団長室
団長室。
団長の八雲は、大きな机に地図を広げ、ノートに何か書き込んでいる。
「コンコン」
「はい」
扉を開けて、副団長の片桐が入ってくる。
「団長、エリーがケーキを焼いてくれたので、頂いてきましたよ、
少し、お茶にしませんか?」
片桐は、お茶の入ったポットとケーキの乗った皿をトレーに乗せ、テーブルに置く。
「ありがとう、頂くよ。
へぇ、すごいなぁ、お店に売っているものみたいだ」
皿には数種類のカラフルなケーキが乗っている。
片桐は、カップを用意してコーヒーを入れる。
「エリーは調理の専門学校で習ったらしいですよ、
団長も、剣技ばかりではなく、少し料理を覚えた方がいいのでは?」
「知らないだろけど、私も簡単なものなら作れるから。
こんな綺麗にはできないけど」
八雲は、少しだけ口をゆがませて、片桐に抗議の目を向ける。
「おや、これは失礼しました
てっきり、ただのおてんばな、お嬢様だと信じきっていました」
「なんだよ失礼だなぁ…料理のことなら、私よりもカップ麺さえ失敗するニーナに言うべきだよ」
「はははっ、
そんな事、怪我をしてまで言う気はありませんよ」
「だね」
二人は、笑い合いながら、コーヒーを口に運ぶ。
殺し合いが、当たり前のように行われるこの世界の中にありながらも、
午後の優しい日差しが似合う、静かな時間がそこにはあった。
片桐はカップを口から離すと、シフォンケーキを小さな口に運んでいる八雲にたずねる。
「…いかがですか?イグニスの方は?」
イグニスは、シュラの中央に位置する地域だ。
自然と都市が融合した地方で、火山地帯も多く、
温泉がある事も、イグニスの特徴の一つだ。
「ああ、概要がわかってきてる程度で、
具体的な情報は、まだ入ってきてない」
八雲は、片桐を見ることもなく、次に食べるケーキを選びながら応えた。
「そうですか、あまり芳しくなないようですね、
ただ、私は、そろそろ動きだすべきだ、と思っていますが?」
「…うん」
「こちらは十分時間を頂きましたから、用意できておりますよ、
相変わらず、団長の目に狂いはなかったということでしょうね」
「ただの勘だよ」
「いやいや、勘は、思考と経験の産物ですから。
やはり、たいしたものですよ」
「ふふっ、まぁいいよ、実は、私も今がいい時期じゃないかと思ってた。
慎重にはいきたいけれど、それよりも、今はスピードを優先すべきだ」
「同感です」
「よし、では今夜、話し合いをしよう。
幹部の収集を頼むよ」
「了解です
あ、団長、そのミルフィーユ食べないんだったら、もらいますね?」
「あっ、ダメだよ、それは最後に残してたんだから」