02
思わずため息が出た。東京に出たって、私は大して変わっていない。誰だって突き当たる壁かもしれないが、最新のものがあふれる都会に出ても、それに親しんでいない地域の人間はそうそう最新に追いつくことができないのだ。インターネットがいくら普及しても、大量に並ぶ商品を前にしたら「慣れた目」を持っているかいないかがはっきりと分かってしまう。適当に情報を聞きかじった程度で、家電量販店に大量に並んだパソコンを前にして選別作業に入れるわけがないのだ。
彼も、変わってはいないのだろうか。普通にしゃべっているはずなのに、いちいち言葉を選んでいるような自信のない口調だとか。たえず手でどこかを触っているような、挙動不審にも見える妙な癖だとか。私とすら決して目を合わせようとしない、不自然な目の運び方だとか。
──いや、本質は変わっていないだろう。本を返す、というメールにはすぐ返事がきた。それ以外のメールへの返事は、今だって特になにも言ってこない。「メール返せなくてごめん」の一言さえ、だ。
もはや、残念とすら思えないのが自分でも少し悲しかった。二年前、返事がなかった頃にうだうだと悩みすぎて、諦めの境地だとか、そういうものに達してしまったのだ。
ひとつめの停車駅を前に、新幹線がその速度を落とした。景色は相変わらず、建築物の密集地だ。この駅を通り過ぎて、ようやく新幹線は速度を十分にあげることができる。
時間の流れがやけに遅い。思考もまるでいい方向に転ばない。
紺色のビニール袋に包まれた本に目を向ける。嫌な考えから逃げるのに最適なのは部屋の掃除だが、それができなければ活字の世界に逃げこむのも悪くはない。問題は、原因となる人間から借りた本であるということと、興味もなにもない神話だということくらいか。
背に腹は代えられない。憂鬱に地元へ帰るよりは幾分かましだろう。表紙さえ見られなければ、他人からはなにを読んでいるのかも分からないはずだった。
テープをはがし、袋から取り出した本の滑らかな手触りに、なぜか安心している自分がいた。