反撃
俺は、娘たちにあの資料を託すことにした。
まず、インターネットが接続できる病院の最上階の特別室に病室を移させてもらった。愛用のレッツノートを持ち込み、スピーチ原稿の編集を行う。資料の中身はすべて憶えているので、問題はない。あとは資料を自宅より安全な会社の総合資料センターに保管してもらおうと考えている。
娘たちがやってきた。長女以外だが。次女の実優が、
「お父さん。話って何?」
と言う。俺は、
「家の地下室。最奥部に金庫室があるのは知ってるな。そこに国家機密級の極秘資料がある。中身は見るな。東川に連絡しておいたから、俺の会社の資料センターまで持っていってくれ。#3と書いてあるディスクケースだ。それを持って行ってくれればいい。あとは東川に任せておいてくれ」
と言った。実優が、
「分かった。その資料を持っていけばいいのね」
と言う。三女の眞優が、
「お姉ちゃん。そんな胡散臭い話信じるの?」
と言う。まあ、胡散臭い話だわな。華優が、
「いいんじゃない?お姉ちゃん〆切もうすぐなんだし、私が持っていくよ。資料センターってどこ?」
と言う。俺は、
「ああ。助かるよ。えーと、資料センター・・・・沖縄区東掛1丁目5番地。5階建の白いビルだ」
とPCを見ながら言う。
私は、愛車のダイハツムーブカスタム3代目を運転していた。ディスクケースを助手席に置いて。すると、車の周囲をパトロールカーが囲む。え?どういう・・・。すると、私のスマートフォンにLINEが届く、車用のスマートフォンスタンドに立ててあったので、手に取る必要はない。見ると、
―一応沖縄警視庁に頼んで警護してもらうから―という単純なメッセージ。資料センターの地下駐車場に入り、車を降りると、パトカーから大柄な男が出てくる。大柄な男はこちらに向かって歩いてきて、
「初めまして。沖縄警視庁の木村です」
と言い、警察手帳を見せる。へぇ。警部さんだ。私は、
「どうも。沖縄工科大学電機情報工学部3年の烏丸華優です」
と言う。木村と言う警部は、
「えーと・・・」
と言う声を出す。突如背後から、東川さんが現れる。東川さんは、
「あのぉ。資料を受け取りに来たんですが・・・・」
と言う。何かがおかしい。いつもの東川さんとは違うような・・。でも顔は同じ・・・・。私はスマートフォンのカメラで東川さんの顔を撮り、父に送る。東川さんは怪訝そうにしている。すぐに父から返事が来る。-なんか頬が膨らんでるぞ。マスクでもかぶってんじゃ?ーと。私は、
「東川さん・・・じゃないですよね?」
と言う。こういう時意外と落ち着いた声音が出るものだ。東川さんの偽者?は、
「何言ってるんです?華優お嬢様」
と言う。それで確信が持てる。私は絶対的な自信を持って、
「本当の東川さんは、わたしをお嬢様なんて呼びません。私はお嬢様と呼ばれるのは嫌ですから。あなたは本当の東川さんではありません」
と言う。偽者は、
「ああ。ばれてしまいましたか。そうですよ。僕は東川俊彰ではありません。ですが正体はばらす気はありません。資料を渡してください」
と言い64式小銃を私に向ける。木村さんが、
「あなたは陸上自衛隊員ですね?落ち着きなさい」
と言う。偽者は、突如自らに小銃を向けると、そのまま引き金を引いてしまった。偽者が頽れる。私は急いで近づき、脈拍を測る。偽者が、
「さ・・・触るな・・・」
と言う。木村さんがスマートフォンで電話をかけているのを横目に私は、
「いいからしゃべらない。死ぬよ?」
と言う。彼は黙る。その間にスーツの上着を脱がせ、直接圧迫止血法を行う。
救急車が来たのは、その3分後の事だった。