序章 2
序章 2
子供の幸せって言えばテストの百点、運動会の一等賞より実はクラスの女の子からこっそりもらったバレンタインのチョコの味だ!
どんなにチョコが小さくたってそう簡単に舐め切ってやるものか、てやんでぇって感じの最高の味だぜ。
てやんでぇって言えば知る人ぞ知る『キャッ党忍伝てやんでえ』だ。
未だにコミケでは少数の熱烈なファンによってファンクラブの会報が定期発行され続けてい
ると言う熱烈なアニメファンの残る作品だ。このジャンル熱心な女性サークルが多いぞ。『ミスター味っ子』アニメ版『悪魔くん』も右に同じだ。
同じといったら、殺害現場のこの陰惨な雰囲気は、どこに死体が転がっていてもみんな同じだ。
殺人現場では陰惨な雰囲気から目を背けずに対峙しなければいけないのが、我々殺人課の刑事の勤めであり使命だ。
そう心の中で呟きながら、大打は今立っている下鴨教授の研究室の中を見渡しながら、自分の上着のポケットに手を入れ、小さなガラ携を取り出した。
それを操作し、相棒の桜木の番号を押した。
「おい桜木か、何をしているんだ? 鑑識が犯行現場をめちゃめちゃに破壊して、黄色いテープをパーティ会場のように張り巡らし、チョークで床に色々面白落書きを描きまくってしまう前に、何としてもお前は現場にたどり着いて、必要な証拠品を先にチョッパるのが刑事課の仕事の最優先事項だと常日頃から口を酸っぱく教えているだろうが!」
開口一斉、そう叫んだが相手はスマホを耳に当てる前で、ろくに聞こえていなかったようだ。
「あっ大打刑事、どこ行ってたんですかぁ? 何回もお呼びしていたんですよ。今、なんか叫んでましたか?」
「叫んでない!! 呟いたんだ、小さな声でな。よく聞け、俺の質問に答えろ!!」
「えっ? 今なんか私に質問したんですか?」
そう問い返されて、大打は一瞬たじろいだ。とぼけた女だ。
「あっあ――――そうだ、今日の朝食は何食べた?」
一拍間が空いて、電話口の女性は答えた。
「本当に、そんな事聞こうと思ったんですか?」
「馬鹿言うな。お前がトカゲを食おうが、可愛いペットの猫ちゃんに口移しでキャットフード
を食べてようが、知った事じゃない。聞いて欲しそうだったんで、話を合わせてやったんだ」
「そ、そうなんですか。気を使っていただいてすみません」
「わかりゃぁ良いんだ。分かりゃぁな」
電話口の女性警官は桜木優美子巡査。彼女は、大打と同じ捜査一課の女性警官だ。
刑事課に配属されてまだ数カ月だが、刑事課の指導は大打が行う様に課長から厳命を受けている。今回の事件は優美子巡査が彼の部下として捜査に当たる初めてのヤマだ。
この日は彼女は2週間ぶりの非番だった。
しかし、大打より一足早く署からの緊急呼び出し連絡を受けて彼に電話したのは彼女の方からだった。それに対し大打の携帯からは、電源が入っていないというメッセージが流れ続けていた。時間を空けて嫌がられない程度に繰り返し根気よく大打刑事に呼び出しを続けていたのは彼女の方からだった。
そこにやっと大打から連絡が戻って来たのだ。
「すいません、私今日は非番だったんです。急に呼び出しがあって、すぐに着替えて現場に急行しました」
「遅い! 遅い! 遅い! ペッ! ペッ! のろまな亀か、おまえは。
何をしてたか当ててやろうか。