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第一話  俺、異世界に召喚される

「勝手に召喚しておいて申し訳ありませんが、どうかこの国をお救いください」

 部屋でくつろいでいた時に、いきなり白い霧のような円が現れたかと思ったら、その円に吸い込まれた。

 そして、小学校の体育館ほどの広さがあり、魔方陣だの動物の頭蓋骨だのがたくさんある、薄暗くて怪しい広間のような場所に、俺は今なぜか裸でいる。状況がわからないまま、怪しい恰好をしたお爺さんになんだかよくわからない頼みごとをされている。よく見るとお爺さんと同じ格好をした男たちが11人いた。

「あの、状況がよくわからないのですが。あとなぜか裸ですみません。僕は変態ではないですよ」

 とりあえず大事なところを隠しながら今の状況を聞く。

「これは失礼しました。私たちの魔力では、勇者様の身に着けていた服や持ち物までは召喚できなかったようです。ちょうど勇者様のためにご用意した上等の装備がありますので、あちらの部屋でお着換えください」

 お爺さんが手を伸ばしたほうには扉があった。

 言われた通りに、別の部屋で用意されていた下着や布の服を着て、その上に軽いながらも頑丈そうな鎧に着替えたのち、またお爺さんに質問する。

「服を貸してもらってありがとうございます。それで、なんで僕はここにいるのですか?」
「端的に言うと、この国は今魔王軍に襲われていて非常に危険な状況なのです。そこで、この国を救ってくださる勇者様を異世界から召喚したわけでございます」

 いやいや、既に救うこと前提で話を進めるなよ。そんな危険そうなことを、はいそうですかと二つ返事で承諾するわけないだろ。俺はさっさと自分の部屋に戻らせてもらうぜ。

「僕を頼っていただいたことは光栄に思いますが、僕にも元の世界での生活がありますので、このお話は断らせていただきます」
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね。では残り少ない余生をあちらで楽しんでください」

 んっ? 今残り少ない余生って言ったな? どういうことだ?

「今、残り少ない余生って言われたように聞こえましたが、どういうことですか」
「勇者様は今やこちらの世界の魔力を体内に取りこまないと病気になってしまう体なのです。まあ、栄養不足で病気になってしまうようなものです。おそらく、そちらの世界ではどうやっても魔力は手に入らないと思いますよ」

 おいおい、冗談じゃない。ほとんど呪いの類じゃないか。まあ、こうなった以上はちょくちょく2つの世界を行き来して生活していくか。

「そういうことでしたら、定期的にこちらに顔は出しますが、いきなり国を救えって言われても困ってしまいます。おそらくあなた方のご希望には応えられないと思うのですが」
「いえ、なにもご自分で戦われなくても、あなた様のそのすばらしい召喚スキルをお使いいただければ、きっとこの国を救っていただけるはずです」

 俺のすばらしい召喚スキル? 何を言ってんだ、この爺さん。

「そのスキルとは何のことですか?」
「これは失礼しました。勇者様はこの世界のことは何もご存じないのでしたな。では、スキルチェックと唱えてみてください」

「はあ、スキルチェック」

 俺が唱えると同時に、目の前に半透明のウィンドウが現れた。なになに、スキル ガチャる だと?
 えっ? ガチャるってあのスマホゲーとかによくあるあれ?

 さらに詳しく見ていくと、スキル発動の呪文は ガチャる で1回500円、11回5000円、120回50000円という値段設定ということや、猛将ガチャ、軍師ガチャ、指導者ガチャ、発明家ガチャ、芸術家ガチャなど、これら以外にも何種類ものガチャがあることは分かったが、それ以上のことは分からなかった。

「どうでしょうか。もしよろしければ、今召喚していただけないでしょうか? この国にはもう一刻の猶予も残されていないのです」

 爺さんに泣きつかれる。しょうがない、よくわからないが5000円分回してみるか。とりあえずは猛将ガチャでいいか。

「ガチャる」

 俺が呪文を唱えると、俺の脳内に、裏向きの茶色い11枚のカードが現れ、1秒もしないうちにすべてのカードがめくれた。なにやらカードには、★N 名もなき槍兵 だの ★★HN 経験豊富な名もなき部隊長 だの ★N地元じゃ負けなしのチンピラ だのと書かれている。Nが9枚、HNが2枚ある。

 俺がふと視線を変えると目の前に11人の兵士がいた。

「おおっ11人も一度に召喚されるとはさすがは勇者様ですな。それに、そちらのお二人はなかなか優秀そうですな。しかし、正直に申し上げますと、私が思っていたような優れた兵士には見えませんな。そちらの9名は我が国の兵卒と大差ないですぞ」
「いえいえ、すぐにもっと優秀な兵士を召喚しますよ」

 残念がる爺さんを見て、少しかわいそうに思ってしまった。もう一回11連ガチャをすることにした。
「ガチャる」

 先ほどと違い、俺の脳内には強烈なまぶしい光が何色も点滅し、うるさい効果音が鳴り響いたのちに、裏向きの茶色い9枚のカードと、同じく裏向きの銀色のカードと虹色のカードが一枚ずつ現れた。

 これらもすぐにめくれていったが、虹色のカードの前で一瞬止まり、またさっきと同じ光と音の演出があった後、虹色のカードがめくれた。★★★★★UR アレクサンドロス と書いてある。えっ、アレクサンドロスってまさかあの有名なアレクサンドロスのこと?

 考えながら視線を変えると、新しく現れた11人の中で、とびきり異彩を放つ美女がいた。すごい巨乳ながらも太っているわけではなく、全体的な風貌は地中海の民族のようで、露出の多い鎧を着ている。なにより目立つのが、両目の瞳の色が違うことだ。いわゆるオッドアイというやつか。

 俺が彼女に見とれていると、爺さんが騒ぎ出した。
「おおお……すごすぎますぞ、勇者様。物理戦闘には疎い私ですら一目でこの方の戦闘力の高さは分かります。間違いなく、今この国にいるどの軍人よりも彼女は強い」

 まあ、俺の脳内だけとはいえ、あれだけ派手な演出があって出た、★★★★★URが仮に弱かったらもうお手上げだしね。おそらく、最上位か二番目のレアリティだろうし。いやー、彼女が強いらしくて良かった。

「これからよろしくお願いするよ」

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