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第一章 港町署 鑑識課 1


 大打撃は港町警察署捜査2課の刑事だ。姓は大打、名前は撃と一文字だ。
 ここ港町警察署で彼は、捜査2課は主に殺人事件を担当している。年齢は37歳、キャリアではない。完全現場叩き上げの筋金入りのデカだ。
 昔ながらに足で犯行現場や立ち回り先をしつこく聞き込み歩き回り、容疑者を絞り込んでいく。
 港町署では殺人という事件の性質上捜査1課、3課などと捜査上刑事は連携を組むことも多い。それ以外の場合も単独行動は取らず、相棒と同行捜査をする事がここでの捜査の基本となる。それは刑事自身の安全を第一に考え、同時に捜査の見落としを防いでいくなどの配慮から定められている署の規定だ。
 しかし大打は隙があれば。パチンコ屋に捜査対象を集中させ、夜はキャバレー、飲み屋に捜査を移行したがる性格のため、同行捜査というものを常日ごろから煩わしいと思っている。
 そういった大打の性格を見抜いている署長は彼の相棒に生真面目なキャリアの女性警察官を
当てた。
それが、桜木優美子だ。

 彼女は港町署に赴任し、半年ほど前に刑事課に配属され、先月大打の元に付けられた。彼から捜査の基本手順を現場で研修し、具体的な経験を積んでいくべく殺人事件の同行捜査に当たれと言うのが業務命令だ。
 というのは、表向きで署長からすれば品行方正な生真面目なキャリア出の新人を大打のお目付け役に当てて少しでも彼を更生させようという腹だった。そんな役どころを期待しての人事である事は署の刑事みんなが感づいている。
 だから、周りも口を出さない。さぼり癖の付いたベテラン刑事に働いてもらおうという雰囲気が出来上がっている。周囲の同情を惹けない今の大打にとってはこの桜木という何も分っていない小娘巡査の素人くさいマニュアル問答を終始聞かされるのが、煩わしくて仕方なかった。
しかし署長の人事にまで反抗することは、彼が公僕である以上無論出来ない相談だ。そう悟った大打はどうせ誰と組んでも煩わしさは変わらないとここは割り切る事にした。
 昨日の死体発見の初動捜査にしてもそうだ。
 大打は自分を殺人現場に誘導していくタクシーの運ちゃん程度にしか桜木は役に立たないと感じていたので、彼女の対応の遅さ、依存心の強さにカチキレたのだ。
 最も桜木巡査は非番であり、署の規定に従い、迅速に通報のあった殺害現場に急行した事は事実であり、大打があれこれ言う筋合いの話では無い事は明らかなのだが。
 捜査一課の自分のデスクのイスに座って、退屈そうにインターネットの驚異の画像を見ていた大打に声がかかった。鑑識課が呼んでいるらしい。
「検死の結果が出たんだって……」

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