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 映画か何かの話のようにすら思えてきた。グレッグ・ブリューを思い出しさえしなければ、報酬を支払ったあとに詐欺であることが判明しても、笑って許してやろうという気にもなってしまうだろう。

 僕の内心を知っているのかいないのか、あるいはそんなものには興味すら持っていないのか、ヴァージルは解説を始める。

「魔法弾と共に扱われるものです。魔法弾には人の意志をとどめる効果があり、魔法銃はそれを増幅して撃ちだす能力があります。殺意であれば確実な死を、保護欲であれば絶対の守護を。恨みは殺意と同列で扱われることが多いですが」

 続けて、ヴァージルがジャケットから取り出したのは、銃と同じく黄金色の薬莢に入った弾丸だ。一見するとなんの変哲もない実包だが、底部──撃鉄に叩かれる部位に赤い石が埋め込まれていた。

 無機物であるはずなのに、血の抜けきっていない肉塊のような生々しい光り方をしている。

「いかがでしょうか。この魔法弾を握りしめた状態で、一時間もグレッグ・ブリューのことを思ってくだされば結構です。死ぬ場面だとか、自ら殺す場面でも構いません。恨みが強くなるというのであれば──思い出したくない場面でも」

 それで本当にやつは死ぬのか。

 問いを投げた僕の声は、自分でも驚くほどに荒々しかった。他人に八つ当たりするような愚行は、僕だって本当は犯したくないのだが。

「必ず」

 ヴァージルの答えは、明瞭で簡潔だった。

「復讐を代行するのは、私ではなく弾丸です。そこに込められた思いが本物であれば、弾丸は望み通りにすべてを代行してくれる──そう思ってくれて構いません」

 目を伏せる。実包についた赤い石に、どうしても視線が吸い込まれてしまう。

 欲望が頭をもたげた。ヒトの形をしたケダモノを、届かないと思っていた存在を、殺せる。

 しかし同時に、記憶の奥底に植えつけられた恐怖心が拒絶する。もう二度と、あれと関わりたくはない。たとえ思い出すだけであったとしても、直接会うわけでなくとも、近づくこと自体に意識が警鐘を鳴らしている。

 頭も体も固まってしまった僕に、ヴァージルはあっさりとした口調で続けた。

「答えは今すぐでなくても結構です。魔法弾の準備が完了するか、魔法弾を見ることすら嫌になった場合はこちらへ連絡を。──弾は、渡しておきますので」

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