第十七話_座学3
「こっちの方がいいかもな」
そう言って雅は指先に青白い火を灯す。
先程、気を燃料にして燃やしていたが、魔力を使って工夫できないか考えた結果、指先に魔力の膜を張ってその魔力を燃料に火をつけるというやり方だ。
「そういえばさ、さっき魔力の適正がどうのこうのって言ってたけどさ、あの体育館で計ったあの適正値だけじゃないんだな」
「そうですね。あの数値も普通は60%あれば十分に使えるほどの適正値なんです。魔法適正値はその名の通り魔法を使用する際、どれだけの魔法に自分の体が耐えられるかの数値でもあるんです。もし、適正値より上回っている魔法を使用した場合、1日は潰れて動けなくなります。症状は風に似てるそうです」
「ほー。でも俺だったらほとんどの魔法が使えそうだな」
「そうですね。ちょっぴりうらやましいです」
「ははっ、じゃあちょっと色々試してみるか」
「はい!もしわからないことがあったら私にも教えてください!」
「ああ、サポート頼んだよ」
2人がこうして仲良く魔法の研究をしている時、フィレイは自室で悶々としていた。
「(ああぁぁぁ、やばい。これ後から来るやつだわ…どうして『大好き』なんて言っちゃったの私!?恥ずかしい恥ずかしい。これ、俗に言う黒歴史とやらね。あぁもう、これからどうやって接していけばいいの…)」
などと頭の中で色々と妄想をしながら頭を抱える。すると、肩から脇にかけて2本の入れ墨が記されているのが目に入った。
「………はぁ」
そうため息をついてすぐに視線を前に戻し魔法の勉強を始めた。
ただ、その時の気持ちはすっきりしたものではなくて、
「(学校、行きたくない)」
酷く、淀んでいる気持ちだった。
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃいませ、お二人方」
あの後、雅はスミルと魔法の研究、フィレイは勉強をそのまま夕日が沈むまで行い、それぞれの成果を得て夕食を頂いた後、3人とも疲れ切ってすぐに寝てしまった。
雅とフィレイはいいのだが、スミルまでもが寝てしまいその後の仕事をすべてクレハがやったので現在、スミルは一生懸命朝の仕事に励んでいる。なので、朝見送りに来ているのは目の下に少し影を作り表情筋が硬く見えるクレハだけだった。
2人で桜舞う並木道を肩を並べて歩く。
「(つーか、この世界にも桜あったんだな。あ、やばい。くしゃみでそう)」
「くちっ!」
雅がくしゃみをしようと鼻をぴくぴくさせていると、隣からかわいらしい声が聞こえた
「お前も花粉症なのか?」
「うー。…花粉症?なにそれ?」
「あー、この言葉はないんだな」
「それってミヤビの世界の言葉?」
「ああ、花粉症っていうアレルギー性鼻炎の事なんだけど、ああ、アレルギーも説明しないとな。アレルギーってのは簡単に言うとほら、風邪をひくとベットで寝るだろ?そして安静にして暫くすると治ってくだろ?あれって体の中の抗体とか色々のウイルスに対抗する物質が戦って勝ったから治るんだ」
「それと花粉症の関係って?」
「ああ、話し戻すけど。これだけ聞くと、花粉症も治るんじゃないのか?とか思うよな。でもな、花粉症とか、アレルギーとかは体の外の物質が悪さしてるんじゃなくて、ほんとは体に害のない物質が入った時、抗体がこれを敵とみなして攻撃した時にくしゃみとかかぶれたりするんだ。花粉症はくしゃみ、鼻水とかで済むかもしれないけど、食べ物のアレルギーは下手すると死んじゃうんだ」
「なるほどね。だから急に倒れてそのまま亡くなってしまう人がいるのね」
「そういうことだ」
そこまで話して雅はふと思う。
「(元の世界の事を話してもいいのかな?)」
「なぁ、このこと、あまりっていうか他の人に言わないでくれるか?」
「……分かったわ。そういう事ね」
そうして2人は昨日の研究の成果とか、戦い方のことなど話し合いながら並木道を歩いて行った。
その2人を見ている影が4つ。
「何あいつ、没落貴族の癖に男子とつるんじゃってさ。生意気」
「ほんとにね。また、昼休み呼びだそっか」
「ふふ、そうね。もう一度自覚してもらおうかしら」
「じゃあ、私行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
その4つの影は魔法学校の制服を着た女子達だった。