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 ようやく【世界】から解放された十三番は、ため息を内心に押しとどめ、体の力を抜く。

 二人のやりとりを見守り、鼻を鳴らしていたカルムをなだめる気力もない。そもそも、馬を落ち着かせるために白骨の腕を出せば、また【世界】に止められるのは目に見えていた。

 甘えるカルムの額を背中で受け止めながら、十三番は【世界】の様子を窺う。

 落ち着きなく、そわそわと身にまとった布を触っているのは、居心地の悪さの現れだろうか。先刻までの発言は確かに感情的だったが、十代半ばの見目からすればむしろ年相応にも思える。

 ──と口に出せるほど、十三番は無謀ではなかった。

「それで……十三番はきちんと眠れたのか?」

 ごまかすように言った【世界】の苦し紛れな問いかけは、偶然にも十三番の思考を止めるのに十分な役割を果たした。

 意識の底に押しこめられた夢の記憶が、じわりと浮かびあがってくる。

 確かに体は休まったはずだが、寝覚めがよかったとは言いがたい。

「まぁ、眠れたとは思うが」

「思うが?」

「……夢見が悪かった」

「夢?」

 十三番の答えに対し、【世界】は数瞬おいて考える素振りを見せる。

「ここに来る前の記憶をなくしていくのなら、夢を見ても忘れそうなものだが……いや、そうとも限らないのか?」

 じろじろと十三番を観察しながら、【世界】は思いつくまま言葉を口にしているようだった。

 探究心と好奇心が混ざり合った視線を向けられ、十三番は思わず身を引く。その後ろで、頭を押されたカルムが不満げに鼻を鳴らした。

「見ればなにか分かるものなのか」

「分かったり、分からなかったりする。だが目視での観察は基本だよ。なにが変化し、変化していないのかを見極めることは、ね」

 すっかり元の調子を取り戻したらしい【世界】が饒舌に語る。

「ま、今回の十三番の場合は精神だとか、内面に関わるものだから、変化があったとしても表面化しにくいだろうがね」

「……つまり、この観察は無駄なんだな?」

「これから役に立つかもしれないだろう」

 なんでもないように言って、【世界】は笑う。そこに「観察される側への配慮」は微塵もない。

「ただ、【死神】は睡眠を強いるだろうね。過去の記憶を忘れるのは眠っている間だろうし、なにより眠りと目覚めは疑似的な死と再生だ。魔術に近づけば食事も必要なくなるし、多少の傷では死ななくなるが、十三番がいくら悪い夢を見ようと……眠りだけは避けられない」

 余計な代償を負ったね、と言った【世界】の表情は、複雑な内心が現れているようだった。

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