Ⅺ
「違うわ、そうじゃなくてここをこうするの」
「あぁそうか、こうして…出来た!」
「全く、貴方って本当に不器用ね」
「違うよ、デイジーが器用すぎるんだ」
「ふふっ」
「はははっ」
「…ジーさん、デイジーさん、起きてください」
アイリスがデイジーの肩を揺らす。
(夢か…)
デイジーは立ち上がり、土を払った。
「どうしたの?」
「えっと、薪割りが終わったみたいなので呼びに来ました」
「ああ、ありがとうね」
デイジーが向かおうとすると、アイリスが腕をつかんだ。
「なにかしら?」
デイジーが問いかけても、無言のまま離さない。
「そろそろ離してくれないかしら?」
アイリスは何も答えない。
「言いたいことがあるならちゃんと言って」
何も答えない。
「お~い、アイリス~」
草をがさがさとかき分けながらロイが出てくる。
その後ろからアルヴァとアルヴィンも出てきた。
「え、あ、えっと…」
アイリスは必死に言葉を探した。
その様子を見ていたデイジーがポンとアイリスの頭を叩く。
「何でもないわ。薪割りが終わったみたいね。早く行きましょうか」
ロイたちはデイジーを連れて戻っていく。
アイリスは一人、その場に立ち尽くした。
(私何しているんだろう…どうしてデイジーさんを行かせちゃいけないと思ったのかしら)
アイリスは自分でも何がしたかったのか分からなかった。
ただ、直感的に行かせてはいけないような気がしたのだ。
「まぁいいか」
アイリスはロイたちが入っていった草むらに入っていった。
ロイたちがまき割をしていた場所に着くと、そこには真っ二つになった切り株が転がっていた。
「うーん、薪自体はこれでいいけど次からは下の切り株は切らないでね」
デイジーの優しい忠告に珍しくロイがしゅんとしている。
アイリスはその様子を見て思わず噴き出した。
「笑うなよ。君は斧を持ち上げることさえできなかったくせに」
ロイはアイリスに反撃する。
そこから口喧嘩が始まった。
「仲良いわね二人とも」
デイジーが笑いながら言う。
「「仲良くない」です!」
少し間が開いてアルヴァたちも笑い出した。
少し恥ずかしくなって二人は顔を隠す。
それもおかしくなって二人も笑い出す。
結局みんなして笑い合った。
「でも、見定めるための試練ってこんなもんでいいのか?」
ロイはデイジーに聞く。
「ええ、薪割りもできないような貧弱な人に任せるわけにいかないもの」
その言葉を聞いてアイリスは肩を落とした。
デイジーが慌てて訂正を入れる。
「別にアイリスのことを責めているわけじゃないのよ?貧弱な男の人っていう意味で言ったの」
「じゃあ、僕は大丈夫だな」
ロイは腰に手を当てる。
「加減もできないような人も駄目よ」
デイジーに諭されてロイは再びしゅんとする。
(こうやって見ると本当にただの子供に見えるのに…)
アイリスはそう思ったが、口には出さなかった。
口に出したらまた腹を攻撃されかねない。
「さて、薪割りに関してはパワー以外は大丈夫だから他のこともやってもらおうかしら」
デイジーは草むらを進み、家に戻る。
四人もそれに続いて行った。
四人が行き着いた先はアルヴァたちの家の台所だった。
「旅の途中で餓死なんてシャレにならないからね。料理ぐらいできないと」
デイジーは一通りの調理器具を用意しながらそう言った。
「ここは私に任せて」
アイリスはそういうと腕まくりをする。
実は料理はアイリスの得意分野なのだ。
家にいたときもよく作っていて、家族からも好評だった。
「う~ん、旅の保存食としてなら申し分ないけど、普通に食べるならちょっと塩が濃いかもしれないわね」
アイリスは家族の優しさを実感した。
「君は料理すらできないのか」
ロイが呆れたようにアイリスを見る。
反論しようとしたが、図星だったので何も言えなかった。
「料理なら僕が教えてあげるよ。僕料理得意だし」
アルヴィンが名乗りを上げる。
自分よりも年下の男の子に料理を教えてもらうのはいささか気が引けるが、確かに昨日の夕飯は美味しかったので、教わることにした。
「それじゃ、アイリスがアルヴィンに料理を教わっている間、ロイはこっちでアルヴァに勉強を教えてあげて」
「別にいいけど、それがどうして試練になるんだ?」
ロイはそう聞いた。
「あら、勉学も真面目にできないような人に息子は任せられないわ」
デイジーはそういってロイとアルヴァを部屋に連れて行った。
(なんかいいように使われてる気がする…)
ロイはそう思ったが、大人しくアルヴァに対し教鞭をとることにした。
「二人ともお疲れ様」
デイジーはアイリスとロイにコップを渡した。
中には昨日ロイが飲んだジュースが入っていた。
アイリスはそれを受け取って一気に飲み干す。
「ふぅ、生き返るようね」
ロイはジュースをじっと見つめて、一口だけ口にする。
少しだけ昨日と違う味がした気がして、コップをテーブルに置いた。
「ご飯ができたよ」
アルヴィンがお盆に料理を乗っけて台所から出てきた。
その日の夕食は昨日よりもおいしく感じた。
夕食をぺろりと平らげたアイリスはすぐに部屋に戻って眠ってしまった。
「あらあら、よほど疲れていたのね」
デイジーは眠ったアイリスに毛布を掛ける。
その後アルヴァとアルヴィンも自室に戻って眠りについた。
食卓にデイジーとロイが残る。
「ロイは寝ないの?」
デイジーは昨日の酒を用意しつつ、ロイに聞いた。
「ああ、君から真実を聞くまでは毎日こうしているつもりだからね」
ロイはデイジーの注いだ酒をこっそり取ろうとした。
すんでのところでデイジーにばれて離される。
代わりにあのジュースが出てきた。
「話すことなんてないわよ?」
デイジーは酒を飲みつつ言う。
「いや、君は隠し事をしている」
やけに決めつけるロイにデイジーは少し眉をひそめた。
「なぜそう思うの?」
「君、手の怪我はどうした」
ロイが指さす場所を見ると昨日の傷がなかった。
「傷が治るのが早いといってもそこまでは異常だ。もう一度聞く、君何か隠してるだろ」
ロイに問い詰められ、デイジーはあきらめたように話し出した。