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第27話 王女の仕事

「ドレス以外の、夜会の準備は順調ですか? 父から貴族名鑑の抜粋が、姫に渡った筈ですが」
「今、頭に叩き込んでいる最中です」
「そうですか。でも無理しないで下さい。今度の夜会の主旨は、姫のお顔を皆に見て貰う事ですから。渋面や不安な顔をしていたら、台無しですからね」
「王妃様達にも言われました。『今回は何があってもにこやかにしているのが、あなたの最大のお仕事ですよ』って。でも……、ただにこにこしているのが、王女の仕事でしょうか?」
「と仰いますと?」
 急に顔付きを改めて問い掛けてきたシェリルに、ジェリドは正直戸惑った。そんな彼に、シェリルが引き続き疑問をぶつける。

「ジェリドさんは才能豊かで騎士としても魔術師としても、力量は十分じゃないですか。エリーも、もう王宮専属魔術師としてしっかりお仕事を任せられているみたいで。私は取り敢えず一般教養を身に付けるのが先だとは分かっていますけど、それをマスターしたら何をするのかなと思いまして。一応魔術師としての才能も調べて貰いましたが、殆ど魔力は無かったですし」
「なるほど……、王妃様やミリア様を見ていたら、ただ笑っておられるのが王族のお仕事だと思いましたか?」
「あの、そんな風に言ったら、失礼かもしれませんが」
 恐る恐る尋ねてみたシェリルに、ジェリドが真顔で断言する。

「確かに王妃様は、政治向きの事とは一線を画しておりますが、王宮内の人事、催事、直轄領の運営等には、存分に手腕を発揮していらっしゃいます。しかもそれを、表立って分かるようにはしていらっしゃらない。そこが王妃様の一番凄い所です。それからミリア姫は……。まだ成人前ですので、姫と同様教養を身に付けるのが最優先ですが、確か孤児院や施薬院への視察と寄付行為はされていますね。どちらもレイナ様の名代という形を取っていますが」
「ミリアも、ちゃんとお仕事を持っているのですね……」
 自分より年下の彼女でもきちんと仕事をしているらしいと分かって、シェリルは若干落ち込んだ。しかしそんな彼女をジェリドが宥める。

「それでは姫は、ちゃんとしたお仕事がしたいのですね? そういう考え方ができる姫は、立派だと思いますよ?」
「今は笑顔でいるのが仕事って言われても、仕方がないと思います。でもきちんと勉強して、ずっと人の姿で暮らす事に違和感を持たなくなったら、一人の人間として働きたいです。でも私にもできるお仕事って、有るでしょうか?」
 そこまで言って心配そうに軽く首を傾げたシェリルに、ジェリドが自信有り気に頷く。

「それは有るでしょう。心配しなくて良いですよ?」
「本当ですか?」
「ええ。夜会が済んで落ち着いたら、機会を見て王妃様にお願いしてみると良いですよ?  きっと姫にもできるお仕事を、差配して下さる筈です」
「ありがとうございます。そう言って頂けて安心しました」
「お礼を言って頂くには及びません。姫の気鬱を少しでも晴らせたのなら、望外の喜びです」
 瞳を輝かせて反応したシェリルを愛おしげに見下ろしながらジェリドは保証し、そこで夕食の時間が近づいた事に気付いたシェリルは、彼に自室の近くまで送って貰って、約束の刻限までに部屋に辿り着いた。そして戻って来たエリーシアと、人の姿に戻ったシェリルがテーブルを囲んで夕食を食べ始めて早々に、早速その事を話題に出した。

「そんな風に、ジェリドさんに言って貰ったの!」
「そうね。確かに人には向き不向きがあるけど、王妃様は人を見る目が有りそうだから、慣れてきたらちゃんと考えて下さるでしょうね」
「うん、頑張るから」
 そう言って機嫌良く食べ進める義妹を眺めながら、エリーは(ここの所、それで悩んでいたのね)と納得し、更に(あの男、『私の所に永久就職とかはどうですか?』とかあからさまには言ってないけど、王妃様に手を回して近衛軍の執務棟関係の仕事をシェリルに回すかも。全く油断できない)と忌々しく考えていた。

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