バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

02

 神の意志に反して力を手に入れる〈悪使い〉であるシルヴィは、町の中では罪人扱いであるはずなのだが、周囲の人々が気づく様子はない。力を発揮して黒髪赤目の姿を晒さなければ、町の中で暮らしていくことは可能だろう。暴走の危険性はつきまとうが──シルヴィには当てはまりそうにない。

 〈悪〉の破壊衝動に共鳴したシルヴィは、それこそ自らの根底にある自我の基盤が揺るがなければ〈悪堕ち〉に成りさがることはないだろう。

「私は主の意志に従い、任務を遂行するだけだ。意図はない」

「教会のない村で、〈悪〉に怯える人間を助ける役目はないのか?」

「主の望むことではないからな」

 平然と言ってのける天使に、シルヴィの眉根が一気に距離を縮める。

 アンブシュールなど、ある程度の人口があり交通の便がある場所であれば、教会があったり、あるいは巡礼の聖職者が訪れる。そうであれば人々は〈天使〉の加護を受けることができるのだが、教会もなく聖職者の巡礼ルートにも入っていなければ〈悪使い〉に頼るしか道はない。

 主どころか天使、人間すら知っている、世界にはびこる格差は、創造者である主によってもたらされている。

 それが、シルヴィには気に食わない。とはいえ主に従うだけの天使に当たっても、なんら意味はない。

「……気に入らないな」

 苦々しく吐き捨てるだけにとどめ、シルヴィは頭の後ろに手をやった。指ですこうとした髪束はなく、おろしたままの髪は思いのほか短い。空振りしたような感覚を何度も味わっているが、シルヴィはいまだに短い髪に慣れることができていなかった。

しおり