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『ラブラブ★タペワム』

「ツギクル……アナリティクスにアクセース!
接続完了っと!
それから、アクティブユーザーをかっくにーん!」

「ではでは、今日も元気にぃ~!
『S:I:R:E:N』! Initializing! Ready!」

「ん? むむむむむっ……なーんかヘンだなぁ。」

「ああっ! 不正パッチを使って、
謎を解こうとしてる悪い子はっけ~ん!
ねぇ、神楽! そっちでも確認できてる?」

「……ターゲット補足。
鎮圧執行システム、オンラインに切り替え……。
トリガーをオープン……。
クッキングブレインパラライザー射出準備完了……。
美琴、落ち着いて照準を定め対象を無力化してください。」

「おっけー! アタシにおまかせ~!
そんじゃ、クッキングブレインパラライザーはっしゃ~!
びびびびびぃ~! どっかーんっ!!!」

「……お見事です。
対象の沈黙を確認しました……。」

「ふぅ~! すっきりしたぁ!」

「鎮圧執行システム、オフライン……。
それでは、謎解きバトルモードに移行します……。」

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Title:『ラブラブ★タペワム』

「これが、いま流行りのラブラブ……タペワム?
 こんなので本当に効果あんのかな……。」

1ヶ月で劇的ダイエット!
効果がなければ全額返金!
お友達紹介キャンペーン実施中!
おひとり様ご紹介ごとに10万円プレゼント!
まずはお試しください!

そんな謳い文句につられた私の手元に届いたのは、
風邪薬を彷彿とさせるただのカプセルだった。

「ま……無駄に期待せずに試してみるか。」

月々の支払いは10万円。
有名海外セレブも御用達。
厚生労働省より正式に治療薬として認可。

本当なんだか嘘なんだか疑わしい文言が、
マニュアルにズラリと並んでいるけれど、
私にはどうしても痩せたい理由があった。

「お見合いパーティーまでに痩せないと、
 せっかく買ったドレスが着れなくなっちゃう……。
 それに……大企業の御曹司が来るって噂だから、
 本気で勝負しないと……。」

ダイエットと美容に給料の全てを注ぎ、
セレブ婚を望む友人達と臨む決戦の場。
私は高校からの親友である奈津美と恵子に
負けたくないという一心で、
この『ラブラブ★タペワム』に賭けたのだ。

「カプセルを飲んで、
 およそ2週間で効果が出るんだ……。
 で……特に何もしなくていいの?
 うーん……胡散臭いことこの上なしね。」

ぶつぶつと文句を零しつつ、
カプセルを口に放り込む。
だが――私が抱いていた疑念は、
たった1週間で消し飛んでしまった。

「……痩せてる。」

やつれることなく体重が減る。
その感激と実感は日を重ねるごとに増し、
私の体を愛されボディへと変化させてくれた。

しかし、更に数日経過した頃――。

「うぅっ……頭がクラクラする。」

私は強烈な空腹感と目眩に襲われ、
立っているのもやっとという状態になっていた。

「おぶっ……うぷっ。
 これ……まさかラブラブ★タペワムの副作用?」
吐き気と倦怠感が押し寄せる中、
私はある都市伝説を思い出していた。
それは、痩せる薬と称して渡されたのは、
胃の中で繁殖するゴキの卵だったという話だ。

「とにかく……お医者さんに行かなくちゃ。」
ふらつく足に力を入れ、最寄の大学病院へと急ぐ。
私は担当医にラブラブ★タペワムを服用したことを告げ、
ここ数日の状態を説明した。
瞬間――。

「おぼろぉっ! うげげぇっ!」
私は吐き気を堪えきれなくなり、
処置室の床に吐しゃ物を撒き散らした。

「ず……ずびばせん、ずっと……こんな調子で。」
涙と鼻水にまみれながら謝り、頭をさげる。
と、その時――私は自分の唇の端に、
紐のような物体がぶら下がっていることに気づいた。

「えっ? 何……?」

「キルキルキルゥゥゥ……。」
細長くて眼のない芋虫。
例えるならそんな形状の生物が呻き声をあげた。

「いやああぁっ! 先生っ! 先生!
 な……なんなんですか、これは!」

「ラブラブ★タペワムですね。」
「……へっ!?」
パニックに陥る私とは対照的に、
担当医がニコニコ顔で答える。

「厚労省が認可しているんで、
 最近、頻繁に見るんですよね。
 どうします? 切除されますか?」

「は……はい! ひゃやく! すぐに!」
汚れた衣服のままで、担当医にすがる。
すると、ベテランの風格をまとったその医師は、
ラブラブ★タペワムを手に取り、
残念そうに目をしばたかせた。

「一度、切除すると……今後二度と、
 ラブラブ★タペワムを服用できなくなりますが、
 それでも構いませんか?」

「……二度と?」

「ええ……。
 こいつは確かに不気味ですが人畜無害。
 寄生虫を使ったダイエットというのは、
 海外では珍しい話じゃあないんですよ?
 まぁ……月々の支払いのことも考えると、
 一般人には、なかなか厳しいですがね……。」

順調に痩せられたこと、
間近に迫っているパーティーのこと、
『二度と』という制約が私を悩ませる。

「さぁ、どうします?」

「切除……しません。」
担当医に聞かれ、
私は私のラブラブ★タペワムを手で包み込み――。

「おごふっ……おぶっ……ごぼえっ。」
飲み込んだ。
そして、支払いの問題を解決する為に
奈津美と恵子に電話をかけた。

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「……出題、完了。
正解者確認……。
脱落者確認……。
ユニークPuzzlerを確認。
テクニカルPuzzlerを確認。
それぞれにポイントを付与します……。」

「ねぇねぇ、神楽~!
ちょっぴり気になってたんだけど、
クッキングブレインパラライザーって
どんな効果があんの?」

「……仮想マグネトロンを用いた、
電波の一種である強力なノンコヒーレントマイクロ波を放出し、
対象Puzzlerにダメージを与えます……。」

「むむぅ? それって、つまりどういうこと?」

「……脳細胞を溶かして破壊します。」

「ひぇえ! Puzzlerのお脳だいじょぶかなぁ……。」

「……気に病む必要はありません。
不正やチートには代償がつきもの……。
Puzzlerも、そのことを理解しているはずです。
それでは……謎解きバトルモード終了します。
謎解き、お疲れ様でした。」

しおり