02
ため息をひとつついて、そこで私は文面をどうしようか全く決めていないことに気づいた。一方的に何度もメールを送り続けていたのは大学に入ってからの半年間だけで、相手の真意だとか安否だとかを考えている内に頻度が落ちていってしまったのだ。
だいたい、一年ぶりのメールということになる。
真っ白な本文欄を前に、私は何もできないまま画面を見続けていた。操作されなかったスマートフォンが省エネと防犯のために画面を暗転させ、私がロックを解除する。同じことが四度続いて、ようやく私の肩から力が抜ける。
彼の真意など、考えるだけ無駄だ。必要最低限のことだけ書いて、返事がなければ本はポストにでもつっこんでおけばいい。
そう決めてしまえば、驚くほどあっさりと本文欄を埋めることができた。「今度久々にそっち帰るから借りてた本返そうと思うんだけど、時間ある? なかったら、適当にポスト入れとくから」──見返すほどのものでもない内容だ。多少言葉足らずな感もあるが、そこまで気にするのもなんだか違うような気がする。
一息ついて本とスマートフォンを置くと、ひとつ肩の荷が下りたようにも思えた。返事が来ないからといって彼にメールすら送らないということに、少しばかりの罪悪感があったのかもしれない。
無駄な思考を振り払い、やりかけの掃除を終わらせようと開けっ放しの引き出しへ近づく。まずは中身のいらないものを捨ててから、なにを入れるか決めていこう。というところまで考えたところで、引きとめるように電子音が鳴った。
音源はスマートフォンだ。まさか、とよぎった期待を、私は努めて意識の外へ追いやる。彼からメールの返事なんて、ずっと来ていない。大学からの連絡メールか、どこかの店で登録したメールマガジンか、タイミングよく用事のできた大学の友人からだろう。
スマートフォンには、二〇時二五分を示すデジタル時計の下に、メールの着信を知らせるポップアップが表示されている。
予想は裏切られた。期待は裏切られなかった。
けれど、訳もなくいらいらする。USBコードを抜いたスマートフォンを部屋の隅に畳んだ布団に投げつけ、一時間ほど放置してから返事を書こうと心に決めた。
なにが「分かった。日付教えてくれれば合わせるよ」だ。忙しいんじゃなかったのか。今までメールの返事がこなかったのは、なんだったんだ。
fromのあとに続いた彼の名が少しばかり新鮮だったのが、さらに気に食わなかった。