幕間 ~スーラの至福とあたふた~
(ひしっ………。)
迷宮の探索を終えての家路。
お姫さま抱っこをされているスーラは、レイクの胸元にくっついていた。
レイクの胸元を握りしめた上、ほっぺたをレイクの胸板(むないた)に当てている。
(ふるうぅ………。)
そしてほんのり溶けていた。
寮の部屋に戻っても、スーラはくっついたままだった。
(くぅ………。くぅ………。)
くっついたまま、穏やかな寝息を立てていた。
それはゆりかごにゆられて眠る赤子のようで、ひたすらに愛らしい。
(ひしっ………!)
それでもレイクに、べったりとくっついている。
おかげでレイクは動くに動けず、ベッドの上に座りっぱなしだ。
しかしまぁ。
「悪い気はしないよな」
レイクは手の位置を微妙にズラし、スーラの頭をやさしく撫(な)でた。
人に見えてもスライムなので、たぷたぷとした触感が手のひらに伝わってくる。
穏やかな気分になってきたレイクは、スーラと並んで眠りについた。
◆
チュン……チュンチュン。
雀と似た黄色い小鳥がさえずる早朝。
スーラは静かに目を覚まし、レイクの顔が目の前にあることに気がついた。
(?!?!?!)
頭の中はパニックを起こし、髪はみょーんっと逆立った。
ガバッと跳ね起き身を縮め、ぷるぷると震える。
(あさ………。ご主人さまと。ベッドで、おふたりでした………です。)
それがなにを意味しているのか、スーラは一応想像できる。
原始的なスライムは単独で増えることが多いが、知性ある高度なスライムは、交尾で増えることのほうが多い。
スーラは、知性があるほうだった。
もちろんイヤなわけではない。
大好きなご主人さまにされるなら、一向に構わない。
むしろ――。
(カアァ………!)
(ぶんぶんぶんっ!)
(ぶんぶんぶんっ!!)
熱くなってしまった顔を、左右に振って冷ました。
まったくイヤではないことと、恥ずかしくないことは繋がらない。
仮にイヤではなかろうと、恥ずかしいものは恥ずかしい!!
「んっ……」
そこでレイクの目が覚めた。
スーラはカチンと固まって、レイクの一挙一投足を見やる。
「おはよう、スーラ」
穏やかな笑みを、軽(かろ)やかなあいさつ。
しかし過敏状態のスーラには、悩殺級の一品だ。スライム殺しスマイルだ。
「顔赤くなってるけど……大丈夫?」
(こくこくこくっ!)
スーラは三回うなずいた。