつはいない……何とかと言う冒険者ギルドの精鋭が20層のガーディアン「ボリノークマッサーV2バスター改」相手に総力戦を挑んでいたが……20人は居たのに、もう半数以上が倒れていた。
 
 ボリノークマッサーは通常形態で、ライフが半分削られると、バスターパーツを召喚し、バスター砲で薙ぎ払うのだ!
 
 ……連中、そこまで予想していなかったようで、ごっそりと薙ぎ払われた。
 これはもう無理だろう……ご愁傷様。
 
 残念な結果に失望しつつも……基本に立ち返って、第一層を見てみる事にした。
 
 ここは、もうぶっちゃけチュートリアルステージのようなもの。
 
 配置してあるモンスターもスライムやミニゴーレムと言った一般人ですら倒せるような雑魚。
 むしろ、練習台くらいに思って欲しい。
 
 通路も広く見通しもよく、トラップスイッチもわざわざ赤く塗って、解りやすくしている。
 落とし穴に至っては、ご丁寧に白線で囲って、踏んだら抜けるぞとまで書いてある。
 
 それでも、どいつもこいつも面白いように引っかかるし、ミニゴーレムに撲殺される奴もいるのだから世話ない。
 
 まぁ、そうやって死んでもやり直しが利くのが俺のダンジョンの優しさ。
 この迷宮では、誰も死なないようになっている。
 
 バラバラになろうが、大岩に押しつぶされてペラペラになろうが……地上への転送の際に、身体再構成が行われるので、地上に戻る頃には何事もなかったかのように元通り。
 
 もちろん、装備品などは失われる事になるが……生きていれば明日がある。
 心が折れない限り、いつの日にか……俺のもとにたどり着いて欲しい……そんな切なる願いの結実がこの優しさ仕様。
 
 そんな事を思っているうちに、誰かが大岩転がしのトラップを起動させてしまったらしい。
 
 まぁ、所謂インディーなジョーンズでお馴染みなあれだ。
 
 キャーキャーと喚き声を挙げながら、迫り来る大岩に追われているのは……幼女?
 背丈は1mとちょっとで、猫耳の付いた黒いローブと白いローブの二人組。
 
 最初はホビットか何かと思ったのだけど……人間、それも文字通り幼女、とにかく幼女だ!
 
 大岩と言っても、通路すべてを塞ぐわけもないし、速度も走って余裕で逃げ切れる程度……時速にして約5km程度。
 立ち止まって、ぼけーっと突っ立ってたりでもしない限り、これに潰されるような奴はまず居ない。
 
 こういうのもあるよと言うデモンストレーション……のつもりなのだ。
 
 実際問題……落ち着けばやり過ごすことなんか容易のはず。
 ……そのはずなのだが。

 彼女達は、壁際に寄ってやり過ごすこともせずに、トテトテと泣きながら、必死にまっすぐ走って逃れようとしていた。
 
 そこでひたすらまっすぐ逃げてどうするつもりなのかと、ハラハラしつつ見ていると……白い方がコケた!
 しかも、二人で手なんか繋いでたものだから、隣の黒い方も一緒にコケる。
 
 ええ? これって……と思う暇もなく、大岩が迫る……それでも逃げようともせずに、お互いをかばうように抱き合う二人! 
 
「さ、さすがに幼女が潰れたトマトみたいになる光景なんて見たくないぞ! きょ、強制転移っ!」

 管理者権限による強制割り込みで、転移コマンドを実行!
 幼女二人の姿が消え……大岩が二人の居た所を通過していく。
 
 しまった……思わず、やってしまった。
 
 誰にだって、平等に死が降りかかると言うこの迷宮のルールを俺自ら破ってしまうとは……。
 
 で、でも! 幼女ですよ? 生幼女。
 きっと年齢一桁ですよ……なんで、こんな迷宮に来るのかとか小一時間くらい問い詰めたい訳ですよ。
 
 と言うか、俺がルールだし。
 
 決めた……10歳以下の女の子は死なせない……これがこの迷宮の新しいルールだ!
 
 そんな訳で、彼女達は……ひとまず、通称拷問部屋と呼ばれる閉鎖ブロックへ転送しておいた。
 
 なぜ、そんな物騒な呼ばれ方なのか?
 
 この迷宮……基本的に誰も死なないように出来ているのだが、それを良いことに同じ冒険者を遊び気分で殺しにかかったり、性犯罪まがいの行為に走る輩がいるのだ。
 
 そのような下衆には、たーっぷりとこの部屋で拷問のフルコースを味わってもらって、反省してもらう……その為の隔離ルームなのだ。
 
 なのだが……今回、この部屋は本来の目的にではなく、幼女たちの一時的な避難所として活用する事にした。
 
 ……とりあえず、この幼女たちに興味が湧いたので、俺が直接話してみることにした。
 司令室の外に出れないというだけで、俺はこの迷宮の中ならどこでも見れるし、音も聞こえるし声だって届けられる。

 俺、この迷宮の支配者だからな!

 幼女たちは……と言うと、扉も窓もない部屋の隅っこで何が起きたか解らず、プルプル震えている。

 顔立ちも整っていて、どちらもなかなかの美少女だ! むしろ、俺好みだ!

 ……こんな娘達が傍に寄り添ってくれたりなんかしたら、俺、最高っ!
 
 と、とにかく……まずは、優しく声をかけるとしよう。

『……お前達は……何故こんな所に来た?』

 ……と言ったつもりだったのだが……実際には、しわがれ声のダミ声で……。
 
「ぼぎぇああ、ぶぉごごるぐで?」

 こんな感じだった……。
 声を出し方すら忘れてしまっているとは……我ながら酷いものだった。
 
 こんな恐ろしげな声がどこからともなく聞こえたせいで、二人共限界を超えたらしく、ピェエエエとばかりに号泣。
 ついでに……座り込んだ二人のお尻の周りにじわじわと水たまりが……。
 
 ……俺氏、最低である!
 
 泣かせた挙句、粗相をさせてしまうとは……もう、死ね! 俺、死ね!

 幼女ハーレムげへへとか言ってた俺も死ね!

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