住家完成
小屋から出て鍵の案内で見て周り知ったのは、憲治たちが今いるのは不思議の国の外れにある小さな町だということ。この辺りはワーウルフが元々多い地域だったことである。
「女王が治める王都に行けばもう少しイキモノがいる……と思う。さすがにあの女王が一人で何でも出来るとは思えないからな」
「ということは必要なものは王都まで行かないと手に入らないって事か」
「多分、ってしか言えない」
最初の頃の強気な態度とはうって変わって、鍵は淡々と説明してきた。
「いい迷惑だ」
「まったくだわ。せめてあちらで見かけた『アラクネの布』を大量にもらわないと割りにあわないわ」
「あとそれに見合う糸な。レース糸も欲しい」
他には珍しい皮革とか毛皮とか毛糸のようなものとか。ピンクッションと憲治はマテリアルを想像し、そしてそれで作るものに思いをはせた。
「……あんたら」
鍵が呆れていた。
……そんな和気あいあいとした空気も、モンスターの出現で一変する。
「さすが異世界。モンスターもいるんだな」
チキンなのを少しばかり隠し、憲治が呟く。
「俺が出てく前はいなかった!」
「鏡であの爺さんに聞いてみるか?」
「聞くよりも先に逃げるべきだと思うの」
「……だな」
ピンクッションの言葉で現実に戻った憲治はすぐさま逃げる準備に入った。
が。
逃げれば逃げるほど囲まれるとは、これいかに。
「鍵! あなたが倒しなさい!!」
「俺!? 無理ーー!!」
鍵が慌てたように言う。樹木に手足が生え、顔は木の幹にある。しかもかなりの悪人面だ。
「憲治に言われたらおしまいだと思うの」
さらりとピンクッションが呟いた。その言葉だけで憲治はあっという間にダメージを負った。
「仕方ないわね。それ! 目つぶし!!」
そう言いながらピンクッションは針を飛ばしていく。
あっという間にモンスターが倒れた。
「武器用針と仕事用針分けないとな」
現実逃避をした憲治は思わず呟いた。
「ニードルウッドってモンスターみたいだな」
鍵がモンスターに近づき、何やらごそごそしていたと思ったら調べていたらしい。
「とりあえず今の俺だと、倒した後にモンスター特性を調べられるみたいだな。さて開錠!」
鍵が言うと、空間が広がった。
「憲治。その倒れてるモンスター全部この空間にしまってくれ。おそらく金槌あたりが何とかしてくれるだろ」
「ん」
投げるようにモンスターを入れていく。
「一応この中に入(い)れれるのは命のないものな。間違ってもお前ら入(はい)んなよ?」
「はーい」
何故かピンクッションと憲治の声がはもった。
入ってみたいなどとは思っていない。……おそらくは。あの中がどうなっているのかが気になるなんてことは、……かなりあったりする。
「さて、と。一度戻るか。モンスターが出た理由も調べなきゃいけないし。爺に聞くこともできたし」
「だな」
「そうね」
四人の意見が一致し、あばら家へ戻ることになった。
あばら家の隣には何故か小屋が二つほどできていた。
「こっちは鍛冶部屋。さすがにおいどんはものを切れない。レンガを作るためにもかまは必要でな」
「……なるほど」
まずは道具作りからとなったらしい。
「おい、金槌。これ使えるか?」
そう言って鍵が空間から先ほど倒したニードルウッドを出していく。
「使える。ってか、鉄鉱石とかは?」
「そこまで探せる時間がねぇよ」
「そうかい。少しだけでもあるといいんだが」
「昔使ってた包丁とかならあるはずだ」
「それを使うか」
金槌と鍵で話していく。そして見つけてきた古い包丁やら金槌やらのこぎりやらを使い、ニードルウッドを適当な大きさに切っていく。
「さて、火を起こしてまずは作るとするか。まず必要なのはのこぎりと包丁だな」
そう言ってあっという間に作っていく。
「……早ぇ」
憲治が呟くと、金槌はにやりと笑い、次にレンガを作り始めた。
あっという間にあばら家は小屋のようになり、人が住めるようになった。