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第1話

 それからしばらく峠を走っていると、コンビニの駐車場に3台ほど個性的なデザインのステッカーを貼った、いかにも古そうな車が止まっていた。
 どれも、40年ほど前のガソリン車だろうか。
 その車の前で、男一人と女二人が立って話し合っている。
 車の持ち主なのか?

 俺も飲み物とパンでも買おうかと思っていたので、その3台の左に駐車してコンビニの店内へと入った。
 青とオレンジの看板の「ユアニーズ雲風(くもかぜ)店」か……。 覚えておこう。
「いらっしゃいませ!」
 入ってすぐに、活気のある店員の声が聞こえてきた。
 俺はまず店内に入ってまずオレンジ色のカゴを取り、そこにコーラとソーセージパンを入れ、レジへと向かう。
「レジ袋は要りますか?」
「要ります」
「分かりました。 消費税、レジ袋代込で341円になります」
 俺はレジ袋に入れられたコーラとパンを取り、お釣りとレシートを貰って店を出る。
 お前のその活気は、高過ぎる値段設定から来るものなのか?
 そう思っていると―――――。

「おい。お前……さっき、ガソリン車乗ってたよな?」
 茶色に染めた髪、黒とピンクのジャージ。
 見た目は……たまに見かける、騒がしい馬鹿の連中の中に一人はいそうなタイプだ。
 追い越してきた奴の運転手か?
「確かに乗ってたが……」
「マジか! 俺は霧海翔(きりうみ かける)、この雲風峠の走り屋のチームのリーダーだ!」
 走り屋のチーム?
 興味はあるが、俺はお前の様な奴の仲間にはなりたくない。
「燃料馬鹿」という点なら同じだが、こいつの場合はガラが悪すぎると判断したからだ。
「すまないが、俺はそんなものに入ろうとは思っていない。 別の奴でも誘ってくれないか」
「……仕方ねえな」
 ―――――諦めの早い奴だ。
 こんな"リーダー"、話すどころか、視線を寄せる事すらも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
 俺は無言で車内へと戻り、逃げるようにして道へと戻った。
 その際に窓越しに見た、彼の凹んでいる姿で笑いそうになってしまったが、気にしすぎてはいけない。
 少しの油断が、事故に繋がりかねないためだ。
 ただでさえ道が狭いのに、わき見のせいではみ出してしまえば、事故は避けられないだろう。

 その後、峠の先の施設にある駐車場―――――。

 以前より狭くなっていたスペースに、車を停めた。
燃料馬鹿(ガソリン車乗り)はとっとと去れ』、という暗示なのだろうか?

 まず休憩のできる場所まで歩き、先程のコンビニで買ったパンをレジ袋から取り出した。
 ホットドッグに近い生地の中央に太いソーセージを挟み、その上に辛子マヨネーズをかけて焼いたものだ。
 これが普通に美味い。
 皮の厚いソーセージの食感と、少なめの辛子がアクセントのマヨネーズが絡み合う。
 パンも悪くない。
 流石は税抜151円。
 ―――――いや、高いか。
 口内の食べカスをコーラで流すと、俺は車にゴミを持ち帰る。

 肉料理は肉料理でも、注文で何の肉か、はたまた植物由来の代替肉にも変えられたりするのが普通になってきていて、車社会という言葉さえも、「軽サイズの電気自動車とその利用者のために整備された社会」と言い換えられてもおかしくないこの時代。
 ガソリン車で移動して、今では窮屈とも言える駐車スペースに停めて、車内でコーラ片手にパンを食う俺のような人間は、そんな現代では「時代遅れ」とも言えよう。

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