不思議の国へようこそ!?
「ちっくしょーーー!!」
突き飛ばされたはずなのに、身体が痛くない。
何か、柔らかいものの上にいる感じがした。
「おい、どけよ。憲治」
「……悪い。……ってえぇぇぇ!?」
しゃべっていたのは、鍵。
「うっせぇな。黙れ」
「……はい」
鍵に怒られてしょんぼりするさまは、ある意味シュールである。
「出してあげてよ」
「へ?」
次にしゃべったのはメジャー。
「箱の中にいる鋏が出たがってるの。だから出してあげて」
これはピンクッションだ。
恐る恐る工具箱を開けると、すさまじい勢いで学生時代から使っている鋏が出てきた。
この鋏、現在は紙きり鋏となっているが、学生時代は裁ち鋏だった。
「おれっちを閉じ込めるとはいい度胸だなぁ、憲治」
「……いや、その……」
「いいじゃない。大事にしてもらってるんだから」
「ピンクッションはずっと出してもらえるからって、偉そうに言うんじゃねぇ!」
カオスだ。道具がしゃべってる! 憲治はそう思うと同時に嬉しくなった。
「つくも神だっ!!」
大事にしていた道具に精霊が宿るという、その奇跡。それが自分の道具に起きたのだ。
「あのな~~。おれっちたちはつくも神じゃねぇ!! ……ただ、お前がおれっちたちを大事にしてくれたから、『鍵』がおれっちたちに人格を与えてくれただけだ!」
「そっか。ありがとう。で、ここはどこ?」
「ここは不思議の国。古今東西色んな文献に出てるだろ? ただし、ここは様々な異世界に続く『廊下』みたいなもんだ」
鍵が憲治に説明してきた。
「この不思議の国を経由して、様々な世界に
意味が分からないが、とりあえず頷く。そんな憲治に、鍵はでかい拳骨を落とした。
「あのな、分からないのに頷くな。んでもって、お前しか問題を解決できないんだぞ」
手も足もないのにどうやって拳骨を落としたのか、それが気になったが聞けなかった。
「俺しか解決出来ない?」
「そういうこった。頑張れや。お前がこの道具たちを大事にしてるのはよーく分かってる」
「?」
「俺よりも道具優先にしただろ? だからこいつらの中でお前と付き合いが深い三つに人格を与えたんだ」
付き合いが深い、という言葉に少しばかり卑猥な想像をしてしまった憲治である。
またしても鍵に頭を叩かれた。
「お前にゃやってもらうことがあるんだ。ふざけてると消すぞ?」
鍵が偉そうに言う。
「不思議の国に普通の人間は長くいれねぇんだよ。俺がそばにいることで、お前は安定してこの国に受け入れられてんだ。俺が離れたらお前は霧のように消える」
「それは困るっ!」
霧になってしまえば編み物も縫い物も出来ないではないか。
「だったら、大人しく俺の言う通りにしろ。
お前がするのは、この国の管理だ」
「……はぃ?」
何がどうしてこうなった。
憲治は思わず頭を抱えた。